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第6章 警備活動
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「じゃあさっきの話の続きをするわね」
ゲートを操作しているかなめを置いてアイシャは話を始めようとする。拳を握り締めるかなめの手を握っカウラが頭を振る。かなめはそれを見てようやく落ち着いてコタツの外に正座している誠に勝ち誇った笑みを浮かべて見せた。
「まず誕生日会ですけど」
「素直にクリスマスがやりたいって言えばいいのに……」
ぼそりとつぶやくかなめに鋭いアイシャの流し目が飛ぶ。肩をすくめて舌を出したかなめを見ると、アイシャは再び話を続けた。
「いろいろ考えたのよ。寮でにぎやかに行う。あまさき屋でパーとやる。でもそれでは私達が求めている家族とのふれあいという要素が満たせないのよね」
誠はカウラの顔を見てみた。カウラはアイシャの言うような家族とのふれあいを求めているわけじゃないとはっきりわかるような苦笑を浮かべている。
「そこで誠ちゃんにお願いがあるの」
ずいとコタツに身を乗り出してアイシャは誠を見つめてくる。その眼力に誠はつい身をそらして避けてしまう。アイシャの視線ははっきりと誠を捉えているのがわかる。いつものことだがこういう時のアイシャの発言はろくでもないことであることはわかりきっていた。
「誠さんの家で誕生日会。お願いできるかしら?」
予想は的中した。誠は助けを求めるようにカウラを見る。カウラはあきらめたように首を横に振る。今度はかなめを見た。タレ目はニヤニヤ笑いながら誠の発するだろう泣き言を想像しているように見える。
「うちって……クリスマスは特に変わったことはやりませんよ」
「いいのよ。クリスマスじゃなくてカウラちゃんのお誕生日会なんだから!」
そう言うと満面の笑みでアイシャは誠を見つめてくる。
「でも……確か親父は学校の行事とかでこの当たりの日はいないのが普通ですけど」
抵抗するように誠はそう言ってみた。高校教師の誠の父誠一がクリスマス前後に家にいないことが多いのは事実だった。誠も子供の頃はクリスマスには父はいないものだと思い込んでいた時期もあったくらいである。母と二人きりのクリスマスを過ごすのが普通のことだった。
だが、アイシャはまるでひるむ様子もない。舌なめずりをしているように見えるのは気のせいだと誠は思い込むことにしながらアイシャの眼力に耐えていた。
「じゃあ誠ちゃんはお母さんに連絡して場所の確保をお願いするわ」
「僕の意見は無視ですか」
そう言ってアイシャは視線を手元の端末に移す。奇妙に力のある眼に見つめられて焦っていた誠はようやくそれから解放されて大きく息を吐いた。
「それでお料理……」
こう言ってアイシャは黙り込む。
アイシャ、カウラ、かなめ。家事とは縁のない三人である。寮の料理当番では三人がすさまじい能力を発揮して見せたことは伝説となりつつあった。
アイシャに任せると味付けが崩壊した。包丁の使い方は誠と同じ程度、レシピどおりに火を通し手早く作業を進める。だが味付けで普通を拒否する彼女は絶対に適量を守ることはなかった。それ以来彼女は食材切りがかりとして味付け担当を別に設けて料理当番を務めることになった。
カウラの場合手際が悪いのが問題だった。まるで理科実験をしているとでも言うように、計りに目を向けて動かなくなる。そんなカウラに笑っていられたのは最初に当番のときだけだった。ともかく計る。何でも計る。そして間違えないようにと調理中にも計る。次第に料理を作っているのか食材の重さの検査をしているのかわからなくなる。当然時間は数倍かかり、朝食を食わないで寮を飛び出す隊員が続出した。それ以来彼女は食事当番が免除されることとなった。
正反対なのがかなめだった。適当、いい加減、そして短気。野菜炒めは半生。目玉焼きはスクランブルエッグ化。味噌汁はぬるかった。本人は全く気にせず食べるだけに性質が悪かった。当然彼女も食事当番免除組である。
「ほら!クリスマスの時期ってオードブルの広告とか一杯出ているじゃないですか!何とかなりますよ!」
明るく作り笑いを浮かべて誠は叫ぶ。自覚のあるカウラは引きつった笑いを浮かべてうなづき、自分のことは棚に上げているだろうが、とりあえずアイシャとカウラの料理は食べたくないかなめが納得したようにうなづいている。
「そうね……じゃあ料理はOKっと」
誠は胸をなでおろす。コタツから追放されて正座している誠の足を隙間風が襲う。
「神前。寒いんじゃないのか?」
カウラはそう言うとかなめをにらみつけた。確かに誠は寒かった。そればかりでなくなんとなくはじめた正座のせいで足がしびれてきていてぴょこぴょこと足を動かしてそれを我慢している。
「仕方ないなあ……ここに足を入れろよ」
ずるずるとかなめは横に移動する。そしてそこに足一本分くらいのスペースが出来た。
「おい、西園寺。それじゃあ入れないんじゃないのか?」
「良いんだよ!片方ずつ変わりばんこに入れればあったかくなるだろ?それになんなら……」
タレ目のかなめの上目遣いの視線。舌なめずりをしているその顔にはなんともいえない色気が立ち込める。誠も一瞬だまされそうになるがカウラの冷たい視線で我に返った。
「無茶言わないでくださいよ」
誠の泣き言が響く警備室。だが、コタツの上で画面を黙っていじっているアイシャは彼等のことなど眼中になかった。
「それでね、私達三人はカウラちゃんにプレゼントをしないといけないわけよね。これはカウラちゃんの誕生日パーティーなんだから」
「遠慮する」
アイシャの言葉にカウラは即答する。その言葉を聞くとアイシャはいかにも残念そうな表情を浮かべる。
「その方が賢明だよなあ」
また少しだけコタツのスペースを作るべく動きながらかなめがつぶやいた。
「もしかして乙女ゲーとかを用意していたんじゃないですか……しかも自分が飽きた中古の奴」
誠の言葉にアイシャが目をそらす。
「図星か……それはプレゼントとは言わないぞ」
「違うのよ!今度は新品の奴を!」
「まず最初に自分がデバックと称して遊ぶんだろ?」
カウラとかなめに突っ込まれて思い切り沈んだ顔でアイシャは誠に助けを求めるような視線を投げてくる。だが誠もさすがにこの状態で彼女をかばうことは出来ず視線を落とした。
ゲートを操作しているかなめを置いてアイシャは話を始めようとする。拳を握り締めるかなめの手を握っカウラが頭を振る。かなめはそれを見てようやく落ち着いてコタツの外に正座している誠に勝ち誇った笑みを浮かべて見せた。
「まず誕生日会ですけど」
「素直にクリスマスがやりたいって言えばいいのに……」
ぼそりとつぶやくかなめに鋭いアイシャの流し目が飛ぶ。肩をすくめて舌を出したかなめを見ると、アイシャは再び話を続けた。
「いろいろ考えたのよ。寮でにぎやかに行う。あまさき屋でパーとやる。でもそれでは私達が求めている家族とのふれあいという要素が満たせないのよね」
誠はカウラの顔を見てみた。カウラはアイシャの言うような家族とのふれあいを求めているわけじゃないとはっきりわかるような苦笑を浮かべている。
「そこで誠ちゃんにお願いがあるの」
ずいとコタツに身を乗り出してアイシャは誠を見つめてくる。その眼力に誠はつい身をそらして避けてしまう。アイシャの視線ははっきりと誠を捉えているのがわかる。いつものことだがこういう時のアイシャの発言はろくでもないことであることはわかりきっていた。
「誠さんの家で誕生日会。お願いできるかしら?」
予想は的中した。誠は助けを求めるようにカウラを見る。カウラはあきらめたように首を横に振る。今度はかなめを見た。タレ目はニヤニヤ笑いながら誠の発するだろう泣き言を想像しているように見える。
「うちって……クリスマスは特に変わったことはやりませんよ」
「いいのよ。クリスマスじゃなくてカウラちゃんのお誕生日会なんだから!」
そう言うと満面の笑みでアイシャは誠を見つめてくる。
「でも……確か親父は学校の行事とかでこの当たりの日はいないのが普通ですけど」
抵抗するように誠はそう言ってみた。高校教師の誠の父誠一がクリスマス前後に家にいないことが多いのは事実だった。誠も子供の頃はクリスマスには父はいないものだと思い込んでいた時期もあったくらいである。母と二人きりのクリスマスを過ごすのが普通のことだった。
だが、アイシャはまるでひるむ様子もない。舌なめずりをしているように見えるのは気のせいだと誠は思い込むことにしながらアイシャの眼力に耐えていた。
「じゃあ誠ちゃんはお母さんに連絡して場所の確保をお願いするわ」
「僕の意見は無視ですか」
そう言ってアイシャは視線を手元の端末に移す。奇妙に力のある眼に見つめられて焦っていた誠はようやくそれから解放されて大きく息を吐いた。
「それでお料理……」
こう言ってアイシャは黙り込む。
アイシャ、カウラ、かなめ。家事とは縁のない三人である。寮の料理当番では三人がすさまじい能力を発揮して見せたことは伝説となりつつあった。
アイシャに任せると味付けが崩壊した。包丁の使い方は誠と同じ程度、レシピどおりに火を通し手早く作業を進める。だが味付けで普通を拒否する彼女は絶対に適量を守ることはなかった。それ以来彼女は食材切りがかりとして味付け担当を別に設けて料理当番を務めることになった。
カウラの場合手際が悪いのが問題だった。まるで理科実験をしているとでも言うように、計りに目を向けて動かなくなる。そんなカウラに笑っていられたのは最初に当番のときだけだった。ともかく計る。何でも計る。そして間違えないようにと調理中にも計る。次第に料理を作っているのか食材の重さの検査をしているのかわからなくなる。当然時間は数倍かかり、朝食を食わないで寮を飛び出す隊員が続出した。それ以来彼女は食事当番が免除されることとなった。
正反対なのがかなめだった。適当、いい加減、そして短気。野菜炒めは半生。目玉焼きはスクランブルエッグ化。味噌汁はぬるかった。本人は全く気にせず食べるだけに性質が悪かった。当然彼女も食事当番免除組である。
「ほら!クリスマスの時期ってオードブルの広告とか一杯出ているじゃないですか!何とかなりますよ!」
明るく作り笑いを浮かべて誠は叫ぶ。自覚のあるカウラは引きつった笑いを浮かべてうなづき、自分のことは棚に上げているだろうが、とりあえずアイシャとカウラの料理は食べたくないかなめが納得したようにうなづいている。
「そうね……じゃあ料理はOKっと」
誠は胸をなでおろす。コタツから追放されて正座している誠の足を隙間風が襲う。
「神前。寒いんじゃないのか?」
カウラはそう言うとかなめをにらみつけた。確かに誠は寒かった。そればかりでなくなんとなくはじめた正座のせいで足がしびれてきていてぴょこぴょこと足を動かしてそれを我慢している。
「仕方ないなあ……ここに足を入れろよ」
ずるずるとかなめは横に移動する。そしてそこに足一本分くらいのスペースが出来た。
「おい、西園寺。それじゃあ入れないんじゃないのか?」
「良いんだよ!片方ずつ変わりばんこに入れればあったかくなるだろ?それになんなら……」
タレ目のかなめの上目遣いの視線。舌なめずりをしているその顔にはなんともいえない色気が立ち込める。誠も一瞬だまされそうになるがカウラの冷たい視線で我に返った。
「無茶言わないでくださいよ」
誠の泣き言が響く警備室。だが、コタツの上で画面を黙っていじっているアイシャは彼等のことなど眼中になかった。
「それでね、私達三人はカウラちゃんにプレゼントをしないといけないわけよね。これはカウラちゃんの誕生日パーティーなんだから」
「遠慮する」
アイシャの言葉にカウラは即答する。その言葉を聞くとアイシャはいかにも残念そうな表情を浮かべる。
「その方が賢明だよなあ」
また少しだけコタツのスペースを作るべく動きながらかなめがつぶやいた。
「もしかして乙女ゲーとかを用意していたんじゃないですか……しかも自分が飽きた中古の奴」
誠の言葉にアイシャが目をそらす。
「図星か……それはプレゼントとは言わないぞ」
「違うのよ!今度は新品の奴を!」
「まず最初に自分がデバックと称して遊ぶんだろ?」
カウラとかなめに突っ込まれて思い切り沈んだ顔でアイシャは誠に助けを求めるような視線を投げてくる。だが誠もさすがにこの状態で彼女をかばうことは出来ず視線を落とした。
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