レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
439 / 1,503
第11章 幸福と不幸

偶然の産物

しおりを挟む
 それぞれの鉄板の上ではお好み焼きの焼ける音が響き始めていた。

「早く!誠ちゃんの烏賊玉、出来てるわよ」 

「え?アイシャさん焼いちゃったんですか?」 

 誠は驚いて自分の空になった材料の入ったボールを見た。その前の鉄板には自分のミックス玉を焼きながら誠の烏賊玉にソースを塗っているアイシャがいる。

「もしかして迷惑だった?」 

 アイシャは落ち込んだように見上げてくる。それがいつもの罠だとわかっていても誠はただ愛想笑いを浮かべるしかない。

「別にそう言うわけでは……」 

 誠はそう答えるしかなかった。それを聞くとアイシャの表情はすぐに緩んだ。そしてそのままこてで誠の烏賊玉を切り分け始めた。

「そう言えばクリスマスの話はどうしたんだ?」 

 誠に媚を売るアイシャの姿に、苛立ちながらかなめは吐き捨てるように口を開いた。彼女の方を向いたアイシャは満面の笑みで笑いかける。

「なんだよ気持ちわりいなあ」 

 そう言って引き気味にかなめはジンの入ったグラスを口にする。そんなかなめが面白くてたまらないというようにアイシャは指差して誠に笑いかける。

「あの、クラウゼさん。人を指差すのは……」 

「誠ちゃんまでかなめちゃんの味方?所詮……私の味方は誰もいないのね!」 

 アイシャは大げさに肩を落としうつむく。いつものアイシャのやり方を知っているサラとパーラが複雑な表情で彼女を見つめていた。

「クリスマスねえ。クラウゼも少しは素直にパーティーがしたいって言えばいいのによー」 

 ランは一人、エイ鰭をあぶりながらビールを飲んでいる。

「だって普通じゃつまらないじゃないですか!」 

 そう言ってアイシャは立ち上がりランの前に立った。ここで場にいる人々はアイシャがすでに出来上がっていることに気づいていた。

「つ……つまらないかなあ」 

 さすがに目の据わったアイシャをどうこうできるわけも無くランは口ごもる。誠が周りを見ると、かなめは無視を決め込み、カウラはエルマとの話を切り出そうとタイミングを計りつつ烏賊ゲソをくわえている。

 パーラとサラ。本来なら酒の席で暴走することが多いアイシャの保護者のような役割の二人だが、完全に彼女達の目を盗んで飲み続けて出来上がったアイシャにただじっと見守る以外のことは出来ないようだった。

「やっぱりクリスマスと言うと!」 

 そう言うとアイシャはランの前にマイクを気取って割り箸を突き出す。

「そうだなー、クリスマスツリーだな」 

「ハイ!失格。今回はカウラちゃんのお誕生日会なのでツリーはありません!」 

 アイシャはハイテンションでまくし立てる。その姿をちらりと見た後、ランは腹を決めたように視線を落とした。

「じゃあ次は……」 

 獲物を探してアイシャは部屋を見渡す。偶然にもたこ焼きに手を伸ばそうとしていたパーラの視線がアイシャとぶつかってしまった。顔全体で絶望してみせるパーラに向かってアイシャは満面の笑みでインタビューに向かった。

「何よ!この酔っ払いが!」 

 パーラの叫びが響く。そんなパーラの反応を見るとアイシャは割り箸でその頭をむやみに突きまわす。それを苦笑いを浮かべながらエルマは眺めていた。

「楽しそうな部隊だな。ここは」 

 半分以上は呆れていると言う顔の彼女に合わせてカウラは無理のある笑みを浮かべる。

「あんた、何か言いたいことがあってこいつに声をかけたんじゃねえのか?」 

 タコの酢の物に手を伸ばしたかなめの言葉にエルマは表情を切り替える。

「ああ、そうだ。今夜は例のカネミツが司法局実働部隊に搬入されるらしいな」 

「どこでその情報を?」 

 カウラの問いにエルマは首を振る。

「機動隊の方と言うことは警備任務があったんじゃないですか?」 

 誠が適当に言った言葉にうなづき、エルマはそのまま腕の端末に手を回す。

「神前曹長はなかなか鋭いな。私は新港でのカネミツの荷揚げ作業の警備担当だった」 

「だけどそれだけで私に声をかけたわけじゃないんだろ?」 

 カウラの言葉を聞きながらエルマは端末の上に浮かぶ画面を検索している。

「何も無ければ……確かにな。貴様のことなど忘れていたかもしれない」 

 そう言って笑みを浮かべるエルマが端末の上に画像を表示させた。

 闇の中に浮かぶ高級乗用車。見たところ東和では珍しいアメリカ製の黒塗りの電気自動車である。そこには少年が一人、窓の外に顔を出した運転手のサングラスの男の顔も見える。

「外ナンバーか……新港。監視している連中がいたところで不思議は無いな」 

 カウラはそう言って自分の端末にその写真をコピーした。それをわざわざ立ち上がって覗き込むかなめ。しかし、それを見たかなめの表情が急に変わった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...