353 / 1,503
第5章 魔都
怪しい男
しおりを挟む
「へえ、こいつが今の姐御の良い人ですか?」
「そんなんじゃねえよ。注文とるんだろ?アタシはキツネだ」
三郎はかなめの顔を見てにやりと笑って今度はランを見た。
「てんぷらうどん」
ランはそれだけ言うと立ち上がる。彼女が冷水器を見ていたのを察して三郎という名のチンピラは立ち上がった。
「ああ、お水ですね!お持ちしますよ」
下卑た笑顔で立ち上がった三郎はそのままカウンターの冷水器に向かう。
「ああ、姐御のおまけの兄ちゃんよう。姐御とは……ってまだのようだな」
ちらりと誠を見て三郎は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。カウラは黙っているが、誠もランも三郎がかなめと肉体関係があったことを言いたいらしいことはすぐに分かった。
「私は……ああ、私もてんぷらうどんで」
カウラはまるっきり分かっていないようでそのまま壁の品書きを眺めている。
「僕はきつねで」
「きつね二丁!てんぷら二丁」
店の奥で大将がうどんをゆで始めているのを承知で大げさに言うと三郎は三つのグラスをテーブルに並べる。
「おい、コイツの分はどうした」
明らかに威圧するような調子でかなめは三郎を見つめる。子供じみた嫌がらせに誠はただ苦笑する。
「えっ!野郎にサービスするほど心が広いわけじゃなくてね」
その言葉に立ち上がろうとする誠をかなめは止めた。
「店員は店員らしくサービスしろよ。な?アタシもそのときはサービスしたろ?」
かなめがわざと低い声でそう言うと、三郎は仕方が無いというように立ち上がり冷水器に向かった。
「で? 西園寺。アタシになつかしの遼南うどんを食べさせるって言うだけでここに来たんじゃねーんだろ?」
三郎が席を外しているのを見定めてランがそうつぶやいた。
「今回の事件の鍵は人だ。そして人を集める専門家ってのに会う必要があるだろ?」
明らかにかなめは表情を押し殺しているように見えた。その視線が決して誠と交わらないことに気づいて誠はうつむく。
「そう言うことでしょうね。そりゃあそうだ」
聞き耳を立てていた三郎が引きつるような声を上げた。
「俺は専門家ってわけじゃないですが、今は俺がここらのシマの人夫出しを仕切っているのは事実ですよ」
そう言うと三郎はぞんざいに誠の前にコップを置いた。
「人の流れから掴むか。だが信用できるのか?」
手に割り箸を握り締めながらカウラは不安そうに三郎を見つめる。だが三郎の視線が自分の胸に行ったのを見てすぐに落ち込んだように黙り込んだ。
「失敬だねえ。一応ビジネスはしっかりやる方なんですよ。外界の法律が機能しないこの租界じゃあ信用ができるってことだけでも十分金になりますから」
そう言って三郎はタバコを取り出した。
「こら!客がいるんだ!それより、できたぞ」
店の奥の厨房でうどんをゆでていた三郎の父と思われる老人が叫ぶ。仕方がないと言うように三郎はそのままどんぶりを運んだ。
「人が動く……通行証の管理もオメエがやってるのか?」
受け取ったきつねうどんを手にするとかなめはそのまま三郎を見上げた。
「俺も一応出世しましてね。わが社の専門スタッフが……」
「専門スタッフねえ、舎弟を持てるとこまできたのか」
かなめはそう言うとうどんを啜りこむ。今度は誠も無視されずに目の前にうどんを置かれた。
「ああ、そうだ。同業他社の連中の顔は分かるか?」
一息ついたかなめの一言に三郎の顔に陰がさす。そしてそのまま三郎の視線は誠を威嚇するような形になった。
「ああ、知ってますよ。ですがいろいろと競争がありますからねえ」
「それで十分だ。さっきお前の通信端末にデータは送っといたからチェックして返信してくれ」
あっさりそう言うとかなめはうどんの汁を啜る。昆布だしと言うことは遼南の東海州の味だと思いながら誠も汁を啜った。
「まじっすか?あの頃だって店の連絡先しか教えてくれなかったのに……ヒャッホイ!」
いかにもうれしそうに叫んだ三郎が早速ポケットから端末を取り出した。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!これは仕事だ。それにそいつは仕事の用の端末だからな。落石事故かタンカーが転覆したときに連絡するのもかまわねえぞ」
かなめはそう言って一気にどんぶりに残った汁を啜りこんだ。そんなかなめに三郎は心底がっかりした様子でうどんをすする様子を見つめていた。
「そんなんじゃねえよ。注文とるんだろ?アタシはキツネだ」
三郎はかなめの顔を見てにやりと笑って今度はランを見た。
「てんぷらうどん」
ランはそれだけ言うと立ち上がる。彼女が冷水器を見ていたのを察して三郎という名のチンピラは立ち上がった。
「ああ、お水ですね!お持ちしますよ」
下卑た笑顔で立ち上がった三郎はそのままカウンターの冷水器に向かう。
「ああ、姐御のおまけの兄ちゃんよう。姐御とは……ってまだのようだな」
ちらりと誠を見て三郎は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。カウラは黙っているが、誠もランも三郎がかなめと肉体関係があったことを言いたいらしいことはすぐに分かった。
「私は……ああ、私もてんぷらうどんで」
カウラはまるっきり分かっていないようでそのまま壁の品書きを眺めている。
「僕はきつねで」
「きつね二丁!てんぷら二丁」
店の奥で大将がうどんをゆで始めているのを承知で大げさに言うと三郎は三つのグラスをテーブルに並べる。
「おい、コイツの分はどうした」
明らかに威圧するような調子でかなめは三郎を見つめる。子供じみた嫌がらせに誠はただ苦笑する。
「えっ!野郎にサービスするほど心が広いわけじゃなくてね」
その言葉に立ち上がろうとする誠をかなめは止めた。
「店員は店員らしくサービスしろよ。な?アタシもそのときはサービスしたろ?」
かなめがわざと低い声でそう言うと、三郎は仕方が無いというように立ち上がり冷水器に向かった。
「で? 西園寺。アタシになつかしの遼南うどんを食べさせるって言うだけでここに来たんじゃねーんだろ?」
三郎が席を外しているのを見定めてランがそうつぶやいた。
「今回の事件の鍵は人だ。そして人を集める専門家ってのに会う必要があるだろ?」
明らかにかなめは表情を押し殺しているように見えた。その視線が決して誠と交わらないことに気づいて誠はうつむく。
「そう言うことでしょうね。そりゃあそうだ」
聞き耳を立てていた三郎が引きつるような声を上げた。
「俺は専門家ってわけじゃないですが、今は俺がここらのシマの人夫出しを仕切っているのは事実ですよ」
そう言うと三郎はぞんざいに誠の前にコップを置いた。
「人の流れから掴むか。だが信用できるのか?」
手に割り箸を握り締めながらカウラは不安そうに三郎を見つめる。だが三郎の視線が自分の胸に行ったのを見てすぐに落ち込んだように黙り込んだ。
「失敬だねえ。一応ビジネスはしっかりやる方なんですよ。外界の法律が機能しないこの租界じゃあ信用ができるってことだけでも十分金になりますから」
そう言って三郎はタバコを取り出した。
「こら!客がいるんだ!それより、できたぞ」
店の奥の厨房でうどんをゆでていた三郎の父と思われる老人が叫ぶ。仕方がないと言うように三郎はそのままどんぶりを運んだ。
「人が動く……通行証の管理もオメエがやってるのか?」
受け取ったきつねうどんを手にするとかなめはそのまま三郎を見上げた。
「俺も一応出世しましてね。わが社の専門スタッフが……」
「専門スタッフねえ、舎弟を持てるとこまできたのか」
かなめはそう言うとうどんを啜りこむ。今度は誠も無視されずに目の前にうどんを置かれた。
「ああ、そうだ。同業他社の連中の顔は分かるか?」
一息ついたかなめの一言に三郎の顔に陰がさす。そしてそのまま三郎の視線は誠を威嚇するような形になった。
「ああ、知ってますよ。ですがいろいろと競争がありますからねえ」
「それで十分だ。さっきお前の通信端末にデータは送っといたからチェックして返信してくれ」
あっさりそう言うとかなめはうどんの汁を啜る。昆布だしと言うことは遼南の東海州の味だと思いながら誠も汁を啜った。
「まじっすか?あの頃だって店の連絡先しか教えてくれなかったのに……ヒャッホイ!」
いかにもうれしそうに叫んだ三郎が早速ポケットから端末を取り出した。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!これは仕事だ。それにそいつは仕事の用の端末だからな。落石事故かタンカーが転覆したときに連絡するのもかまわねえぞ」
かなめはそう言って一気にどんぶりに残った汁を啜りこんだ。そんなかなめに三郎は心底がっかりした様子でうどんをすする様子を見つめていた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
潜水艦艦長 深海調査手記
ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。
皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は蚊帳の外です。
豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」
「いえ、違います」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる