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第24章 出発
出発
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「義父上、本当にそんな格好で良いんですか?」
嵯峨かえでは紺の小倉絣の着流し姿にトランク一つと言う義父嵯峨惟基に声をかけた。超空間飛行を行うシャトルが出入りする摂都四条畷宇宙港に一人、そんな姿の嵯峨は周りとは明らかに浮いていた。胡州にしては垢抜けた服装のビジネスマンや観光客が行きかうフロアーで明らかに目立つその姿にかえでは少しばかり呆れていた。
このような格好が珍しくない胡州国内ならいざ知らず、嵯峨の行き先は圧倒的な経済力を遼州系に見せ付けている東和である。そこに胡州四大公家の家督を姪のかえでに譲り、先例で旧世代コロニーである泉州を領邦とする身分に落ち着いた胡州貴族の当主とは思えない身軽な格好。現嵯峨家当主であるかえではため息をつく。
「別にお前さんの周りをうろちょろするわけじゃねえんだから気にするなよ」
そう言って笑う義父の表情が明らかに自分を小馬鹿にしているように見えてまた一つ大きくため息をつく。そして周りを見渡すかえではすぐに顔を隠すように手で顔を覆う。しかし、海軍の佐官の制服。隣に立つ従卒のように付き従う渡辺要大尉。そして先日の殿上会で胡州三位の家柄の嵯峨家の家督を継いだことを報道されたかえでの面立ちのくっきりした顔は注目を集めるには十分すぎる格好だった。
周りの好奇の目が三人を襲う。
「お前さんも少しは四大公爵の威厳ってものを学ばないとな」
「義父上と言う反面教師がいるからその点は大丈夫ですよ」
そう言ってかえでは苦々しげに笑う。青年将校のように凛々しくも見える面立ちを見ながら嵯峨は義娘が成長したと感じていた。
嵯峨の目に涙が光った。
自分では柄ではないと思っている。人斬り、策士、卑怯者。様々なあだ名で呼ばれ敵にも味方にも恐れられた自分の弱さ。それが家族であることを嵯峨は理解していた。
母は彼の将来を案じて壊れた。祖母はテロに斃れた。父は自分を呪って追い落とし、握った権力に溺れて国を失った。妻は政治抗争の中で殺された。弟は自らの手で斬り捨てた。
そんな嵯峨が目の前の独り立ちして自分の背負っていた嵯峨家と言う大きな地位を支える立場になったことについ涙が流れる。
「義父上?そんなに僕のことが不安ですか?」
かえでが尋ねてくる。嵯峨にも親の体面と言うものがあった。流れようとする涙をぬぐうと嵯峨は再びいつもの飄々とした態度に戻った。
「それよりどうだい。うちへの転属の件」
「何度も同じこと言うんですね。来週には実際に東和海軍視察と言うことで東都に出張が決まりましたよ。それでそのまま司法局実働部隊への転属と言う形になる予定です」
呆れたようにかえでは腰に手をやり笑顔を浮かべる。
「ああ、なんとかこれで遼州同盟司法局もスタッフがそろうことになるからな。いろいろと大変になるがまあがんばってくれよ」
「了解しました!特務大佐殿!」
そう言うとかえでと渡辺が敬礼する。嵯峨はそれに敬礼で返すとそのまま人ごみの中に消えて行った。
「かえで様、本当によろしいのですか?」
不安げに渡辺がかえでの右手を握り締める。
「義父上も子供じゃない。それにこの港の警備システムは先日の狙撃犯の供述でかなり信用できるようになったはずだ」
そう言うとかえでは振り向かずに空港のロビーを出口へと向かう。
「楽しみだな、東和。姉上はご健勝であらせられるだろうか……」
かえではそのままガラスで覆われた天井を眺める。そこには胡州らしい赤い雲が漂う空があった。
嵯峨かえでは紺の小倉絣の着流し姿にトランク一つと言う義父嵯峨惟基に声をかけた。超空間飛行を行うシャトルが出入りする摂都四条畷宇宙港に一人、そんな姿の嵯峨は周りとは明らかに浮いていた。胡州にしては垢抜けた服装のビジネスマンや観光客が行きかうフロアーで明らかに目立つその姿にかえでは少しばかり呆れていた。
このような格好が珍しくない胡州国内ならいざ知らず、嵯峨の行き先は圧倒的な経済力を遼州系に見せ付けている東和である。そこに胡州四大公家の家督を姪のかえでに譲り、先例で旧世代コロニーである泉州を領邦とする身分に落ち着いた胡州貴族の当主とは思えない身軽な格好。現嵯峨家当主であるかえではため息をつく。
「別にお前さんの周りをうろちょろするわけじゃねえんだから気にするなよ」
そう言って笑う義父の表情が明らかに自分を小馬鹿にしているように見えてまた一つ大きくため息をつく。そして周りを見渡すかえではすぐに顔を隠すように手で顔を覆う。しかし、海軍の佐官の制服。隣に立つ従卒のように付き従う渡辺要大尉。そして先日の殿上会で胡州三位の家柄の嵯峨家の家督を継いだことを報道されたかえでの面立ちのくっきりした顔は注目を集めるには十分すぎる格好だった。
周りの好奇の目が三人を襲う。
「お前さんも少しは四大公爵の威厳ってものを学ばないとな」
「義父上と言う反面教師がいるからその点は大丈夫ですよ」
そう言ってかえでは苦々しげに笑う。青年将校のように凛々しくも見える面立ちを見ながら嵯峨は義娘が成長したと感じていた。
嵯峨の目に涙が光った。
自分では柄ではないと思っている。人斬り、策士、卑怯者。様々なあだ名で呼ばれ敵にも味方にも恐れられた自分の弱さ。それが家族であることを嵯峨は理解していた。
母は彼の将来を案じて壊れた。祖母はテロに斃れた。父は自分を呪って追い落とし、握った権力に溺れて国を失った。妻は政治抗争の中で殺された。弟は自らの手で斬り捨てた。
そんな嵯峨が目の前の独り立ちして自分の背負っていた嵯峨家と言う大きな地位を支える立場になったことについ涙が流れる。
「義父上?そんなに僕のことが不安ですか?」
かえでが尋ねてくる。嵯峨にも親の体面と言うものがあった。流れようとする涙をぬぐうと嵯峨は再びいつもの飄々とした態度に戻った。
「それよりどうだい。うちへの転属の件」
「何度も同じこと言うんですね。来週には実際に東和海軍視察と言うことで東都に出張が決まりましたよ。それでそのまま司法局実働部隊への転属と言う形になる予定です」
呆れたようにかえでは腰に手をやり笑顔を浮かべる。
「ああ、なんとかこれで遼州同盟司法局もスタッフがそろうことになるからな。いろいろと大変になるがまあがんばってくれよ」
「了解しました!特務大佐殿!」
そう言うとかえでと渡辺が敬礼する。嵯峨はそれに敬礼で返すとそのまま人ごみの中に消えて行った。
「かえで様、本当によろしいのですか?」
不安げに渡辺がかえでの右手を握り締める。
「義父上も子供じゃない。それにこの港の警備システムは先日の狙撃犯の供述でかなり信用できるようになったはずだ」
そう言うとかえでは振り向かずに空港のロビーを出口へと向かう。
「楽しみだな、東和。姉上はご健勝であらせられるだろうか……」
かえではそのままガラスで覆われた天井を眺める。そこには胡州らしい赤い雲が漂う空があった。
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