470 / 1,471
第29章 仕上げ
仕上げ
しおりを挟む
「パーラの奴は本当に人が良いと言うかなんと言うか……」
かなめの苦笑いに誠もうなづくより他になかった。深夜、もうすぐ日付が変わろうとしている。リアナ達運用艦『高雄』のブリッジクルーの女性隊員達は一人酒を飲めなかったパーラの運転するマイクロバスで誠の実家の道場を出て行った。
かなめとアイシャ、そして誠が見送る。カウラは今は道場の床を薫と一緒に掃除している。
「おい、神前。いいのか?明日だぞ」
かなめのタレ目が誠に向かう。満面の笑みに誠は酒を出来るだけ控えていた理由を思い出した。
「大丈夫よねえ。その為にあまり飲まなかったんだから」
そう言うアイシャに誠は自信を持ってうなづいた。さすがに冬の晴れた日。日が落ちてからはどんどん気温が下がる。暖房といえば煮えたぎる鍋が有った先ほどの宴は過ぎて、羽織るどてらに冷たい風がまとわり付く。
三人はさっさと玄関に向かい、引き戸を開いてあがりこんだ。
「じゃあ、僕は作業があるんで」
そう言い残して誠は階段を駆け上がって自分の部屋に入った。こう言うとき突然出てきそうなシャムも吉田に引っ張られて宴が盛り上がったところで豊川の基地に連れて行かれた。邪魔するものも無く机の上にはカウラへのプレゼントのイラストが乗っていた。
「ふう」
ため息をついた後、そのまま机に向かう。実はカウラのドレス姿は細かい修正が残っているだけで、すでにほぼ完成していると言ってもいい状況だった。
いつものポニーテールを解いたエメラルドグリーンの髪、その額の赤い石の輝くようなティアラ。胸のネックレスにも同じような赤い石が光る。まっ平らな胸が少し増量されているように見えるのはご愛嬌だと誠は思わず笑みがこぼれる。
しばらく誠はじっとその絵に見入っていた。表情はいつもの緊張したカウラのものではなく、少しばかりやわらかくアレンジしてみた。
めったに見ることが出来ない安心したような笑顔。かなめなら『こんな顔か?こいつ』とか言われるかもしれない。そう思いながらとりあえず首飾りの輪郭などにペンを入れる作業を始める。
師走だというのに静かな夜だった。下町の繁華街と住宅街が入り組んだ町には似つかわしくないほどの沈黙。誠はそんな中で静かに作業を続けていた。
ふすまの外でごそごそと音がして振り返る。
「じゃあ、私達は寝るけどがんばってね」
アイシャがささやくように告げて立ち去る。少しはあの人も気を遣うのかと失礼なことを考えながら誠は細かい部分にペンを走らせる。
「喜んでくれればいいんだけど」
そう思いながら誠は休まずに一気に仕上げようとペンを持つ左手に集中した。
かなめの苦笑いに誠もうなづくより他になかった。深夜、もうすぐ日付が変わろうとしている。リアナ達運用艦『高雄』のブリッジクルーの女性隊員達は一人酒を飲めなかったパーラの運転するマイクロバスで誠の実家の道場を出て行った。
かなめとアイシャ、そして誠が見送る。カウラは今は道場の床を薫と一緒に掃除している。
「おい、神前。いいのか?明日だぞ」
かなめのタレ目が誠に向かう。満面の笑みに誠は酒を出来るだけ控えていた理由を思い出した。
「大丈夫よねえ。その為にあまり飲まなかったんだから」
そう言うアイシャに誠は自信を持ってうなづいた。さすがに冬の晴れた日。日が落ちてからはどんどん気温が下がる。暖房といえば煮えたぎる鍋が有った先ほどの宴は過ぎて、羽織るどてらに冷たい風がまとわり付く。
三人はさっさと玄関に向かい、引き戸を開いてあがりこんだ。
「じゃあ、僕は作業があるんで」
そう言い残して誠は階段を駆け上がって自分の部屋に入った。こう言うとき突然出てきそうなシャムも吉田に引っ張られて宴が盛り上がったところで豊川の基地に連れて行かれた。邪魔するものも無く机の上にはカウラへのプレゼントのイラストが乗っていた。
「ふう」
ため息をついた後、そのまま机に向かう。実はカウラのドレス姿は細かい修正が残っているだけで、すでにほぼ完成していると言ってもいい状況だった。
いつものポニーテールを解いたエメラルドグリーンの髪、その額の赤い石の輝くようなティアラ。胸のネックレスにも同じような赤い石が光る。まっ平らな胸が少し増量されているように見えるのはご愛嬌だと誠は思わず笑みがこぼれる。
しばらく誠はじっとその絵に見入っていた。表情はいつもの緊張したカウラのものではなく、少しばかりやわらかくアレンジしてみた。
めったに見ることが出来ない安心したような笑顔。かなめなら『こんな顔か?こいつ』とか言われるかもしれない。そう思いながらとりあえず首飾りの輪郭などにペンを入れる作業を始める。
師走だというのに静かな夜だった。下町の繁華街と住宅街が入り組んだ町には似つかわしくないほどの沈黙。誠はそんな中で静かに作業を続けていた。
ふすまの外でごそごそと音がして振り返る。
「じゃあ、私達は寝るけどがんばってね」
アイシャがささやくように告げて立ち去る。少しはあの人も気を遣うのかと失礼なことを考えながら誠は細かい部分にペンを走らせる。
「喜んでくれればいいんだけど」
そう思いながら誠は休まずに一気に仕上げようとペンを持つ左手に集中した。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる