レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
343 / 1,503
第4章 職場

婚礼話

しおりを挟む
 雑談していた警備班員が顔を覗かせる。いつものようにカウラはそれを見て窓を開いた。

「ああ、ベルガー大尉。駐車場はいま満員御礼ですよ」 

 丸刈りの警備部員が声をかけてくる。

「島田か?」 

 そのカウラの問いに隊員はうなづく。

「ったくアイツ等なに考えてんだか……」 

 かなめの声を無視してカウラは車を走らせる。駐車場が見える前から野次馬の姿が見て取れた。

「おい、停められるか?」 

 そう言ってかなめが身を乗り出す。そのままゆっくりと近づくカウラの車に気づいてブリッジオペレータの女性隊員が脇によける。

 そうするとそこにはタイヤを外されてジャッキで持ち上げられた小型自動車が見えた。

「ちょっとそこに停めろ。降りるから」 

 かなめの言葉にカウラは小型車の手前で車を停める。ニヤニヤしているアイシャが助手席から降り、誠も追い出される。そのままかなめは苦笑いを浮かべながら見慣れない車に近づいていく。

「おう、西園寺か。見ろ凄いだろ?」 

 取り付けようとする新品のサスペンションを手に得意満面の第四小隊小隊長ロナルド・スミスJrがいる。だがかなめはそれを無視してエンジンをいじっているつなぎ姿の島田の後ろまで行き思い切り尻を蹴り上げた。

「痛て!」 

「バーカ!いちいち喚くな!痛いように蹴ってるんだよ!」 

 かなめの声に飛び跳ねるように島田が振り向く。隣に立っていたサラとパーラも振り向いた。

「ここは職場だ。仕事をしろ仕事を!」 

「でもまだ始業時間じゃ……」 

 島田は口答えをしようとするがかなめのタレ目の不気味な迫力に押されて黙り込んだ。

「それに昨日の件で話があるそうだ」 

 車を奥に停めてきたカウラの言葉に島田は悟った。

「おい!自動車の内燃機関は技術屋の基本だぞ!お前等も壊さない程度によく構造を把握しておけ!後で細かい説明はするからな」 

 島田は周りで彼の作業を見ていた整備班員にそう言うとそのまま正門へと走り去る。サラとパーラもそれに続いた。

「あらあらかなめちゃんがまじめに仕事しろなんて言うからびっくりしちゃったわ!」 

 手を合わせているアイシャにかなめは照れたように頭を掻く。

「その仕事を振ってくれる人が来たぞ」 

 カウラは白いセダンが散っていく野次馬達の間から白いセダンから降りている茜達の姿を見ていた。

「そうだな。どういう指示を出すか。実に見ものだな」 

 そう言うとかなめはそのまま茜達を無視してハンガーへと急ぐ。

「かなめちゃん!おはよう!」 

 巨大な熊、グレゴリウス16世の背中に乗っている猫耳をつけた第一小隊二番機担当のナンバルゲニア・シャムラード中尉の言葉も完全に無視してかなめはそのまま歩き続けた。

「アイシャ。何かあったの?」 

「知らないわよ」

 心配そうなシャムの質問にアイシャは困ったように両手を広げて見せた。誠もかなめの気まぐれに気をつけようと心に誓いながらハンガーを目指して歩いた。

 誠がハンガーに足を踏み入れると、誠の専用アサルト・モジュール05式乙型の前で足を止めているかなめがいた。

「どうしたんですか?西園寺さん」 

「リアルに作ってたんだな、アイシャの奴」 

 誠の薄い灰色のステルス表面塗料の上にエロゲーム『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃん描かれて、『痛ロボ』と言うことでミリタリー雑誌の紙面を飾った機体を見上げている。

「そうよ。すべてはこれをデザインした本人の資料を使ったんだから」 

 胸を張るアイシャとあまりの反響に照れている誠がそこにいた。

「ああ、そう言えば今日は明華の姐御は休暇だったな」 

 技術部員がちらほらとしか見られないことに気づいたカウラがそう言った。それを見てアイシャがにんまりと笑う。

「あれじゃない、式の衣装とか選んでるとか……」 

 司法局本局付き士官の明石清海中佐と、技術部部長で事実上の司法局実働部隊の最高実力者と噂される許明華大佐の結婚はすでに翌年の6月と言うことが決まっていた。アイシャとカウラがちらちらと誠を見つめてくるのを無視してかなめが口を開いた。

「今からか?まだ11月だぜ。胡州と遼北で式はやるって聞いてるけど……選ぶのにそんなにかかるのか?」 

 ぶっきらぼうにたずねるかなめにアイシャは大きくため息をつく。

「分かってないわね。私も姐御に見せてもらったけどカタログがこんなに厚いのが二つよ!それに一生に一度のことだもの。迷うわよ」 

「そんなもんか?」

「そうなんだろ」

 かなめの問いにそれだけ答えるとカウラは事務所へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア
ファンタジー
孤児からストリートチルドレンとなり、その後も養父に殺害されかけたりと不幸な人生を歩んでいた天才錬金術師グラス=ディメリア。 若くして病魔に蝕まれ、死に抗おうと最後の研究を進める彼は、禁忌に触れたとして女神の代行者――神人から処刑を言い渡される。 抗うことさえ出来ずに断罪されたグラスだったが、女神アウローラから生前の錬金術による功績を讃えられ『転生』の機会を与えられた。 本来であれば全ての記憶を抹消し、新たな生命として生まれ変わるはずのグラスは、別の女神フォルトナの独断により、記憶を保有したまま転生させられる。 グラスが転生したのは、彼の死から三百年後。 赤ちゃん(♀)として生を受けたグラスは、両親によってリーフと名付けられ、新たな人生を歩むことになった。 これは幸福が何かを知らない孤独な錬金術師が、愛を知り、自らの手で幸福を掴むまでの物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...