391 / 1,503
第22章 娯楽
目覚め
しおりを挟む
「痛み?」
誠は目を覚ました。布団から転がり出ていつも漫画を描いている机の脚に額がぶつかっている。そして足元に人の気配がしたのでそちらを寝ぼけた視線で見つめた。
「大丈夫か?そんな格好でいたら風邪を引くぞ」
緑の髪の女性に視線を合わせる。ドアから顔をのぞかせたカウラがそのまま上体を持ち上げようとする誠のそばに座った。
「ああ、カウラさん。おはようございます」
「とっとと顔を洗え。それと鍵は閉めておくものだぞ」
そう言ってカウラはドアの外に消えていく。それを呆然と見守りながら誠は先ほどの夢を思い出していた。
昨日の同盟本部ビルの前で画面の向こう側で膨張した肉片と化した少女。恐らくは嵯峨やシャム、ランそして島田が持っている法術再生能力の暴走がその原因であることは理解していた。本来は意識でコントロールしている体組織の安定が損なわれたことがあの巨大な肉塊となった原因だった。そしてその能力は誠には無かった。
「でもなあ!」
自分にはありえない事故だとしても、もしかして……。そう思うと夢の中の体が崩壊していく感覚を思い出す。誠はそのまま布団の上にドスンと体を投げた。
カウラが去ったドアを見ながらしばらく誠は呆然と部屋を見渡す。額を流れる脂汗。寒い部屋とは思えないその量を見て苦笑いを浮かべるとそのまま二度寝に入る。
「なによ、まだ寝てるの?」
意識が消えかけたところで今度はアイシャの声が耳元でした。誠は驚いて飛び起きた。そんな誠をジャージ姿で見守っているアイシャはシャワーを浴びたばかりのようで石鹸の香りがやわらかく誠を包み込んでいた。
「起きてますよ」
そう言って誠は再び体を起こす。アイシャはタオルで巻いた紺色の長い髪に手をやりながら誠の机の上の書きかけのイラストに目をやる。
「ああ、今回のコミケは私達はお手伝いはしなくていいんだったわね」
突然そんなことを言いながらアイシャは今度は本棚に向かう。そこには堂々と18禁同人誌が並んでいるが、同じものをコンプリートしているアイシャはさっと見ただけでそのままドアに向かう。
「なんだか寝ぼけた顔ね、シャワー浴びた方が良いんじゃないの?今なら空いてるわよ」
そう言ってアイシャが何事も無かったかのように部屋から消える。目が冴えてきた誠は立ち上がると押入れの中の収納ボックスから下着を取り出した。
「おい!元気か……って。寒いからって爺さんみたいに腰を曲げやがって!」
今度は朝からかなめの高いテンションの声が響く。下着とタオルを手にして誠が立ち上がった。
「おう、シャワーか?今なら空いてるぞ」
「知ってます」
そう言うとそのまま誠はドアに向かう。
「なんだよ、妙に暗いじゃねえか」
廊下に出てもかなめは珍しく誠に張り付いている。不安な部下に対するというより元気の無い弟を見守るような表情でかなめは階段を下りる誠についてくる。
「あのー」
シャワー室の前の廊下で誠が振り返るとかなめは真っ赤な顔をしていた。
「分かってるよ!早く飯食わねえと置いてくぞ!それが言いたかっただけだからな!」
そう言ってかなめは食堂に向かう。誠は彼女がちらちらと振り向いているのを確認した後シャワー室に入った。服を脱ぎ終えて誠はシャワーを浴びた。まだ夢の続きのように全身に力が入らないような気分が続いていた。
「おう、お前がいたのか」
島田の声がしたので振り向いたが、すでに島田は隣のシャワーに入っていた。
彼の声で島田が嵯峨達と同じ法術再生能力の持ち主であることを思い出して誠ははっとする。それがわかっても誠にどう島田に声をかけるべきかと言う考えは浮かばなかった。
シャワーの音だけが響く。沈黙が続いた。誠は耐えられずに頭のシャンプーを流し終わるとすぐにタオルで体を拭いて出て行こうとした。
「今日からが正念場だな」
シャワー室から出ようとする誠に島田の声。誠は大きくうなづくとドアを開ける。そしてそこでドアに顔面を強打して倒れているかなめとアイシャ、そしてサラの姿にため息をついた。
「何してるんですか?」
思わず誠はそう尋ねた。
「何でもない!何でもないって!」
アイシャがそう叫んで食堂に消えていく。かなめとサラは取り残されまいとそそくさとそのあとに続いた。
「なんだかなあ……」
誠は苦笑いを浮かべながらタオルに手を伸ばした。
誠は目を覚ました。布団から転がり出ていつも漫画を描いている机の脚に額がぶつかっている。そして足元に人の気配がしたのでそちらを寝ぼけた視線で見つめた。
「大丈夫か?そんな格好でいたら風邪を引くぞ」
緑の髪の女性に視線を合わせる。ドアから顔をのぞかせたカウラがそのまま上体を持ち上げようとする誠のそばに座った。
「ああ、カウラさん。おはようございます」
「とっとと顔を洗え。それと鍵は閉めておくものだぞ」
そう言ってカウラはドアの外に消えていく。それを呆然と見守りながら誠は先ほどの夢を思い出していた。
昨日の同盟本部ビルの前で画面の向こう側で膨張した肉片と化した少女。恐らくは嵯峨やシャム、ランそして島田が持っている法術再生能力の暴走がその原因であることは理解していた。本来は意識でコントロールしている体組織の安定が損なわれたことがあの巨大な肉塊となった原因だった。そしてその能力は誠には無かった。
「でもなあ!」
自分にはありえない事故だとしても、もしかして……。そう思うと夢の中の体が崩壊していく感覚を思い出す。誠はそのまま布団の上にドスンと体を投げた。
カウラが去ったドアを見ながらしばらく誠は呆然と部屋を見渡す。額を流れる脂汗。寒い部屋とは思えないその量を見て苦笑いを浮かべるとそのまま二度寝に入る。
「なによ、まだ寝てるの?」
意識が消えかけたところで今度はアイシャの声が耳元でした。誠は驚いて飛び起きた。そんな誠をジャージ姿で見守っているアイシャはシャワーを浴びたばかりのようで石鹸の香りがやわらかく誠を包み込んでいた。
「起きてますよ」
そう言って誠は再び体を起こす。アイシャはタオルで巻いた紺色の長い髪に手をやりながら誠の机の上の書きかけのイラストに目をやる。
「ああ、今回のコミケは私達はお手伝いはしなくていいんだったわね」
突然そんなことを言いながらアイシャは今度は本棚に向かう。そこには堂々と18禁同人誌が並んでいるが、同じものをコンプリートしているアイシャはさっと見ただけでそのままドアに向かう。
「なんだか寝ぼけた顔ね、シャワー浴びた方が良いんじゃないの?今なら空いてるわよ」
そう言ってアイシャが何事も無かったかのように部屋から消える。目が冴えてきた誠は立ち上がると押入れの中の収納ボックスから下着を取り出した。
「おい!元気か……って。寒いからって爺さんみたいに腰を曲げやがって!」
今度は朝からかなめの高いテンションの声が響く。下着とタオルを手にして誠が立ち上がった。
「おう、シャワーか?今なら空いてるぞ」
「知ってます」
そう言うとそのまま誠はドアに向かう。
「なんだよ、妙に暗いじゃねえか」
廊下に出てもかなめは珍しく誠に張り付いている。不安な部下に対するというより元気の無い弟を見守るような表情でかなめは階段を下りる誠についてくる。
「あのー」
シャワー室の前の廊下で誠が振り返るとかなめは真っ赤な顔をしていた。
「分かってるよ!早く飯食わねえと置いてくぞ!それが言いたかっただけだからな!」
そう言ってかなめは食堂に向かう。誠は彼女がちらちらと振り向いているのを確認した後シャワー室に入った。服を脱ぎ終えて誠はシャワーを浴びた。まだ夢の続きのように全身に力が入らないような気分が続いていた。
「おう、お前がいたのか」
島田の声がしたので振り向いたが、すでに島田は隣のシャワーに入っていた。
彼の声で島田が嵯峨達と同じ法術再生能力の持ち主であることを思い出して誠ははっとする。それがわかっても誠にどう島田に声をかけるべきかと言う考えは浮かばなかった。
シャワーの音だけが響く。沈黙が続いた。誠は耐えられずに頭のシャンプーを流し終わるとすぐにタオルで体を拭いて出て行こうとした。
「今日からが正念場だな」
シャワー室から出ようとする誠に島田の声。誠は大きくうなづくとドアを開ける。そしてそこでドアに顔面を強打して倒れているかなめとアイシャ、そしてサラの姿にため息をついた。
「何してるんですか?」
思わず誠はそう尋ねた。
「何でもない!何でもないって!」
アイシャがそう叫んで食堂に消えていく。かなめとサラは取り残されまいとそそくさとそのあとに続いた。
「なんだかなあ……」
誠は苦笑いを浮かべながらタオルに手を伸ばした。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる