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第3章 もとをただせば
性癖
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「ああ、それじゃあ隣の騒動止めに行かないといけないんで!」
菰田との交渉が成立したアイシャは立ち上がると誠の手を引いて管理部の部屋を出た。
廊下に出たアイシャと誠の前にぼんやりとたたずむのはグレゴリウス16世だった。そのしょんぼりとした瞳がアイシャと誠に注がれる。
「わう」
「ったく!馬鹿熊が!」
悲しげにつぶやくグレゴリウス16世に罵声が浴びせられる。驚いて振り返るグレゴリウス16世だが、明らかにランからしつけられていて、好戦的な表情のかなめを見ても黙ってうなだれている。
「誰のせいだ?え?」
誠はグレゴリウス16世の後ろを覗き込むと、水のなみなみと入れられたバケツを両手に持っているかなめがいた。
「なに、かなめちゃんすごく古典的な罰ゲームね」
そう言いながらかなめを携帯端末で撮影しようとしたアイシャの顔面にかなめの蹴りが炸裂する。
「おい、写真撮ったら殺すからな!」
いつものタレ目が殺意を帯びていることに気づき、誠は愛想笑いを浮かべながら詰め所の扉を開く。
「おう!ご苦労さん」
明石はそう言いながら二人を迎えた。ひしゃげた椅子が一つ、その隣には折れた竹刀が放置されている。
「ランちゃんまたやったの?」
「おい、アイシャ。上官にちゃん付けか?」
ロナルドの不在を良い事に彼の席を占領して端末を叩いていたランが視線をアイシャに向ける。
「いえいえ、中佐殿の判断は実に的確であります」
完全に舐めきった口調でランをからかうアイシャだがランはそうやすやすと乗るわけも無く、すぐに視線を端末の画面に移した。
「楽しみだね!どれに決まるか!」
ニコニコ笑いながら吉田の向かいの席に座ってシャムはアンケート用紙の裏に漫画を書いている。見た目はランより少し年上、中身は小学生と言うシャムだが書いている戦隊ヒーローの絵は躍動感のある見事なものだった。
「俺はどれでもいいよ。でもさあ、誰が脚本書く……アイシャか?」
足を机の上に投げ出してぼんやりと天井を眺めていた吉田の視線がアイシャに向かう。明らかにアイシャは自分が書くんだ!と言うように胸をはっていた。
「僕は出ないぞ」
ぼそりとつぶやくのはかえでだった。
「えー!何に決まってもかえでちゃんが出てくれないと困っちゃうじゃない」
第三小隊の机の一群でポツリとつぶやいたかえでにアイシャがすがり付いていく。アイシャに身体を擦り付けられるとかえでは顔を赤らめて下を向いてしまう。
「困るもなにもこれは職務とは関係が無いじゃないか!」
「それはちゃうやろ?」
そう言ったのは黙って静観を決め込んでいた明石だった。こういうことには口を出さないだろうと言う上官の一言にかえでが顔を上げて明石を見る。
「何も暴れることだけがウチ等の仕事やないで。日ごろお世話になっとる町の方々に感謝してみせる。これも重要な任務や」
「そうそう、それもお仕事なんだよー」
風船ガムを膨らませながら吉田が投げやりに言葉を継いだ。
「ですが、僕は……」
「大丈夫!どのシリーズでも私がかえでちゃんのかっこよく見える見せ場を作ってあげるから。そしたらかなめちゃんも喜ぶわよ!」
「喜ばねえよ!」
かなめが半開きの扉から顔を出す。だが次の瞬間にはその額にランの投げたボールペンがぶつかった。
「立たされ坊主はそのまま立ってろ」
しぶしぶかなめは顔を引っ込めて、足で器用に扉を閉めた。だが一人、まとわり付くアイシャの身体をがっちりと握り締めているかえでだけが晴れやかな表情で何も無い中空を見つめていた。
「お姉さま!かなめお姉さま!僕はやりますよ!お姉さま!」
まず誠が、続いてラン、カウラ、明石、吉田。次々と恍惚の表情を浮かべるかえでに気づく。
「大丈夫か?嵯峨?」
「かえで様……」
明石が不思議そうに恍惚の表情のかえでに声を掛けた。渡辺は心配そうにかえでを見上げる。
「やります!なんでも!はい!」
かえではそう言うとアイシャを抱擁した。
「あ!えー!ちょっと!離してってば!」
抱きしめられて顔を寄せてくるかえでを避けながらアイシャが叫ぶが、彼女を助ける趣味人は部隊にいないことを誠は知っていた。部屋の中の一同は黙ってそのまま押し倒されそうになるアイシャに心で手を合わせていた。
菰田との交渉が成立したアイシャは立ち上がると誠の手を引いて管理部の部屋を出た。
廊下に出たアイシャと誠の前にぼんやりとたたずむのはグレゴリウス16世だった。そのしょんぼりとした瞳がアイシャと誠に注がれる。
「わう」
「ったく!馬鹿熊が!」
悲しげにつぶやくグレゴリウス16世に罵声が浴びせられる。驚いて振り返るグレゴリウス16世だが、明らかにランからしつけられていて、好戦的な表情のかなめを見ても黙ってうなだれている。
「誰のせいだ?え?」
誠はグレゴリウス16世の後ろを覗き込むと、水のなみなみと入れられたバケツを両手に持っているかなめがいた。
「なに、かなめちゃんすごく古典的な罰ゲームね」
そう言いながらかなめを携帯端末で撮影しようとしたアイシャの顔面にかなめの蹴りが炸裂する。
「おい、写真撮ったら殺すからな!」
いつものタレ目が殺意を帯びていることに気づき、誠は愛想笑いを浮かべながら詰め所の扉を開く。
「おう!ご苦労さん」
明石はそう言いながら二人を迎えた。ひしゃげた椅子が一つ、その隣には折れた竹刀が放置されている。
「ランちゃんまたやったの?」
「おい、アイシャ。上官にちゃん付けか?」
ロナルドの不在を良い事に彼の席を占領して端末を叩いていたランが視線をアイシャに向ける。
「いえいえ、中佐殿の判断は実に的確であります」
完全に舐めきった口調でランをからかうアイシャだがランはそうやすやすと乗るわけも無く、すぐに視線を端末の画面に移した。
「楽しみだね!どれに決まるか!」
ニコニコ笑いながら吉田の向かいの席に座ってシャムはアンケート用紙の裏に漫画を書いている。見た目はランより少し年上、中身は小学生と言うシャムだが書いている戦隊ヒーローの絵は躍動感のある見事なものだった。
「俺はどれでもいいよ。でもさあ、誰が脚本書く……アイシャか?」
足を机の上に投げ出してぼんやりと天井を眺めていた吉田の視線がアイシャに向かう。明らかにアイシャは自分が書くんだ!と言うように胸をはっていた。
「僕は出ないぞ」
ぼそりとつぶやくのはかえでだった。
「えー!何に決まってもかえでちゃんが出てくれないと困っちゃうじゃない」
第三小隊の机の一群でポツリとつぶやいたかえでにアイシャがすがり付いていく。アイシャに身体を擦り付けられるとかえでは顔を赤らめて下を向いてしまう。
「困るもなにもこれは職務とは関係が無いじゃないか!」
「それはちゃうやろ?」
そう言ったのは黙って静観を決め込んでいた明石だった。こういうことには口を出さないだろうと言う上官の一言にかえでが顔を上げて明石を見る。
「何も暴れることだけがウチ等の仕事やないで。日ごろお世話になっとる町の方々に感謝してみせる。これも重要な任務や」
「そうそう、それもお仕事なんだよー」
風船ガムを膨らませながら吉田が投げやりに言葉を継いだ。
「ですが、僕は……」
「大丈夫!どのシリーズでも私がかえでちゃんのかっこよく見える見せ場を作ってあげるから。そしたらかなめちゃんも喜ぶわよ!」
「喜ばねえよ!」
かなめが半開きの扉から顔を出す。だが次の瞬間にはその額にランの投げたボールペンがぶつかった。
「立たされ坊主はそのまま立ってろ」
しぶしぶかなめは顔を引っ込めて、足で器用に扉を閉めた。だが一人、まとわり付くアイシャの身体をがっちりと握り締めているかえでだけが晴れやかな表情で何も無い中空を見つめていた。
「お姉さま!かなめお姉さま!僕はやりますよ!お姉さま!」
まず誠が、続いてラン、カウラ、明石、吉田。次々と恍惚の表情を浮かべるかえでに気づく。
「大丈夫か?嵯峨?」
「かえで様……」
明石が不思議そうに恍惚の表情のかえでに声を掛けた。渡辺は心配そうにかえでを見上げる。
「やります!なんでも!はい!」
かえではそう言うとアイシャを抱擁した。
「あ!えー!ちょっと!離してってば!」
抱きしめられて顔を寄せてくるかえでを避けながらアイシャが叫ぶが、彼女を助ける趣味人は部隊にいないことを誠は知っていた。部屋の中の一同は黙ってそのまま押し倒されそうになるアイシャに心で手を合わせていた。
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