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第28章 ニューカマー
天敵
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皆が沈黙する隊長室ににノックの音が響く。
「お父様!」
茜が声をかけるが嵯峨は完全にいじけ切って黙って机の上に積もった埃でなにやら絵を描き始めていた。
「どうぞ!」
かなめはいつまでもうじうじとうなだれている叔父を見限ったように大声で怒鳴る。そしてそこに入ってきたのは機動部隊第一小隊の吉田俊平少佐、技術部部長許明華大佐、警備部部長マリア・シュバーキナ少佐、そしてすでに同盟軍事機構への転属の手続きを済ませている管理部部長アブドゥール・シャー・シン大尉の姿だった。
司法局実働部隊の指揮官待遇の面々が同じように冷たい目線で嵯峨を見つめながら部屋に並ぶ。一人入ってくるごとに嵯峨の表情が暗く陰鬱なものに変わっていった。
全員の視線が冷たく刺さるのを感じているらしい嵯峨が突然立ち上がった。
「まず言っておくことがある!」
突然そう言った嵯峨に一同は何事かと驚いたような顔をした。誠も指揮官達と嵯峨の顔を見比べながら何が起きるのかと目を凝らした。
「ごめん!俺の実力不足だ。かえでの配属は防げなかった」
「謝られても……私のところはレベッカに謝ってもらえばいいだけだから」
明華はそう言うと再び彼女らしい鋭い射るような視線で嵯峨を見つめる。誠は技官レベッカ・シンプソン中尉の豊かな胸を思い出し思わずうなづいた。
「お父様。かえでさんの人事は康子伯母様のご意向が働いたのではないですか?かえでさんは確かに腕の立つ法術師ですが独断専行は姉であるかなめお姉さま譲りですから。うちなら神前君と言うフォローが利く人材もいる。しかも前線勤務が希望のかえでさんもトラブル満載の司法局勤務なら胡州海軍首脳部も文句は言わない……と」
思いついたように口を開く茜に図星を指されたというように嵯峨は頭を掻く。そしてその視線がかなめに向けられるとこの部屋にいる人々の視線は彼女に集中した。
「おい!お袋のせいにするなよ!大体ああいうふうに育ったのは叔父貴の教育のせいだろ?元々嵯峨家は東和に亡命した茜の代わりにアイツが継ぐ予定でアイツの教育は嵯峨家で行われていたいんだから。アタシに似てる?知らないねえ!」
「嵯峨家で教育……そんなことしてないぞ!俺は教育してないからな。それを言うなら原因はオメエだろ?姉さん気取りで西園寺家の庭の松に裸にしたかえでを逆さに吊るして棒でひっぱたいて遊んでいたのは知ってるぜ。だからああいう性格になったという……まあそんなひどいことする餓鬼がいるわけ無いよな?」
嵯峨は感情を殺した表情でかなめを見つめる。誠はなんとなくその光景が思い浮かんだ。かなめは三歳で祖父を狙ったテロに巻き込まれて体の大半を失ったと言うことは誠も知っていた。今と変わらぬ姿で小さなかえでを折檻するかなめの姿。思わず興奮しそうになる自分をなだめながら周りの人々の気配に顔を赤く染めていた。
「アタシは躾でやっただけだぞ!それにほとんどがアタシにキスしようとしたり、胸を揉んだりしたから……茜!何とか言え!」
「認めましたね、かなめさん。かえでさんの性癖の原因が自分だと」
茜がかなめの肩を叩く。そしてかなめも自分の言ったことに気づいて口を押さえたが後の祭りだった。
「まあ、鎗田を吊るす手つきがずいぶん慣れてたのはそのせいなのかしらね」
明華は生ぬるい視線をかなめに向ける。隣でマリアがうなづいている。
「姐御!アタシは……」
「サディストだな」
吉田は腕組みをして納得したようにつぶやく。
「アイシャが聞いたら驚くだろうな」
「って別にかなめをいじめるためにオメエ等に集まってもらったわけじゃないんだけどな」
嵯峨はそう言って一同の顔を見渡す。
「叔父貴、いつかシメる。絶対いつか潰すからな」
かなめのぎゅっと握り締められたこぶしを見て、誠は思わず身震いした。
「お父様!」
茜が声をかけるが嵯峨は完全にいじけ切って黙って机の上に積もった埃でなにやら絵を描き始めていた。
「どうぞ!」
かなめはいつまでもうじうじとうなだれている叔父を見限ったように大声で怒鳴る。そしてそこに入ってきたのは機動部隊第一小隊の吉田俊平少佐、技術部部長許明華大佐、警備部部長マリア・シュバーキナ少佐、そしてすでに同盟軍事機構への転属の手続きを済ませている管理部部長アブドゥール・シャー・シン大尉の姿だった。
司法局実働部隊の指揮官待遇の面々が同じように冷たい目線で嵯峨を見つめながら部屋に並ぶ。一人入ってくるごとに嵯峨の表情が暗く陰鬱なものに変わっていった。
全員の視線が冷たく刺さるのを感じているらしい嵯峨が突然立ち上がった。
「まず言っておくことがある!」
突然そう言った嵯峨に一同は何事かと驚いたような顔をした。誠も指揮官達と嵯峨の顔を見比べながら何が起きるのかと目を凝らした。
「ごめん!俺の実力不足だ。かえでの配属は防げなかった」
「謝られても……私のところはレベッカに謝ってもらえばいいだけだから」
明華はそう言うと再び彼女らしい鋭い射るような視線で嵯峨を見つめる。誠は技官レベッカ・シンプソン中尉の豊かな胸を思い出し思わずうなづいた。
「お父様。かえでさんの人事は康子伯母様のご意向が働いたのではないですか?かえでさんは確かに腕の立つ法術師ですが独断専行は姉であるかなめお姉さま譲りですから。うちなら神前君と言うフォローが利く人材もいる。しかも前線勤務が希望のかえでさんもトラブル満載の司法局勤務なら胡州海軍首脳部も文句は言わない……と」
思いついたように口を開く茜に図星を指されたというように嵯峨は頭を掻く。そしてその視線がかなめに向けられるとこの部屋にいる人々の視線は彼女に集中した。
「おい!お袋のせいにするなよ!大体ああいうふうに育ったのは叔父貴の教育のせいだろ?元々嵯峨家は東和に亡命した茜の代わりにアイツが継ぐ予定でアイツの教育は嵯峨家で行われていたいんだから。アタシに似てる?知らないねえ!」
「嵯峨家で教育……そんなことしてないぞ!俺は教育してないからな。それを言うなら原因はオメエだろ?姉さん気取りで西園寺家の庭の松に裸にしたかえでを逆さに吊るして棒でひっぱたいて遊んでいたのは知ってるぜ。だからああいう性格になったという……まあそんなひどいことする餓鬼がいるわけ無いよな?」
嵯峨は感情を殺した表情でかなめを見つめる。誠はなんとなくその光景が思い浮かんだ。かなめは三歳で祖父を狙ったテロに巻き込まれて体の大半を失ったと言うことは誠も知っていた。今と変わらぬ姿で小さなかえでを折檻するかなめの姿。思わず興奮しそうになる自分をなだめながら周りの人々の気配に顔を赤く染めていた。
「アタシは躾でやっただけだぞ!それにほとんどがアタシにキスしようとしたり、胸を揉んだりしたから……茜!何とか言え!」
「認めましたね、かなめさん。かえでさんの性癖の原因が自分だと」
茜がかなめの肩を叩く。そしてかなめも自分の言ったことに気づいて口を押さえたが後の祭りだった。
「まあ、鎗田を吊るす手つきがずいぶん慣れてたのはそのせいなのかしらね」
明華は生ぬるい視線をかなめに向ける。隣でマリアがうなづいている。
「姐御!アタシは……」
「サディストだな」
吉田は腕組みをして納得したようにつぶやく。
「アイシャが聞いたら驚くだろうな」
「って別にかなめをいじめるためにオメエ等に集まってもらったわけじゃないんだけどな」
嵯峨はそう言って一同の顔を見渡す。
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