レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第12話 新たな敵

新手のテロ組織

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「つまりクバルカ中佐はこうおっしゃりたいのよ。『既存のテロ集団とは違う命令系統のある法術師を多数要するテロ集団による犯行』とね」 

 誠は茜の穏やかな顔を見つめた。その瞳が少しばかりうれしそうに見えるのは、茜があの騒動屋の嵯峨惟基隊長の娘であると言う確かな証拠のように誠には見えた。

「あんまし甘やかさねーでくれよ」 

 そう言いながらランは苦笑いを浮かべる。それを一瞥した茜は再び階下の様子を伺うべく屋上から下を覗き込む。その姿を見ながらランは頭を掻きつつ銃を肩から掛けるポーチに仕舞った。

「茜、テメーは一人で跳んだのか?するとラーナは……」 

「いいえ、下に着いてますわよ」 

 群衆をかき分けて東都警察と同じ制服姿のカルビナ・ラーナ捜査官補佐がビルの下にたどり着いた様が誠からも見えた。そのわきでは増援の機動隊に説明しているアイシャの姿が見える。盾を抱えて整列する隊員に吉田が雑談を仕掛けているが、アイシャの説明を受け終わった機動隊の隊長がそのまま部下を特殊装甲で覆われた大仰なバスに乗り込むように部下を指示していた。

「うぃっす!遅くなりました」 

 ランと比べれば大人っぽく見える感じのする浅黒い肌の元気娘のラーナが所轄の警察官を引き連れて現れた。階段を急いで駆け上ってきたようで肩で息をしながら手を上げているランに駆け寄る。警察官達は手袋をはめながら誠とランを時折見上げて正体不明のテロリストが立っていたあたりの床を這うようにして調べ始める。

「クバルカ中佐。今後は私達が引き継ぎますので」 

 そう言って茜とラーナは敬礼する。誠はそれにこたえて敬礼するランにあわせてぎこちない敬礼をするとそのまま階段に続く扉に向かった。

「済まねーな。デートの途中で引っ張りまわしちまって」 

 ランは頭を掻きながら肩に僅かにかかる黒髪をなびかせて階段を下りていく。

「やっぱり僕も刀は携帯した方が良いですかね」 

 ポツリとつぶやいた誠の声にランは満面の笑みを浮かべて振り返った。

「それはやめてくれ。アタシの始末書が増えるからな」 

 その表情に誠はランが自分の法術制御能力を低く見ているのがわかって少し落ち込んだ。

「クバルカ中佐!とりあえず現場の指揮権は所轄と嵯峨主席捜査官に移譲しました!」 

 紺色のジャケットを羽織ったカウラが階段の途中で敬礼しながらランを迎える。

「じゃあ、これできっちり勤務外になったわけだなアタシ等は」 

 そう言ってランはにんまりと笑う。階段を下り、雑居ビルの民間人に職務質問している所轄の警官を避けながらランは階段を下りていく。誠はその後に続く。パチンコ屋の入り口では革ジャンにライダーブーツのシャムが暇そうに警棒を持って配置されている警察官を眺めていた。

「じゃあ遊びに行こう!」 

 シャムが元気よくそう叫んだ。そんなシャムの頭に載った猫耳をランが取り上げる。 

「ランちゃん!何するのよ!」 

「あのなあ……まあいいや。暇だしカラオケでも行くか?アタシがおごるぞ」 

 そう言ってランはかなめやアイシャの顔を見回す。

「まあ良いんじゃねえの?」 

「お仕事も終わったしねえ」 

 かなめもアイシャもランのおごると言う言葉に釣られる。それを聞いて笑顔になるランはそのまま立ち入り禁止のテープをくぐって歩き出した。

「そんな!茜さん達の捜査が……」 

 そう言った誠の口の前にカウラが手をかざす。

「これから先は彼女達の仕事だ。私達は英気を養う。これも仕事のうちだ」 

 吉田とカウラもランの後について歩き始めた。

「待ってくださいよ!」 

 誠はそのまま雑踏の中に彼を取り残して歩み去る上司達の背中を追った。
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