レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
451 / 1,503
第17章 アイディア

ささやかな宴会

しおりを挟む
「じゃあ僕はビールでも飲もうかな……母さん、誠。先にやっているからな」 

 誠一はそう言うとかなめが持ってきた缶ビールのふたを開けた。ご飯を盛り終わったカウラもその隣の席に座る。

「誠。もういいわよ、あなたも食べなさい」 

 薫が海老に衣を着け終わるとそう言ったので誠はテーブルに移った。すでにカウラとアイシャはアナゴに取り付いている。誠もビールを明けてグラスに注いだ。

「うまいなこれ」 

 かなめはそう言いながらサツマイモのてんぷらをおかずにご飯を食べる。

「炭水化物の取りすぎだな」 

 そう言いながらカウラがじっくりと楽しむようにアナゴのてんぷらを口にしていた。

「海老も揚がったわよ」 

 薫はそれぞれのお皿にこんがりと色づいた海老を並べていく。それを見ながら誠は油の処理をするために立ち上がった。

「本当においしいわね。やっぱりしいたけもほしかったかも」 

「ごめんなさいね。ちょっと買い忘れちゃって」 

 火を止めて油を固める薬を混ぜている誠の後ろで和やかな食事の光景が続いていた。

「でもおいしいですよこのかき揚げ」 

 カウラの満足そうな顔を食卓の椅子に戻って誠は眺めていた。

「ビールもたまにはいいもんだな」 

 かなめはそう言うと自分の手前の最後の海老に手を伸ばした。

「ちょっとかなめちゃん早すぎよ」

「貴様が遅いんだ」 

 アイシャに口を出されて気分が悪いというようにかなめは自分の最後の海老を口の中に放りこむ。

「もう終わりか……確かに早すぎるな」 

「お茶でも入れましょうか?」 

「いいですよ、気にしないで」 

 薫の一言を断った後に立ち上がってかなめは給湯器に向かう。

「自分でやるんだな、いいことだ」 

 カウラの皮肉に振り返りにんまりとかなめは笑った。

「本当においしいわね。アナゴがふかふかで……」 

 満足そうにアイシャは茶碗を置く。戻ってきたかなめが茶をすすっている。

「でもよく食べたな」 

 誠並みに五本もえびを食べたカウラをかなめが冷やかすような視線で眺めている。そう言われてもわざわざニヤニヤ笑って喧嘩を買う準備中のかなめを無視してカウラは湯飲みに手を伸ばす。

「そう言えば父さんは明日から合宿でしたっけ」 

 そんな誠の言葉に誠一は大きくうなづいた。かなめもカウラもアイシャも誠一に目をやった。親子といえばなんとなく目も鼻も眉も口も似ているようにも見える。だがそれらの配置が微妙に違う。それに気づけば誠のどちらかといえば臆病な性格が見て取れる。そして誠一はまるで正反対の強気な性格なのだろうと予想がついた。

「まあな。正月明けまでは稽古三昧だ……どうする?誠も来るか」 

 すぐにアイシャとかなめに殺気にも近いオーラが漂っているのが誠からも見えた。

「全力でお断りします」 

 二人のの射るような視線に誠はそう言うほか無かった。いつものように薫は笑顔を振りまいている。カウラは薫と誠を見比べた。実に微妙だがこれも親子らしく印象というか存在感が似ていることにカウラは満足して手にした湯飲みから茶をすする。

「今頃は隊は大変だろうな」 

 カウラの一言にアイシャが大きくため息をつく。

「そんなだから駄目なのよ。ともかく仕事は忘れなさいよ。思い出すのは定時連絡のときだけで十分でしょ?」 

 そう言ってアイシャは薫から渡された湯飲みに手を伸ばす。だが真面目一本のカウラが呆れたように向かいでため息をついているのには気づかないふりをしていた。

「本当にお世話になって……でも本当に誠が迷惑かけてないかしら?」 

 そんな母の言葉に心当たりが山ほどある誠はただ黙り込む。

「そんなお母様、大丈夫ですよ。誠ちゃんはちゃんと仕事していますから」 

「時々さらわれたり襲撃されたりするがな」 

 アイシャのフォローをかなめは完膚なきまでに潰してみせる。そんなかなめを見て薫はカウラに目を向ける。カウラはゆっくりと茶をすすって薫を向き直った。

「よくやってくれていると思いますよ。神前曹長の活躍無くして語れないのが我が隊の実情ですから。これまでも何度危機を救われたかわかりません」 

 にこやかに微笑みながらカウラはフォローする。だが薫はまだ納得していないようだった。

「でも……気が弱いでしょ」 

 その言葉にすぐにかなめが噴出した。アイシャも隣で大きくうなづいている。

「笑いすぎですよ。西園寺さん」 

 誠は少しばかり不機嫌になりながらタレ目で自分を見上げてくるかなめにそう言った。

「誠ちゃんは確かに気が弱いわよねえ。野球の練習試合の時だってランナーがでるとすぐ目があっちこっち向いて。守っていてもそれが気になってしかたないもの」 

 アイシャはまたにんまりと笑って誠を見つめてくる。そんな彼女の視線をうっとおしく感じながら誠は最後に残った芋のてんぷらを口に運ぶ。

「蛮勇で作戦を台無しにする誰かよりはずいぶんと楽だな、指揮する側にすればだがな」 

 たまらずに繰り出されたカウラの一言。かなめの笑みがすぐに冷たい好戦的な表情へ切り替わる。

「おい。それは誰のことだ?」 

「自分の行動を理解していないのか?さらに致命的だな」 

 カウラの嘲笑にも近い表情に立ち上がろうとしたかなめの前に薫が手を伸ばした。突然視界をふさがれてかなめは驚く。

「食事中でしょ?静かにしましょうね」 

 相変わらず笑顔の薫だが、かなめは明らかに薫のすばやい動きに動揺していた。そんなやり取りを傍から眺めていた誠はさすがと母を感心しながらゆっくりとお茶を飲み干した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

レジェンド・オブ・ダーク遼州司法局異聞 2 「新たな敵」

橋本 直
SF
「近藤事件」の決着がついて「法術」の存在が世界に明らかにされた。 そんな緊張にも当事者でありながら相変わらずアバウトに受け流す遼州司法局実働部隊の面々はちょっとした神前誠(しんぜんまこと)とカウラ・ベルガーとの約束を口実に海に出かけることになった。 西園寺かなめの意外なもてなしや海での意外な事件に誠は戸惑う。 ふたりの窮地を救う部隊長嵯峨惟基(さがこれもと)の娘と言う嵯峨茜(さがあかね)警視正。 また、新編成された第四小隊の面々であるアメリカ海軍出身のロナルド・スミスJr特務大尉、ジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉や、技術士官レベッカ・シンプソン中尉の4名の新入隊員の配属が決まる。 新たなメンバーを加えても相変わらずの司法局実働部隊メンバーだったが嵯峨の気まぐれから西園寺かなめ、カウラ・ベルガー、アイシャ・クラウゼの三人に特殊なミッションが与えられる。 誠はただ振り回されるだけだった。

処理中です...