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第26章 後かたずけ
狙撃
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バルキスタン中部の政府軍の秘密キャンプは雨季には珍しい晴天に恵まれていた。天空から降り注ぐ光ははこの土地が赤道に近いことを知らせるように赤土の目立つ大地を焼き、茂る下草と潅木の上に容赦なく降り注いでいた。
「気温は摂氏38度、湿度は75%」
カモフラージュされたテントから這い出て草むらに身を隠す女性士官は手元の計器の値を読み上げた。彼女が双眼鏡を構えて見つめている先にはキャンプの中でもひときわ大きな建物の裏口があった。警備兵も居らず、静まり返っている。
「隊長の情報網だからな、間違いは無いと思うが。それにしても……」
女性士官の足元には寝そべるようにして狙撃銃を構える士官がいた。地面に寝そべり土嚢の上に構えられたライフルはブレイザーR93。骨董品のこの銃のマガジンを手元に三つ並べている彼だが、ようやく踏ん切りがついたと言うようにその中央のマガジンを手に取ると銃に装着しレバーを引いて装弾した。
手前の鉄条網の前を政府軍兵士が往復している。彼ら、観測員エダ・ラクール少尉と狙撃手キム・ジュンヒ少尉がこの場所で監視を始めてから次第に警備の兵士の巡回のペースが上がっているのが分かった。
反政府軍の攻勢が二人の後輩である神前誠曹長の法術兵器の一撃で失敗に終わったあと、政府軍の首魁、エミール・カント将軍は首都の執務室からこのキャンプへと身を隠していた。同盟はカント将軍の意向を無視して人道目的の支援の名目で両軍のにらみ合う地域に部隊を派遣、事実上の占領を開始していた。全面衝突を防ぐことに成功したと言う美名と医療支援と治安確保という名目を並べられてはカント将軍もそれを黙認せざるを得なくなっていた。
かつて胡州やゲルパルトの野党勢力の資金源として、麻薬やレアメタルの生産ルートの権益を一手に担ってきたカント将軍は近藤と言う販路を失い、その流通ルートの調査が進む現状で胡州やアメリカに今回の議会選挙の実施提案を呑まされていた。そして今回の反政府勢力と呼応しての大茶番が失敗した今では、混乱に乗じて特殊部隊の展開をほのめかす各国の司法当局の目が集まる首都の執務室さえ安全な場所とはいえなくなっていた。
ジャングルの中の秘密キャンプ。この存在を知るのは限られたカント将軍の腹心とされる人物だけと思われていた。
「カントの旦那。逃げ延びたつもりだろうが……」
地面すれすれに置かれた狙撃銃のスコープを覗き込み、キムはキャンプの監視を続ける。その視界には数名の政府軍兵士がいるだけで特に厳しい警備がなされているわけではなかった。
「でもおかしくないかしら。一国の権力者がこんなに警備が薄いキャンプにいるなんて。確かにこのキャンプが今はアメリカの監視下に無いとしてもいったん動けばすぐに発見されるはずよね」
双眼鏡を下ろしてエダはアサルトライフルを握り締める。キムはただスコープを覗くだけ。
「そんなことは俺達の給料のうちじゃないよ。ただここに将軍殿がいればその頭に308ウィンチェスター弾を叩き込む。それが俺の任務だ」
そう言って静かに安全装置を解除して再びスコープを覗き込む。
昼の日差しで汗は容赦なく目の中に入り込もうとする。キムは何度か手袋の布でそれをぬぐう。カモフラージュの為に顔に塗ったフェイスペイントも次第に汗に流されていく。
「車両が来るわね」
エダがそう告げる。一両の重機関銃を積んだ四輪駆動車がキャンプの警備兵に停車を命じられているのを見つけた。
「アサルト・モジュールで踏み潰せば簡単なんだろうがな……まあそんなことしたら軌道上に待機中の胡州・アメリカ連合軍がおっとり刀で駆けつけてバルキスタン全土大混乱か」
皮肉めいた笑みを浮かべるキムだが、彼の視線は中央の建物から外れることは無い。空調の室外機のプロペラが止まることなく回転を続けていることだけが中に人がいることを知らしめていた。
入り口で止められていた車両の前のゲートが開き、車両はそのまま二両の装甲車の隣に停められた。
『アロー!アロー!』
突然エダの装備していた無線機に声が入る。彼女は緊張した面持ちで無線機を握った。
「感度良好」
エダが無線機に話しかける。そして彼女はそのまま停止したばかりの車両から降りる二人の政府軍の将校を見つめていた。
『ほう、少しは警戒してくると思ったがそうでもないみたいだな』
無線の向こうの男の笑みが想像できてキムは思わず噴出しそうになりながら銃のストックを頬に当てて笑いをこらえる。
「このチャンネルを使うことが許されているのは遼州では司法局実働部隊だけですもの。少なくとも何か私達に感心のあるお話がある人しか使わないから答えたまでよ」
そう言いながらエダは手にした小銃のグリップを握り締める。
『そう言えばそうだな。さすが陛下の部下の方は頭の回転が速い』
相手の言葉に『陛下』と言う言葉が混じったことでエダが相手の素性を察した。嵯峨を『陛下』と呼ぶ諜報作戦部隊は一つしかなかった。司法局実働部隊隊長の嵯峨は遼南帝国の皇帝の位の退位を宣言しながら議会によりそれが無効とされている。遼南帝国の特殊作戦部隊『青銅騎士団』だけがこの状況で活動可能な部隊であることはエダも理解していた。
「で、遼南の軍関係のお方が何の用かしら?しかも標的の目の前に四輪駆動車に重機関銃積んだだけで現れるなんて」
そう言いながらエダは身を伏せる。キムは静かに呼吸を整えている。二人の位置がこの無線の相手に特定されている可能性は大きかった。キムのライフルのスコープの中の二人の士官。その一人はそのまま建物の中に入った。もう一人はタバコを取り出すと入り口でそれに火をつけた。
『アメリカと胡州の特殊作戦部隊がすでにこの地域への浸透を開始している。エダ・ラクール少尉。君から見て10時の方向にある小屋をよく見てくれ』
エダのフルネームを言った無線の主の言葉に従い、ぬるく流れる風にたなびく振りをしながら小屋に目を向けた。
素人ならば見逃すかもしれない。それどころかエダの遺伝子レベルでの改造により強化された視力が無ければ見逃す方が自然に思えるほどだった。小屋にかけられたすのこの破れた目から一本の鉄の筒が飛び出している。藪の中を移動している迷彩服。時折、藪の緑がゆれて見えている。
そこを小隊規模の部隊が移動していることは明らかだった。しかも、その動きは俊敏かつ的確であり、そこに敵対勢力が隠れているという先入観がなければその動きは把握できないほどに訓練された部隊であることは理解できた。
「あれは多分……アメリカ陸軍の特殊部隊。分かったわ、信用しましょう。でも彼等の目的はカント将軍の略取よね。おそらくこのままカント将軍が姿を現さなければ彼らの実力で突入作戦を敢行。悪の根源カント将軍はそのままアメリカの法廷に引き出されることになるわね」
エダの言葉に無線の相手はため息をついた。
「あの人が遼南の諜報員だな」
突然キムがつぶやく。再び無線をひらいたままエダはキャンプに目をやった。相変わらず軍服の男がカント将軍がいるらしい建物の入り口でタバコをくゆらせている。時折視線をキム達に向けるのは明らかにそこに二人が隠れていることを知っているかのようにも見えた。
『物分かりがよくてありがたいよ。そして遼州同盟を不愉快に思うアーミーの連中が、その移送の間にカント将軍の記憶を改竄して同盟解体の引き金になるような発言をさせるよう彼らが仕組んだところで、同盟機構にはその工作を証明する手立ては何も無い』
タバコの士官はがその言葉が終わると明らかにエダの場所が分かっているとでも言うように向き直る。
「そりゃ心配しすぎでしょ。どうせ俺等が出張ってきたのは同盟の分裂の引き金にもなりかねない遼州の恥部を知り尽くした哀れな亡国将軍に死に場所を用意するくらいのことなんじゃないですか?」
そう言いながらキムは黙って銃を構える。
『正直だね君は。実はまもなくカント将軍は移動することになっている。胡州の現政府に批判的な勢力からのタレコミで将軍も自分が標的になっていることがわかったらしい。あと数分でカント将軍は私の立っているところを通過する予定だ。この建物のドアから装甲車までの距離が80メートル。さて、君達はどう任務を遂行する?』
「もったいつけなくても良いですよ。とりあえず半分まで来れば胡州・アメリカの特殊作戦部隊が動く。それまでに何とかしろということでしょ?」
キムはにやりと笑いそのまま頬を銃のストックに押し付け再び呼吸を整える。
『では、成功を祈っているよ』
男はそのままタバコを投げ捨ててキャンプの建物に向き直った。
その時、建物の扉が開かれ、重武装の護衛達が次々と建物から吐き出された。その中央に時々見える白い髪の老人。キムはスコープの中にその男を捉えた。
キムのスコープの中で大きく映し出される老人の姿。慌てる警備兵をなだめるようにその口は開かれる。その周りには防弾ベストを着込んだフル装備の警備兵が銃を構えながら取り囲んでいた。
エダに通信を送っていた士官はそのまま警備の兵士に近づいていく。
二人のところからカント将軍までの距離は700メートル。自分で使用済みの薬莢に火薬を詰めなおして調整した弾の軌道はすでにキムの頭の中には叩き込まれていた。警戒しつつ移動するカント将軍と警備兵。その白い頭を中心に捕らえながらキムは静かに引き金を引き絞る。
彼の銃が火を噴く。強力な308ウィンチェスターマグナム弾の反動で肩に走る痛み。すぐに次弾を装填してスコープの中を覗き込んだキムの前で首のない将軍だった肉の塊が倒れこむのが見えるのと、突入部隊が警備兵達の上空にガス弾を撃ち込むのがほぼ同時に見えた。
「気温は摂氏38度、湿度は75%」
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「そんなことは俺達の給料のうちじゃないよ。ただここに将軍殿がいればその頭に308ウィンチェスター弾を叩き込む。それが俺の任務だ」
そう言って静かに安全装置を解除して再びスコープを覗き込む。
昼の日差しで汗は容赦なく目の中に入り込もうとする。キムは何度か手袋の布でそれをぬぐう。カモフラージュの為に顔に塗ったフェイスペイントも次第に汗に流されていく。
「車両が来るわね」
エダがそう告げる。一両の重機関銃を積んだ四輪駆動車がキャンプの警備兵に停車を命じられているのを見つけた。
「アサルト・モジュールで踏み潰せば簡単なんだろうがな……まあそんなことしたら軌道上に待機中の胡州・アメリカ連合軍がおっとり刀で駆けつけてバルキスタン全土大混乱か」
皮肉めいた笑みを浮かべるキムだが、彼の視線は中央の建物から外れることは無い。空調の室外機のプロペラが止まることなく回転を続けていることだけが中に人がいることを知らしめていた。
入り口で止められていた車両の前のゲートが開き、車両はそのまま二両の装甲車の隣に停められた。
『アロー!アロー!』
突然エダの装備していた無線機に声が入る。彼女は緊張した面持ちで無線機を握った。
「感度良好」
エダが無線機に話しかける。そして彼女はそのまま停止したばかりの車両から降りる二人の政府軍の将校を見つめていた。
『ほう、少しは警戒してくると思ったがそうでもないみたいだな』
無線の向こうの男の笑みが想像できてキムは思わず噴出しそうになりながら銃のストックを頬に当てて笑いをこらえる。
「このチャンネルを使うことが許されているのは遼州では司法局実働部隊だけですもの。少なくとも何か私達に感心のあるお話がある人しか使わないから答えたまでよ」
そう言いながらエダは手にした小銃のグリップを握り締める。
『そう言えばそうだな。さすが陛下の部下の方は頭の回転が速い』
相手の言葉に『陛下』と言う言葉が混じったことでエダが相手の素性を察した。嵯峨を『陛下』と呼ぶ諜報作戦部隊は一つしかなかった。司法局実働部隊隊長の嵯峨は遼南帝国の皇帝の位の退位を宣言しながら議会によりそれが無効とされている。遼南帝国の特殊作戦部隊『青銅騎士団』だけがこの状況で活動可能な部隊であることはエダも理解していた。
「で、遼南の軍関係のお方が何の用かしら?しかも標的の目の前に四輪駆動車に重機関銃積んだだけで現れるなんて」
そう言いながらエダは身を伏せる。キムは静かに呼吸を整えている。二人の位置がこの無線の相手に特定されている可能性は大きかった。キムのライフルのスコープの中の二人の士官。その一人はそのまま建物の中に入った。もう一人はタバコを取り出すと入り口でそれに火をつけた。
『アメリカと胡州の特殊作戦部隊がすでにこの地域への浸透を開始している。エダ・ラクール少尉。君から見て10時の方向にある小屋をよく見てくれ』
エダのフルネームを言った無線の主の言葉に従い、ぬるく流れる風にたなびく振りをしながら小屋に目を向けた。
素人ならば見逃すかもしれない。それどころかエダの遺伝子レベルでの改造により強化された視力が無ければ見逃す方が自然に思えるほどだった。小屋にかけられたすのこの破れた目から一本の鉄の筒が飛び出している。藪の中を移動している迷彩服。時折、藪の緑がゆれて見えている。
そこを小隊規模の部隊が移動していることは明らかだった。しかも、その動きは俊敏かつ的確であり、そこに敵対勢力が隠れているという先入観がなければその動きは把握できないほどに訓練された部隊であることは理解できた。
「あれは多分……アメリカ陸軍の特殊部隊。分かったわ、信用しましょう。でも彼等の目的はカント将軍の略取よね。おそらくこのままカント将軍が姿を現さなければ彼らの実力で突入作戦を敢行。悪の根源カント将軍はそのままアメリカの法廷に引き出されることになるわね」
エダの言葉に無線の相手はため息をついた。
「あの人が遼南の諜報員だな」
突然キムがつぶやく。再び無線をひらいたままエダはキャンプに目をやった。相変わらず軍服の男がカント将軍がいるらしい建物の入り口でタバコをくゆらせている。時折視線をキム達に向けるのは明らかにそこに二人が隠れていることを知っているかのようにも見えた。
『物分かりがよくてありがたいよ。そして遼州同盟を不愉快に思うアーミーの連中が、その移送の間にカント将軍の記憶を改竄して同盟解体の引き金になるような発言をさせるよう彼らが仕組んだところで、同盟機構にはその工作を証明する手立ては何も無い』
タバコの士官はがその言葉が終わると明らかにエダの場所が分かっているとでも言うように向き直る。
「そりゃ心配しすぎでしょ。どうせ俺等が出張ってきたのは同盟の分裂の引き金にもなりかねない遼州の恥部を知り尽くした哀れな亡国将軍に死に場所を用意するくらいのことなんじゃないですか?」
そう言いながらキムは黙って銃を構える。
『正直だね君は。実はまもなくカント将軍は移動することになっている。胡州の現政府に批判的な勢力からのタレコミで将軍も自分が標的になっていることがわかったらしい。あと数分でカント将軍は私の立っているところを通過する予定だ。この建物のドアから装甲車までの距離が80メートル。さて、君達はどう任務を遂行する?』
「もったいつけなくても良いですよ。とりあえず半分まで来れば胡州・アメリカの特殊作戦部隊が動く。それまでに何とかしろということでしょ?」
キムはにやりと笑いそのまま頬を銃のストックに押し付け再び呼吸を整える。
『では、成功を祈っているよ』
男はそのままタバコを投げ捨ててキャンプの建物に向き直った。
その時、建物の扉が開かれ、重武装の護衛達が次々と建物から吐き出された。その中央に時々見える白い髪の老人。キムはスコープの中にその男を捉えた。
キムのスコープの中で大きく映し出される老人の姿。慌てる警備兵をなだめるようにその口は開かれる。その周りには防弾ベストを着込んだフル装備の警備兵が銃を構えながら取り囲んでいた。
エダに通信を送っていた士官はそのまま警備の兵士に近づいていく。
二人のところからカント将軍までの距離は700メートル。自分で使用済みの薬莢に火薬を詰めなおして調整した弾の軌道はすでにキムの頭の中には叩き込まれていた。警戒しつつ移動するカント将軍と警備兵。その白い頭を中心に捕らえながらキムは静かに引き金を引き絞る。
彼の銃が火を噴く。強力な308ウィンチェスターマグナム弾の反動で肩に走る痛み。すぐに次弾を装填してスコープの中を覗き込んだキムの前で首のない将軍だった肉の塊が倒れこむのが見えるのと、突入部隊が警備兵達の上空にガス弾を撃ち込むのがほぼ同時に見えた。
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