レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第34章 平々凡々

監視者と

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「押すなって!」 

 島田が叫ぶ。胴着を着たままの誠、カウラ、菰田に押し出されて、そのまま島田は吉田が操作している端末の画面の視界からこぼれた。

「正人、こっちで見ればいいよ」 

 サラがそう言うと二つ隣のモニターをいじり始める。

「いいわねえ……サラったらすっかりラブラブで」 

「アイシャ!そんなんじゃ無いってば!」 

「じゃあ俺が……」 

「菰田っちは駄目!」 

 島田とサラの二人をアイシャと菰田がからかう。それをちらりと見た後、誠の視線は吉田の手元に移った。

「まだ映らないのか?」 

「焦るなって」 

 カウラに聞かれて吉田は自信満々に選択キーを押した。そこにはかなめと先ほどの老人の姿が現れた。

「おう、ちゃんと映ったじゃねーか」 

 吉田の隣のランが端末の椅子をずらして座っている。その小さな肩の隣に顔を出すシャムの頭には猫耳カチューシャがつけられていた。さらに手にした白猫耳カチューシャをランにつけようとするシャムの手をランが無言で叩き落す。

「えーランちゃん似合うのになあ」 

「似合うから嫌なんだよ!」 

 小学生低学年の姉妹のやり取りのようなものを見て誠は呆れている。隣でじっと画面を見つめているカウラの姿を見て誠も画面に向き直った。

「腰が低い人ねえ」 

 ランの反対側にパイプ椅子を運んできていたアイシャが画面の中で何度もかなめに頭を下げる小柄な老人に感心していた。

「アイツも一応は胡州貴族のお姫様だからな。俺達みたいな下々からしたら雲の上の存在ってことなんじゃないの?」 

 振り向いて笑顔を振りまく吉田の言葉に誠はムッとする。隣で紺色のアイシャの髪が揺れている。

「うんうんかなめ姫には誠ちゃんは不釣合いよねえ……」 

 そう言うとアイシャがそのまま誠に顔を寄せてくる。

「アイシャさん……」 

 ひどくうれしそうなアイシャの顔にまた遊ばれると思った誠の声が響く。

「おい!」 

 カウラの一言がその状況から誠を救った。二人は思い出したように画面に視線を移していた。画面の中で頭を下げ続けていた老人はようやく気が済んだというようにかなめに向かいのテーブルに座った。だがカウラの視線は画面の中の人物とは別のところにあった。

 会議室の窓際に丸くて大きな何かが動いている。

「なんでしょうね……あれ」 

 カウラの視線を追っていた菰田がそう言ってシャムを見る。それに付き合うように島田やサラがシャムを見つめた。その時部屋の自動ドアが開く。

「シャム!白菜買ってきたわよ!それとチコリも……って何してるの?」 

 全員の視線が叫ぶエダ・ラクール中尉と荷物を抱えたキム・ジュンヒ少尉に向いた。

「あーあ……ははは」 

 シャムが弱弱しい笑い声を上げた。全員はとりあえずシャムが何やらいつものようにとんでもないことをやらかしたらしいという事実だけを察した。
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