418 / 1,505
第3章 事の発端
事の発端
しおりを挟む
助手席の窓から外を見ていた誠の目に初冬の木々は根に雪を残して広がっている。
「雪……積もるんですねここは」
惑星遼州の崑崙大陸の北東に浮かぶ島国、東和。そこの首都の下町で育った誠にとって枯れた木下の根雪は珍しいものだった。軍の幹部候補生訓練では雪山での行軍などの訓練もあったが、そこから一年も経つと凍えた手や凍傷寸前の足の感触などはまるで記憶の外の出来事のように思える。
「雪か……そう言えば私が覚醒して機能検査をしていた時期も雪が降っていたな」
山沿いのカーブの多い道に車を走らせるカウラの何気ない一言。それにアイシャは身を乗り出してくる。
「へえ、じゃあ誕生日もわかるんだ」
「誕生日?」
カウラは怪訝な顔でアイシャを一瞥した後、再び視線を急なくだりの道路に走らせる。
「あれよ……私達はお母さんのおなかから出てくるわけじゃないのは知ってるわよね。ほとんど成人になるまで培養液の中で脳に直接必要な情報を焼き付けながら覚醒を待つことになるの。そして晴れて全身の体組成が安定して、そこに知識の刷り込みも終わった段階で培養液を抜いて大気を呼吸することになるのよ」
「それが誕生日か?」
なんとなくぼんやりとしてカウラは言葉を返した。誠からは彼女の顔が見えないが、カウラの焦った表情からはアイシャの表情がかなりの恐怖を引き起こすようなものだったらしい。
「それを誕生日と呼ぶのか……それなら12月24日だな」
何気ないその一言にカウラにじりじりと詰め寄っていたアイシャが身を乗り出してくる。誠の目の前に燦々と降り注ぐ太陽のような笑顔を浮かべているアイシャがうっとおしいと思ってしまった誠は思わず目を背けた。大体こういうときのアイシャと関わるとろくなことがない。それは配属されてもう半年が経とうとしている誠には十分予想できることだった。
「クリスマスイブだなあ」
かなめはアイシャが言葉を口にする前にポツリとつぶやいた。身を乗り出していたアイシャがかなめに振り向いた。そして誠からは明らかに焦っているかなめの表情が見えて思わず噴出した。
「なによ……誠ちゃん。誕生日よ!誕生日がクリスマスイブなのよ!」
「そりゃあなあ。この遼州は地球とほとんど自転周期が変わらないし、一年もうるう年無しの365日。地球と似ている部分が多すぎるところだからな。そんな偶然に比べたらカウラの誕生日が……」
「うるさい!ボケナス!」
そう言ったアイシャのチョップがかなめの額に炸裂する。だが、かなめはサイボーグであり、頭蓋骨はチタン合金の骨格で出来ていた。アイシャは思い切り振り下ろした右手を押さえてそのまま後部座席にのけぞる。
「貴様等、暴れるな!私の車なんだぞ!」
怒鳴るカウラの口元を見た誠は、そこに歌でも歌いだしそうな上機嫌な笑みを浮かべているのを見つけた。
「気づかなかったんですか?」
そう言ってみた誠だが、カウラはまるで誠の言葉が聞こえないようでそのまま一気にアクセルを踏み込んで急な上り坂に車を進めた。
「雪……積もるんですねここは」
惑星遼州の崑崙大陸の北東に浮かぶ島国、東和。そこの首都の下町で育った誠にとって枯れた木下の根雪は珍しいものだった。軍の幹部候補生訓練では雪山での行軍などの訓練もあったが、そこから一年も経つと凍えた手や凍傷寸前の足の感触などはまるで記憶の外の出来事のように思える。
「雪か……そう言えば私が覚醒して機能検査をしていた時期も雪が降っていたな」
山沿いのカーブの多い道に車を走らせるカウラの何気ない一言。それにアイシャは身を乗り出してくる。
「へえ、じゃあ誕生日もわかるんだ」
「誕生日?」
カウラは怪訝な顔でアイシャを一瞥した後、再び視線を急なくだりの道路に走らせる。
「あれよ……私達はお母さんのおなかから出てくるわけじゃないのは知ってるわよね。ほとんど成人になるまで培養液の中で脳に直接必要な情報を焼き付けながら覚醒を待つことになるの。そして晴れて全身の体組成が安定して、そこに知識の刷り込みも終わった段階で培養液を抜いて大気を呼吸することになるのよ」
「それが誕生日か?」
なんとなくぼんやりとしてカウラは言葉を返した。誠からは彼女の顔が見えないが、カウラの焦った表情からはアイシャの表情がかなりの恐怖を引き起こすようなものだったらしい。
「それを誕生日と呼ぶのか……それなら12月24日だな」
何気ないその一言にカウラにじりじりと詰め寄っていたアイシャが身を乗り出してくる。誠の目の前に燦々と降り注ぐ太陽のような笑顔を浮かべているアイシャがうっとおしいと思ってしまった誠は思わず目を背けた。大体こういうときのアイシャと関わるとろくなことがない。それは配属されてもう半年が経とうとしている誠には十分予想できることだった。
「クリスマスイブだなあ」
かなめはアイシャが言葉を口にする前にポツリとつぶやいた。身を乗り出していたアイシャがかなめに振り向いた。そして誠からは明らかに焦っているかなめの表情が見えて思わず噴出した。
「なによ……誠ちゃん。誕生日よ!誕生日がクリスマスイブなのよ!」
「そりゃあなあ。この遼州は地球とほとんど自転周期が変わらないし、一年もうるう年無しの365日。地球と似ている部分が多すぎるところだからな。そんな偶然に比べたらカウラの誕生日が……」
「うるさい!ボケナス!」
そう言ったアイシャのチョップがかなめの額に炸裂する。だが、かなめはサイボーグであり、頭蓋骨はチタン合金の骨格で出来ていた。アイシャは思い切り振り下ろした右手を押さえてそのまま後部座席にのけぞる。
「貴様等、暴れるな!私の車なんだぞ!」
怒鳴るカウラの口元を見た誠は、そこに歌でも歌いだしそうな上機嫌な笑みを浮かべているのを見つけた。
「気づかなかったんですか?」
そう言ってみた誠だが、カウラはまるで誠の言葉が聞こえないようでそのまま一気にアクセルを踏み込んで急な上り坂に車を進めた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる