レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
326 / 1,505
第28章 ニューカマー

人選

しおりを挟む
「お待たせしました」

 誠はそう言ってかえで達に作り笑顔を向けるが二人の視線は誠の後ろに向けられていた。

「彼女はなんだ?」

 驚いて誠は振り返る。そこには好奇心に負けて誠をつけてきたグレゴリウス16世にまたがったシャムがいた。

「かえでちゃん初めまして!」

 そう言うとシャムはまるで馬から降りる騎士のように大地に降り立った。シャムはそのままかえで達の周りを好奇心の目で二人を見ながら一周する。

「へーこの人がかえでちゃんなんだ。そしてとなりが渡辺要《わたなべかなめ》ちゃんと……二人ともかわいいね」

 しばらくかえでと渡辺は何が起きたかわからないというように立ち続けていた。誠は仕方なくシャムを紹介しようと口を開く。

「あの、この人がナンバルゲニア・シャム……!」 

 誠がシャムを紹介しようとした瞬間、かえでの手がシャムの胸元に伸びた。そしてさも当然と言うように小さなシャムの胸を軽くなでるようにさすった。

「あ!」 

 突然のことにシャムは呆然とする。誠もまた何もできずにかえでの行動を見守っていた。

「うん、実に良い。それでは神前曹長、案内を頼む」 

 かえではそう言うと何事も無かったかのように誠に目を移す。シャムはと言えばしばらく呆然と誠を見上げていたが、すぐに喜びにあふれた表情を浮かべた。

「これよ!これがかえでちゃんなのよ!やっぱり思ったとおり!おっぱいマニアだね!」 

 誠の理解の範疇を超えた領域でシャムは喜びの叫びをあげる。一方、誠はこの珍客が必ず騒動を起こすだろうと察して渋い顔をしてそのまま正面玄関から隊舎に入った。

 幸運なことに運行部の女性隊員は廊下に居なかった。

「誠ちゃん、荷物くらい持ってあげようよ」 

 渡辺の手から手荷物を預かろうとするシャムの声に気がついたように誠はかえでを見つめた。

「ああ、頼めるか?」 

 そう言ってかえでから渡されたかばんはその体積の割りに重たく感じられた。

「じゃあ、隊長室は二階ですから」 

 誠はそう言うとそのまま階段を上る。かえでも渡辺も相変わらず黙って誠のあとに続いた。シャムはニヤニヤしながらその後ろを行く。

「ここが更衣室です……」 

 かえでは特に気にならないというような顔をして黙っている。誠もとりあえず彼女と同じように黙っていようと思いながら廊下を右に折れた。

「ここが茜様の執務室か」 

 かえでが口を開いたのは、彼女の従姉妹である嵯峨茜警視正が常駐している遼州同盟法術犯罪特捜本部の部屋の前だった。

「挨拶していきますか?」 

 こわごわ尋ねる誠にかえでは首を振りそのまま歩き出す。誠はそのまま彼女の前に出て隣のセキュリティーシステムを常備したコンピュータルームを指差すが、かえではまったく関心も無いというようにそのまま嵯峨がいる隊長室の前に立った。

 そのまま誠を無視してかえでは隊長室のドアをノックする。

「おう、いいぞ」 

 嵯峨の声を聞くとかえでと渡辺は当然のようにドアを開けて入った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...