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第30章 朝
朝
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誠は息苦しさで目を覚ました。そしてそのまま思い切り腹筋でもするように起き上がる。
「おう!起きたか」
ベッドの隣には手を引っ込めてうれしそうな顔をしているかなめが立っている。起きる寸前の感触からして誠の鼻と口を押さえて呼吸が出来ないようにした感じがした。
「死んだらどうするんですか!」
「死んでないじゃん」
そう言うとそのままかなめは誠の机の上に置かれたリボンの巻かれた平たい箱に目を向ける。すぐに誠は手を伸ばそうとするがかなめはただにそれを珍しそうに見ているだけだった。
「オメエ器用だよな。こんなものまで用意していたのかよ」
感心したように頷くかなめ。誠はとりあえずベッドから起き出すと布団を直す。
「着替えますから」
「そう」
かなめはまるで誠の言葉を聞かずにただじっと平たい箱を見つめていた。中にはカウラのイラストが額に入ったものがある。
「着替えるんです」
「勝手にすれば?」
相変わらずかなめは出て行く様子がない。誠は頭を掻きながら箱から目を離さないかなめに何を言うべきかしばらく考えた。
「かなめちゃん!何やってるの!」
明らかに襖の外で様子を伺っていたらしいアイシャが飛び出してきてかなめの腕を引っ張る。突然のアイシャの登場にかなめは明らかに驚きながら抵抗する。
「おいおい!アタシは何もしてねえぞ!」
「十分やったじゃないの!誠ちゃんの口をふさいだりとか」
アイシャの言葉にかなめは抵抗も出来ずにずるずると引っ張られていく。誠は苦笑いを浮かべながら二人を見送る。そして襖が閉められたのを確認すると、さっさとパジャマを脱ぎ、たんすの前に立った。そこで少し考えた。
「一応……誕生日……か……」
カウラの誕生日であるクリスマスイブ。いつもの紺のセーターと言うわけにも行かないような妙に晴れ晴れしい気分が感じられる。だが、誠はおしゃれに金をかけたことは一度もなかった。当然それらしいと思えるような服は持っているわけもない。
「まあ、いいか」
そう言うと誠はすばやくたんすの奥の緑色のセーターに手を伸ばした。本当になんとなく、カウラの髪の色に連想した色のセーターに満足するといつものジーンズ、いつもの下着、いつものシャツを着てセーターを着る。
「なんだかなあ」
鏡もない部屋。誠はただ自分に呆れながら襖を開けようとする。そして部屋の机の上の白い箱を見た後自分でも気持ち悪い笑顔を浮かべているだろうと想像しながら階段に向かった。
階段を途中まで降りると、そこには緑色のポニーテールが動くのが見えた。
「おはようございます、ベルガーさん」
気を抜いているときに突然声をかけられて一瞬怯んだカウラだが、いつもの無表情を取り戻すと静かに誠を見上げた。
「遅いな。実家だと思ってたるんでいるんじゃないのか?」
カウラのいつものぶっきらぼうな態度に誠は苦笑いを浮かべる。シャンプーの香りがカウラから漂うのは母の朝稽古に付き合って流れた汗を流したからなのだろう。
そのまま台所に向かうカウラについていくと、すでに朝食の準備をほとんど済ませた薫が笑顔で誠を迎えた。
「おはよう。眠そうね」
「ああ、そうだね」
母の声を聞きながら誠はすでに自分用の箸を握り締めて黙って座っているかなめを見つけた。そんなかな目の隣にアイシャがあきれ果てた顔で立つ。
「かなめちゃん。ソースを冷蔵庫から出すとか、醤油をそこの調味料入れから取るとか。手伝うこと色々あるんじゃないの?」
アイシャはそう言いながら薫から味噌汁を受け取って並べている。かなめは苦笑いを浮かべながら黙って座っている。
「はい、カウラちゃん」
そう言ってアイシャがジャガイモが水面から飛び出すほどの具沢山な味噌汁を席に着こうとしたカウラに渡す。
「気が利くな」
カウラの言葉にアイシャは当然のように今度は炊飯器を開けてご飯を盛り始めた薫の手伝いを続ける。
「おいおい、慣れない事してんじゃねえよ。いつもは寮の料理もろくにしていないって言うのによう」
ふてくされるかなめだが、アイシャはにやりと笑うだけでそのまま今度はご飯を配り始める。
「私が手伝うことは無いのか?」
「いいのよ、ベルガーさんは。それより誠に何かしてもらうことは無いかしら」
娘が増えたなどと喜んでいた母の様子に、ただ弱ったような笑みしか誠は浮かべることが出来なかった。
「ああ、海苔が切れたっておっしゃってましたよね?曹長、取れ」
突然調子を変えてアイシャは命令口調になる。つぼに入って噴出したかなめを無視して誠はそのままガス台の上の戸棚に手を伸ばす。一応、186cmの長身である。すぐに焼き海苔の袋を見つけて隣に立っていたカウラに手渡した。
「じゃあ頂きましょうか」
「母さん、焼き海苔は?」
自分達を無視して薫とアイシャは食べ始める、そしてかなめを見ながら思わず見詰め合う誠とカウラだった。
「いけない……確か切らしてたわ。今日買ってくるわね」
「まったく……」
そう言いながら誠は食卓に着く。薫の笑みとがっつくアイシャとかなめ、そして箸に手を伸ばしかカウラを笑顔で見ながら誠も朝食をとることにした。
「おう!起きたか」
ベッドの隣には手を引っ込めてうれしそうな顔をしているかなめが立っている。起きる寸前の感触からして誠の鼻と口を押さえて呼吸が出来ないようにした感じがした。
「死んだらどうするんですか!」
「死んでないじゃん」
そう言うとそのままかなめは誠の机の上に置かれたリボンの巻かれた平たい箱に目を向ける。すぐに誠は手を伸ばそうとするがかなめはただにそれを珍しそうに見ているだけだった。
「オメエ器用だよな。こんなものまで用意していたのかよ」
感心したように頷くかなめ。誠はとりあえずベッドから起き出すと布団を直す。
「着替えますから」
「そう」
かなめはまるで誠の言葉を聞かずにただじっと平たい箱を見つめていた。中にはカウラのイラストが額に入ったものがある。
「着替えるんです」
「勝手にすれば?」
相変わらずかなめは出て行く様子がない。誠は頭を掻きながら箱から目を離さないかなめに何を言うべきかしばらく考えた。
「かなめちゃん!何やってるの!」
明らかに襖の外で様子を伺っていたらしいアイシャが飛び出してきてかなめの腕を引っ張る。突然のアイシャの登場にかなめは明らかに驚きながら抵抗する。
「おいおい!アタシは何もしてねえぞ!」
「十分やったじゃないの!誠ちゃんの口をふさいだりとか」
アイシャの言葉にかなめは抵抗も出来ずにずるずると引っ張られていく。誠は苦笑いを浮かべながら二人を見送る。そして襖が閉められたのを確認すると、さっさとパジャマを脱ぎ、たんすの前に立った。そこで少し考えた。
「一応……誕生日……か……」
カウラの誕生日であるクリスマスイブ。いつもの紺のセーターと言うわけにも行かないような妙に晴れ晴れしい気分が感じられる。だが、誠はおしゃれに金をかけたことは一度もなかった。当然それらしいと思えるような服は持っているわけもない。
「まあ、いいか」
そう言うと誠はすばやくたんすの奥の緑色のセーターに手を伸ばした。本当になんとなく、カウラの髪の色に連想した色のセーターに満足するといつものジーンズ、いつもの下着、いつものシャツを着てセーターを着る。
「なんだかなあ」
鏡もない部屋。誠はただ自分に呆れながら襖を開けようとする。そして部屋の机の上の白い箱を見た後自分でも気持ち悪い笑顔を浮かべているだろうと想像しながら階段に向かった。
階段を途中まで降りると、そこには緑色のポニーテールが動くのが見えた。
「おはようございます、ベルガーさん」
気を抜いているときに突然声をかけられて一瞬怯んだカウラだが、いつもの無表情を取り戻すと静かに誠を見上げた。
「遅いな。実家だと思ってたるんでいるんじゃないのか?」
カウラのいつものぶっきらぼうな態度に誠は苦笑いを浮かべる。シャンプーの香りがカウラから漂うのは母の朝稽古に付き合って流れた汗を流したからなのだろう。
そのまま台所に向かうカウラについていくと、すでに朝食の準備をほとんど済ませた薫が笑顔で誠を迎えた。
「おはよう。眠そうね」
「ああ、そうだね」
母の声を聞きながら誠はすでに自分用の箸を握り締めて黙って座っているかなめを見つけた。そんなかな目の隣にアイシャがあきれ果てた顔で立つ。
「かなめちゃん。ソースを冷蔵庫から出すとか、醤油をそこの調味料入れから取るとか。手伝うこと色々あるんじゃないの?」
アイシャはそう言いながら薫から味噌汁を受け取って並べている。かなめは苦笑いを浮かべながら黙って座っている。
「はい、カウラちゃん」
そう言ってアイシャがジャガイモが水面から飛び出すほどの具沢山な味噌汁を席に着こうとしたカウラに渡す。
「気が利くな」
カウラの言葉にアイシャは当然のように今度は炊飯器を開けてご飯を盛り始めた薫の手伝いを続ける。
「おいおい、慣れない事してんじゃねえよ。いつもは寮の料理もろくにしていないって言うのによう」
ふてくされるかなめだが、アイシャはにやりと笑うだけでそのまま今度はご飯を配り始める。
「私が手伝うことは無いのか?」
「いいのよ、ベルガーさんは。それより誠に何かしてもらうことは無いかしら」
娘が増えたなどと喜んでいた母の様子に、ただ弱ったような笑みしか誠は浮かべることが出来なかった。
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突然調子を変えてアイシャは命令口調になる。つぼに入って噴出したかなめを無視して誠はそのままガス台の上の戸棚に手を伸ばす。一応、186cmの長身である。すぐに焼き海苔の袋を見つけて隣に立っていたカウラに手渡した。
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「いけない……確か切らしてたわ。今日買ってくるわね」
「まったく……」
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