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第12章 謹慎
ヤバい連中
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「オメエ等も餓鬼じゃない。それどころかきっちり軍事訓練を受けた兵隊だってことは知ってる。だがな。租界に足を踏み込むってことはだ。そんな兵隊さん達の寝首を掻くことぐらい造作もなくやってのける化け物達に目を付けられる可能性があるってこった。まあ、今時そんな凄腕が東和くんだりで商いやってるとは思えねえがな。遼州の火薬庫。ベルルカン大陸の失敗国家の紛争地帯に行けばそう言う連中の手ならいくら出しても買いたい奴は五万といる。ただ、そいつ等が里心がついて租界のゲットーに舞い戻ってる可能性も捨てきれねえ」
物騒なことを言う割に、かなめの顔は笑っていた。
「西園寺の言う事は大げさに聞こえるかもしれねーが、アタシも西園寺もその慎重さゆえに今があるんだ。だからアタシからも言っておく。本当にヤバい奴に出会って、その場にアタシ、西園寺、隊長、吉田、シャム、この五人が居ないときは逃げろ。もし東都の中での出会いなら、あの店に飛び込んであのデブにそれについて説明して保護を求めろ。まあ、順番は逆だが、同じことは第三小隊の連中には説明済みだ」
ランはそう言って笑った。その表情には強がりのようなものがあった。
「らんちゃん。隊長と吉田さんなら確かにそんな物騒な連中とでもやりあえると思うけど……シャムちゃんがなんで入ってるの?あの娘、そんなに強いの?」
不思議そうにそう言うアイシャの言葉に全員がうなづく。誠もアイシャと同じ疑問を持った。
遼南内戦の無敵のエース。撃墜数198機。確かにシャムの十年前の戦績は常識を超えているのは分かる。だが、だれから見ても彼女は十歳ぐらいの小さな女の子である。戸籍上は三十代だが,そう言って信じる者は誰もいない。
確かに彼女が一流の法術師だということも誠も知っている。だが、それならば誠も第三小隊小隊長の嵯峨かえで少佐も小隊長である。誠にも自分の身は自分で守れるくらいの自信はあるし、それなりに危険な任務にもあたった経験のあるかえでまでもがシャムと比べて劣っているとは思えない。
「あの馬鹿か?アイツは特別製だ。オメー等はアイツのヤバさにまだ気づいちゃいないようだが……本気のあいつを敵に回した時の怖さってのを知っていて墓の下に入っていないのはアタシと吉田だけだ。アイツに護衛を付けようなんて酔狂はあいにくアタシは持ち合わせていなくてね」
ランは言葉を選びながらそう言った。そして最後に自嘲気味に笑う。その仕草はとても話題の小さな騎士、シャムよりさらに小さいランのものとは思えない。
「本気って……なんですかそれ?なんか、ナンバルゲニア中尉はもの本のバケモンで二段変身でもするってんですか?」
あまりにランの態度が脅しに入ってきているのが気に入らないのか、島田がいちゃもんをつける。
「島田よ。それはさっき狙撃兵相手にビビってた奴の言っていいセリフじゃねえな。アタシも本気のシャムって奴を生で見たわけじゃねえが、哀れな敵だった吉田とこのチビ隊長。それとあのちっちゃな悪魔の上司だった叔父貴から聞いた話を総合するとシャムってのは相当ヤバいバケモンだ。まあ、血塗られた戦場って奴をくぐってない幸せな平和な兵隊さんには一生分からないだろうがな。神前!カウラ!アイツが同僚でいる間に見ないで済むといいねえ、本気のシャムって奴」
かなめは感情のない笑みを浮かべながらそう言った。誠はかなめがそう言う表情を浮かべるときは嘘や冗談を言う時ではないことを知っていた。
「でも、あんなに仲間思いのシャムちゃんでしょ?本気を出したら鬼に金棒じゃない」
ひとしきり考えを巡らせた後、アイシャはそう言った。かなめとランはその言葉にため息をついた。
「まあ、理屈はそうだがな。ただ、ぶつかって玉砕したアタシの経験から言えば、本気のシャムが敵とか味方とか、そう言う人間なら誰でも理解できる尺度で動いてるとは思えねーな。なあに、そんな出来事がそうそう起こるなんて……あのシャムをもう一度拝むなんて……まあないだろうな」
ランの顔に一瞬だけ怯えの色が入ったことを誠は見逃さなかった。沈黙が流れる。ランとかなめが口を開かないのはシャムの本気の怖さをみなに知らしめた。
「怒りに我を忘れてバーサークするんですか?」
沈黙に耐えられず、手を挙げたサラがそう呟いた。黙って目を閉じていた隣の茜、ラーナが言葉の先、ランに視線を向ける。
「バーサーク?意識が飛んで、敵味方関係なく殺戮を開始するってことか?まあ、その程度で済む話ならアタシ等の理解の藩中だからな。どうにか手の打ちようがある……ってあれは実際実物を見るまで理解できねーだろうな。オメー等にできることはそう言う事態が起きないことだけだ。まあ、そんな事態が起きないように祈るってのがアタシ等にできる唯一のことかな」
力なくランは微笑んだ。
「なあに、アタシ等が言いたいのはだ。アイツを守ろうなんて思う必要はねえってことだ。カウラ、アイシャ、神前。お前等のシャムに対する態度。見ていて歯がゆかったぜ。テメエのケツも拭けねえ半人前が人を守ろうなんざお笑い草だ。ここに配属になったらまず自分が生きる方法を考えろ。人を守るなんて一人前の兵隊の言うセリフだ。アタシやランに言わせれば……オメエ等はまだまだ……」
かなめはそう言って再び加熱式タバコを取り出した。
「でも、私達軍人でしょ?」
立ち上がったアイシャがそう言って机を叩く。
「まあな。だが、あのうどん屋の親父レベルになると、普通の兵隊なんて射撃の的のスイカ同然だ。シャムもそっち側の人間だってことだ。そんな連中を前にしたらオメー等は無力だ。アタシ等の言う通り黙って逃げろ」
冷酷なランの言葉に誠達は打ちのめされた。
「で、オメエ等。アタシ等の話は分かったか?」
そう言ってかなめは周りを見回す。
「西園寺はともかく、クバルカ中佐が嘘を言うとは思えないからな。私も犬死はするつもりは無い」
カウラは静かにうなづいて隣のアイシャを見る。
「私だって死にたくないわよ!」
自分の胸を叩きながらアイシャは激しくそう言った。
「私も嫌……正人は?」
「馬鹿!俺だって!」
サラと島田も叫んだ。
「お父様もご存じとあれば、私(わたくし)に異存など……ラーナは?」
「へっへっへ、まあアタシも……死ぬのはしばらく先の方が……いいかと……」
法術特捜コンビの茜とラーナもそう言った。
「おい、神前。オメーもそうか?」
ランは一人黙って自分を見つめている誠に声を掛けた。
物騒なことを言う割に、かなめの顔は笑っていた。
「西園寺の言う事は大げさに聞こえるかもしれねーが、アタシも西園寺もその慎重さゆえに今があるんだ。だからアタシからも言っておく。本当にヤバい奴に出会って、その場にアタシ、西園寺、隊長、吉田、シャム、この五人が居ないときは逃げろ。もし東都の中での出会いなら、あの店に飛び込んであのデブにそれについて説明して保護を求めろ。まあ、順番は逆だが、同じことは第三小隊の連中には説明済みだ」
ランはそう言って笑った。その表情には強がりのようなものがあった。
「らんちゃん。隊長と吉田さんなら確かにそんな物騒な連中とでもやりあえると思うけど……シャムちゃんがなんで入ってるの?あの娘、そんなに強いの?」
不思議そうにそう言うアイシャの言葉に全員がうなづく。誠もアイシャと同じ疑問を持った。
遼南内戦の無敵のエース。撃墜数198機。確かにシャムの十年前の戦績は常識を超えているのは分かる。だが、だれから見ても彼女は十歳ぐらいの小さな女の子である。戸籍上は三十代だが,そう言って信じる者は誰もいない。
確かに彼女が一流の法術師だということも誠も知っている。だが、それならば誠も第三小隊小隊長の嵯峨かえで少佐も小隊長である。誠にも自分の身は自分で守れるくらいの自信はあるし、それなりに危険な任務にもあたった経験のあるかえでまでもがシャムと比べて劣っているとは思えない。
「あの馬鹿か?アイツは特別製だ。オメー等はアイツのヤバさにまだ気づいちゃいないようだが……本気のあいつを敵に回した時の怖さってのを知っていて墓の下に入っていないのはアタシと吉田だけだ。アイツに護衛を付けようなんて酔狂はあいにくアタシは持ち合わせていなくてね」
ランは言葉を選びながらそう言った。そして最後に自嘲気味に笑う。その仕草はとても話題の小さな騎士、シャムよりさらに小さいランのものとは思えない。
「本気って……なんですかそれ?なんか、ナンバルゲニア中尉はもの本のバケモンで二段変身でもするってんですか?」
あまりにランの態度が脅しに入ってきているのが気に入らないのか、島田がいちゃもんをつける。
「島田よ。それはさっき狙撃兵相手にビビってた奴の言っていいセリフじゃねえな。アタシも本気のシャムって奴を生で見たわけじゃねえが、哀れな敵だった吉田とこのチビ隊長。それとあのちっちゃな悪魔の上司だった叔父貴から聞いた話を総合するとシャムってのは相当ヤバいバケモンだ。まあ、血塗られた戦場って奴をくぐってない幸せな平和な兵隊さんには一生分からないだろうがな。神前!カウラ!アイツが同僚でいる間に見ないで済むといいねえ、本気のシャムって奴」
かなめは感情のない笑みを浮かべながらそう言った。誠はかなめがそう言う表情を浮かべるときは嘘や冗談を言う時ではないことを知っていた。
「でも、あんなに仲間思いのシャムちゃんでしょ?本気を出したら鬼に金棒じゃない」
ひとしきり考えを巡らせた後、アイシャはそう言った。かなめとランはその言葉にため息をついた。
「まあ、理屈はそうだがな。ただ、ぶつかって玉砕したアタシの経験から言えば、本気のシャムが敵とか味方とか、そう言う人間なら誰でも理解できる尺度で動いてるとは思えねーな。なあに、そんな出来事がそうそう起こるなんて……あのシャムをもう一度拝むなんて……まあないだろうな」
ランの顔に一瞬だけ怯えの色が入ったことを誠は見逃さなかった。沈黙が流れる。ランとかなめが口を開かないのはシャムの本気の怖さをみなに知らしめた。
「怒りに我を忘れてバーサークするんですか?」
沈黙に耐えられず、手を挙げたサラがそう呟いた。黙って目を閉じていた隣の茜、ラーナが言葉の先、ランに視線を向ける。
「バーサーク?意識が飛んで、敵味方関係なく殺戮を開始するってことか?まあ、その程度で済む話ならアタシ等の理解の藩中だからな。どうにか手の打ちようがある……ってあれは実際実物を見るまで理解できねーだろうな。オメー等にできることはそう言う事態が起きないことだけだ。まあ、そんな事態が起きないように祈るってのがアタシ等にできる唯一のことかな」
力なくランは微笑んだ。
「なあに、アタシ等が言いたいのはだ。アイツを守ろうなんて思う必要はねえってことだ。カウラ、アイシャ、神前。お前等のシャムに対する態度。見ていて歯がゆかったぜ。テメエのケツも拭けねえ半人前が人を守ろうなんざお笑い草だ。ここに配属になったらまず自分が生きる方法を考えろ。人を守るなんて一人前の兵隊の言うセリフだ。アタシやランに言わせれば……オメエ等はまだまだ……」
かなめはそう言って再び加熱式タバコを取り出した。
「でも、私達軍人でしょ?」
立ち上がったアイシャがそう言って机を叩く。
「まあな。だが、あのうどん屋の親父レベルになると、普通の兵隊なんて射撃の的のスイカ同然だ。シャムもそっち側の人間だってことだ。そんな連中を前にしたらオメー等は無力だ。アタシ等の言う通り黙って逃げろ」
冷酷なランの言葉に誠達は打ちのめされた。
「で、オメエ等。アタシ等の話は分かったか?」
そう言ってかなめは周りを見回す。
「西園寺はともかく、クバルカ中佐が嘘を言うとは思えないからな。私も犬死はするつもりは無い」
カウラは静かにうなづいて隣のアイシャを見る。
「私だって死にたくないわよ!」
自分の胸を叩きながらアイシャは激しくそう言った。
「私も嫌……正人は?」
「馬鹿!俺だって!」
サラと島田も叫んだ。
「お父様もご存じとあれば、私(わたくし)に異存など……ラーナは?」
「へっへっへ、まあアタシも……死ぬのはしばらく先の方が……いいかと……」
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