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第5章 不幸と幸福
不幸と幸福
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「4日ねえ……」
「なんだよ言いたいことがあればはっきり言え」
かなめはアイシャの思わせぶりな態度に苛立っている。カウラと言えば二人にあきれて詰め所に帰るタイミングを計っている。だが彼女達より圧倒的に階級が低い誠はただ黙って彼女達が次の行動を決めるのを待つしかなかった。
「この前の同盟厚生局のはねっかえりを潰した件で今回のコミケの準備は吉田さんが仕切ってくれることになってたし……」
「マジかよ。おい、サラ。最後の仕事だそうだぞ」
吉田がコンピュータ端末の画面から伸び上がり目をやった先には死にそうな表情のシャムが原稿を手に取っている様が見えた。
「わかったー……」
ドリンク剤の効果もないというように半開きの目が痛々しいサラがそれを受け取ってしばらく呆然と天井を見上げているのが見える。
「つまり……私と誠ちゃんはフリーなのよ!」
「何を言い出すんだ?」
「病気だ。ほっとけ。詰め所に帰るぞ」
突然力強く叫ぶアイシャだが、シャム達の疲労が伝染したと言うような疲れた顔をしてかなめは誠の隣に来て肩を叩く。一方、明らかに胡散臭そうなアイシャの言葉にカウラは無視を決め込もうとする。二人に連れられて誠は修羅場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってよ!これはいい企画が……」
「私の誕生会でもやろうって言うのか?素直にクリスマス会がしたいって言え」
カウラの一言にアイシャはまるで衝撃を受けたようによろめく。いつものように芝居がかった動きでそのまま原稿の仕上げをしているサラの隣の机に突っ伏した。
「アイシャ。みんな呆れてるわよ」
そう言ってサラは誠達に目もくれずにもくもくと作業を続けている。
「サラまで……」
「私もシャムちゃんの手伝いをしろって言ったのアイシャじゃないの」
明らかに不機嫌そうにそう言うとサラはアイシャを無視する体制に入った。
「まあそうね」
サラが構ってくれないことで芝居をやめてアイシャは立ち上がった。
「じゃあシャムちゃん達を排除したクリスマス会の企画。これを考えてくる。ハイ! みんな。これ、宿題だから」
そう言うといつものように急な思い付きを誠達に押し付けて颯爽とアイシャは部屋を出て行った。
「何が宿題だよ……どうせ第四小隊の連中がクリスマス休暇に入ったんだ。アタシ等が休んで良いわけねえだろうが」
吐き捨てるようにそう言って歩き出すかなめだが、彼女についていこうとした誠の顔を心配そうに見つめているカウラを見つけて振り向いた。
「カウラさん……何か?」
思わず誠は不安そうな顔のカウラに声をかけた。そこで一度頭を整理するように天井を見上げたカウラが覚悟を決めたと言うような表情で口を開いた。
「それなんだがな。何でも……第四小隊は20日から勤務の予定なんだよな」
突然のカウラの言葉に誠は呆然とする。
「そんな……ロナルドさんは婚約者と……」
「それが突然破棄されたんだそうだ。彼も相当荒れているらしいから仕事をして気分を変えたいと言うところなんだろうな」
「でも……なんでですか?あの人結構良い人ですよ」
「私に聞くな」
そう言うとカウラはとぼとぼと歩き出す。そして誠は人のよさそうなロナルドが荒れている様を想像しようとしたが、いつもニコニコとしている穏やかなアメリカ海軍のエリート士官の表情がゆがんでいる様が想像できないでいた。
「なんだ、帰ってきてたの」
本館に入り、そのまま中で笑い声が絶えないアイシャ達の居る運行部の部屋を通り過ぎて、技術部部長室の前に来たとき、扉が開いて技術部のトップであり、司法局実働部隊の影の最高実力者と噂されている許明華大佐が現れた。
『あ……』
誠もカウラも思わず声を出していた。
彼女は来年の6月にタコこと明石清海中佐と結婚する予定があった。ロナルドの婚約破棄の話をしていた二人はそれを思い出して複雑な表情で上官を見つめていた。
「なんだなんだ?私の顔になんかついているとか……」
明華はじっと自分を見つめてくる部下達の表情をいぶかしむように見つめる。だが、一番タイトな環境の技術部のトップには暇はなかった。何度か首をかしげるとそのまま二人を置いて早足でハンガーへと向かう。
「なんか話を聞いちゃうと意識してしまいますね」
「ああ」
誠の言葉に上の空で返事をして再びカウラが歩き始める。二人には荒れるロナルドの現状が気になってその様子を確認したいという欲求で歩みを速めていた。
「なんだよ言いたいことがあればはっきり言え」
かなめはアイシャの思わせぶりな態度に苛立っている。カウラと言えば二人にあきれて詰め所に帰るタイミングを計っている。だが彼女達より圧倒的に階級が低い誠はただ黙って彼女達が次の行動を決めるのを待つしかなかった。
「この前の同盟厚生局のはねっかえりを潰した件で今回のコミケの準備は吉田さんが仕切ってくれることになってたし……」
「マジかよ。おい、サラ。最後の仕事だそうだぞ」
吉田がコンピュータ端末の画面から伸び上がり目をやった先には死にそうな表情のシャムが原稿を手に取っている様が見えた。
「わかったー……」
ドリンク剤の効果もないというように半開きの目が痛々しいサラがそれを受け取ってしばらく呆然と天井を見上げているのが見える。
「つまり……私と誠ちゃんはフリーなのよ!」
「何を言い出すんだ?」
「病気だ。ほっとけ。詰め所に帰るぞ」
突然力強く叫ぶアイシャだが、シャム達の疲労が伝染したと言うような疲れた顔をしてかなめは誠の隣に来て肩を叩く。一方、明らかに胡散臭そうなアイシャの言葉にカウラは無視を決め込もうとする。二人に連れられて誠は修羅場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってよ!これはいい企画が……」
「私の誕生会でもやろうって言うのか?素直にクリスマス会がしたいって言え」
カウラの一言にアイシャはまるで衝撃を受けたようによろめく。いつものように芝居がかった動きでそのまま原稿の仕上げをしているサラの隣の机に突っ伏した。
「アイシャ。みんな呆れてるわよ」
そう言ってサラは誠達に目もくれずにもくもくと作業を続けている。
「サラまで……」
「私もシャムちゃんの手伝いをしろって言ったのアイシャじゃないの」
明らかに不機嫌そうにそう言うとサラはアイシャを無視する体制に入った。
「まあそうね」
サラが構ってくれないことで芝居をやめてアイシャは立ち上がった。
「じゃあシャムちゃん達を排除したクリスマス会の企画。これを考えてくる。ハイ! みんな。これ、宿題だから」
そう言うといつものように急な思い付きを誠達に押し付けて颯爽とアイシャは部屋を出て行った。
「何が宿題だよ……どうせ第四小隊の連中がクリスマス休暇に入ったんだ。アタシ等が休んで良いわけねえだろうが」
吐き捨てるようにそう言って歩き出すかなめだが、彼女についていこうとした誠の顔を心配そうに見つめているカウラを見つけて振り向いた。
「カウラさん……何か?」
思わず誠は不安そうな顔のカウラに声をかけた。そこで一度頭を整理するように天井を見上げたカウラが覚悟を決めたと言うような表情で口を開いた。
「それなんだがな。何でも……第四小隊は20日から勤務の予定なんだよな」
突然のカウラの言葉に誠は呆然とする。
「そんな……ロナルドさんは婚約者と……」
「それが突然破棄されたんだそうだ。彼も相当荒れているらしいから仕事をして気分を変えたいと言うところなんだろうな」
「でも……なんでですか?あの人結構良い人ですよ」
「私に聞くな」
そう言うとカウラはとぼとぼと歩き出す。そして誠は人のよさそうなロナルドが荒れている様を想像しようとしたが、いつもニコニコとしている穏やかなアメリカ海軍のエリート士官の表情がゆがんでいる様が想像できないでいた。
「なんだ、帰ってきてたの」
本館に入り、そのまま中で笑い声が絶えないアイシャ達の居る運行部の部屋を通り過ぎて、技術部部長室の前に来たとき、扉が開いて技術部のトップであり、司法局実働部隊の影の最高実力者と噂されている許明華大佐が現れた。
『あ……』
誠もカウラも思わず声を出していた。
彼女は来年の6月にタコこと明石清海中佐と結婚する予定があった。ロナルドの婚約破棄の話をしていた二人はそれを思い出して複雑な表情で上官を見つめていた。
「なんだなんだ?私の顔になんかついているとか……」
明華はじっと自分を見つめてくる部下達の表情をいぶかしむように見つめる。だが、一番タイトな環境の技術部のトップには暇はなかった。何度か首をかしげるとそのまま二人を置いて早足でハンガーへと向かう。
「なんか話を聞いちゃうと意識してしまいますね」
「ああ」
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