482 / 1,505
第35章 宴会
いつものように
しおりを挟む
「これは……?」
しばらく絵を見つめていたカウラの表情が硬くなった。それを見ていたアイシャがにんまりと笑う。
「アイシャが作っていたゲームのキャラに似てるな。目元が」
カウラの一言に誠は冷や汗が流れ出すのを感じていた。恐れていた指摘。にんまりとかなめとアイシャが笑っている。
「ああ、これって以前、誠ちゃんに頼んで描いてもらったエロゲのヒロインでしょ?」
アイシャの言葉にカウラが固まる。それを見て我が意を得たりとかなめは笑う。
「クラウゼ。そいつはどういうキャラクターなんだ?」
カウラの声が震えている。さすがのアイシャも自分の言葉にかなり神経質に反応しようとしているカウラを見て自分の軽い口を呪っているような表情を浮かべる。
「ええと、そのー……」
「いい。私は好奇心で聞いているだけだ。別にそれほど深く考える必要は無い」
カウラは明らかに作った笑顔でアイシャを見つめる。とても好奇心で聞いているとは言えない顔がそこにはあった。
誠ははらはらしながら返答に窮しているアイシャを見つめた。
「あれってアタシに『こんなエロゲはこれまでに無いわよ!』とか言ってきた奴じゃなかったか?高校生のうだつのあがらない主人公が、女魔族に自分が魔王の魂を持っていることを告げられて……」
かなめはたぶんデバックか何かを頼まれたんだろう。したり顔で話を続けようとする。
「ちょっとたんま!お願い!勘弁して!薫さんもいるんだから!」
「え?私は別にいいわよ。誠も結構そう言うゲームやってたわよねえ」
アイシャが慌てふためく。そんな状況を母、薫はうれしそうに見ている。誠はエロゲー収集についてはばれているだろうと思いながらも大っぴらに言われると誠は恥ずかしさでうつむいた。かなめはここぞとばかりにアイシャと誠をいじるべくさらに何を言おうかと考えをめぐらす。
「それは興味深いな。その女魔族が私……で?」
アイシャに聞くだけ無駄だと思ったようにカウラが今度はかなめに顔を向ける。かなめは明らかに誠を困らせようという顔をして話をつづけた。
「まあ最初はSの香りが微塵も無い普通の高校生の主人公が、このどう見ても顔はカウラと言うヒロインのドMな魔族に手ほどきを受けて立派な……」
「あー!あー!聞こえない!」
アイシャが叫ぶ。誠はただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「つまり……そのマゾヒストの魔族のイメージがこいつの頭の中にはあるわけだ……しかもカウラの顔で。ああ、そう言えばあの魔族は胸がでかかったなあ」
誠はカウラの軽蔑するような視線が自分に突き刺さるのをひしひしと感じていた。誰が見ていようが関係なく携帯端末でエロゲーをはじめるアイシャ。彼女に伝授されそう言う系統のエロゲがどう展開するのかカウラも知り尽くしていた。しかもアイシャの趣味に男性向け、女性向けと言うくくりは関係が無いものだった。
「ああ、しかもヒロインの登場場面は全裸じゃなかったっけ?あれも全部誠が描いたんだよなあ」
「へえ、そうなんだ」
カウラの表情が次第に凍り付いていく。画面では他人事という安心感を前面に押し出しているようないい顔のランが映っている。
「さ!プレゼントは片付けましょ!食事を楽しまないと。ねえ、かなめちゃんも雰囲気を変えて……そうだ!ケーキを切りましょうか?あ?ナイフが無い。それなら私が……」
アイシャは慌てふためいてしゃべり続ける。だが、カウラの鋭い視線が立ち上がろうとするアイシャに向かう。
「逃げる気か?」
低音。カウラの声としては珍しいほど低い声が響いてアイシャはそのまま椅子から動けなくなった。
「でも……アイシャさんが理想の女性を描けばいいのよって言ってましたから……」
ポツリとつぶやいた誠の一言。
それが場の空気を一気に変える事になった。カウラの頬が一気に朱に染まり、それまでびんびん感じられていた殺気が空気が抜けた風船のようにしぼんでいく。一方で舌打ちでもしそうな苦い表情を浮かべていたのはかなめだった。
「そうよ……ねえ、あくまで理想だから。フィクションだから」
「誠の理想はベルガー大尉なの?ちょっと望みが高すぎない」
アイシャは必死にごまかそうとする。一方母、薫はうれしそうにしている。誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。
『落ちが付いたところで……良いか?』
ようやく切り出せると言う感じでランが口を開く。アイシャはとりあえず気を静めようとグラスのスパーリングワインを飲み干す。
「シャムちゃんの歓迎でしょ?まあこういう時は……」
アイシャの一言でしばらく呆けていたカウラが我に返るのが誠から見てもおかしかった。
「シャムの野菜が手に入るならいいんじゃないのか?薫さん、欲しい野菜は?」
「ええと、クワイはまだ買ってないでしょ。次にレンコンも無い。ごぼうはちょっと足りないわね」
ドレス姿のカウラに声をかけられて驚いたように薫は足りない野菜を数え始める。
『ああ、それなら後で一覧をメールしてくれねーかな。シャムの猟友会のつてや隊長の持ち込む食材なんかに当てはまるのがあるようなら用意しとくから』
「良いんですの?」
薫はしばらく小さい子供にしか見えないランを見つめる。じっと薫に見つめられて困ったような表情でランはおずおずとうなづいた。
「じゃあこれくらいで良いでしょ?切りますよー」
『おい……それ』
続いて何かを言おうとしたランを無視してアイシャは通信を切る。まるで何かを隠そうとしているような彼女の表情にカウラは何かの疑いを持った視線を浴びせ続けた。
しばらく絵を見つめていたカウラの表情が硬くなった。それを見ていたアイシャがにんまりと笑う。
「アイシャが作っていたゲームのキャラに似てるな。目元が」
カウラの一言に誠は冷や汗が流れ出すのを感じていた。恐れていた指摘。にんまりとかなめとアイシャが笑っている。
「ああ、これって以前、誠ちゃんに頼んで描いてもらったエロゲのヒロインでしょ?」
アイシャの言葉にカウラが固まる。それを見て我が意を得たりとかなめは笑う。
「クラウゼ。そいつはどういうキャラクターなんだ?」
カウラの声が震えている。さすがのアイシャも自分の言葉にかなり神経質に反応しようとしているカウラを見て自分の軽い口を呪っているような表情を浮かべる。
「ええと、そのー……」
「いい。私は好奇心で聞いているだけだ。別にそれほど深く考える必要は無い」
カウラは明らかに作った笑顔でアイシャを見つめる。とても好奇心で聞いているとは言えない顔がそこにはあった。
誠ははらはらしながら返答に窮しているアイシャを見つめた。
「あれってアタシに『こんなエロゲはこれまでに無いわよ!』とか言ってきた奴じゃなかったか?高校生のうだつのあがらない主人公が、女魔族に自分が魔王の魂を持っていることを告げられて……」
かなめはたぶんデバックか何かを頼まれたんだろう。したり顔で話を続けようとする。
「ちょっとたんま!お願い!勘弁して!薫さんもいるんだから!」
「え?私は別にいいわよ。誠も結構そう言うゲームやってたわよねえ」
アイシャが慌てふためく。そんな状況を母、薫はうれしそうに見ている。誠はエロゲー収集についてはばれているだろうと思いながらも大っぴらに言われると誠は恥ずかしさでうつむいた。かなめはここぞとばかりにアイシャと誠をいじるべくさらに何を言おうかと考えをめぐらす。
「それは興味深いな。その女魔族が私……で?」
アイシャに聞くだけ無駄だと思ったようにカウラが今度はかなめに顔を向ける。かなめは明らかに誠を困らせようという顔をして話をつづけた。
「まあ最初はSの香りが微塵も無い普通の高校生の主人公が、このどう見ても顔はカウラと言うヒロインのドMな魔族に手ほどきを受けて立派な……」
「あー!あー!聞こえない!」
アイシャが叫ぶ。誠はただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「つまり……そのマゾヒストの魔族のイメージがこいつの頭の中にはあるわけだ……しかもカウラの顔で。ああ、そう言えばあの魔族は胸がでかかったなあ」
誠はカウラの軽蔑するような視線が自分に突き刺さるのをひしひしと感じていた。誰が見ていようが関係なく携帯端末でエロゲーをはじめるアイシャ。彼女に伝授されそう言う系統のエロゲがどう展開するのかカウラも知り尽くしていた。しかもアイシャの趣味に男性向け、女性向けと言うくくりは関係が無いものだった。
「ああ、しかもヒロインの登場場面は全裸じゃなかったっけ?あれも全部誠が描いたんだよなあ」
「へえ、そうなんだ」
カウラの表情が次第に凍り付いていく。画面では他人事という安心感を前面に押し出しているようないい顔のランが映っている。
「さ!プレゼントは片付けましょ!食事を楽しまないと。ねえ、かなめちゃんも雰囲気を変えて……そうだ!ケーキを切りましょうか?あ?ナイフが無い。それなら私が……」
アイシャは慌てふためいてしゃべり続ける。だが、カウラの鋭い視線が立ち上がろうとするアイシャに向かう。
「逃げる気か?」
低音。カウラの声としては珍しいほど低い声が響いてアイシャはそのまま椅子から動けなくなった。
「でも……アイシャさんが理想の女性を描けばいいのよって言ってましたから……」
ポツリとつぶやいた誠の一言。
それが場の空気を一気に変える事になった。カウラの頬が一気に朱に染まり、それまでびんびん感じられていた殺気が空気が抜けた風船のようにしぼんでいく。一方で舌打ちでもしそうな苦い表情を浮かべていたのはかなめだった。
「そうよ……ねえ、あくまで理想だから。フィクションだから」
「誠の理想はベルガー大尉なの?ちょっと望みが高すぎない」
アイシャは必死にごまかそうとする。一方母、薫はうれしそうにしている。誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。
『落ちが付いたところで……良いか?』
ようやく切り出せると言う感じでランが口を開く。アイシャはとりあえず気を静めようとグラスのスパーリングワインを飲み干す。
「シャムちゃんの歓迎でしょ?まあこういう時は……」
アイシャの一言でしばらく呆けていたカウラが我に返るのが誠から見てもおかしかった。
「シャムの野菜が手に入るならいいんじゃないのか?薫さん、欲しい野菜は?」
「ええと、クワイはまだ買ってないでしょ。次にレンコンも無い。ごぼうはちょっと足りないわね」
ドレス姿のカウラに声をかけられて驚いたように薫は足りない野菜を数え始める。
『ああ、それなら後で一覧をメールしてくれねーかな。シャムの猟友会のつてや隊長の持ち込む食材なんかに当てはまるのがあるようなら用意しとくから』
「良いんですの?」
薫はしばらく小さい子供にしか見えないランを見つめる。じっと薫に見つめられて困ったような表情でランはおずおずとうなづいた。
「じゃあこれくらいで良いでしょ?切りますよー」
『おい……それ』
続いて何かを言おうとしたランを無視してアイシャは通信を切る。まるで何かを隠そうとしているような彼女の表情にカウラは何かの疑いを持った視線を浴びせ続けた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる