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第12話 新たな敵
想像さえしない敵
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誠が店を出ると、彼は奇妙な感覚に囚われた。
何者かに見つめられているような感覚。そして虚脱感のようなもので力をこめることができない体。それが第三者の干渉空間の展開によるものだと気づいたのは、ランが厳しい表情で店の扉をすばやく開けて飛び出してきたのと同時だった。
「神前。オメーは下がってろ」
そう言ってランは子供用のようなウェストポーチから彼女の愛銃マカロフPMを取り出した。周りの買い物客はランの手に握られた拳銃に叫び声をあげる。
「司法局です!危険が予想されます!できるだけ頭を低くして離れてください!」
我に返った誠はそう叫びながら身分証を取り出して周りの人々に見せつつ干渉空間を展開した。店の中のアイシャ達は警戒しながら外の様子を見守っている。シャムとカウラは丸腰だが、アイシャとかなめは拳銃を携帯しており、吉田の左腕には2.6mm口径のニードルガンが内蔵されている。
「あのパチンコ屋のある雑居ビルの屋上です!」
誠はその明らかにこれまで接触をもったことの無い種類の干渉空間を発生させている人物の位置をアイシャに伝えた。
「おう、こういうところでは感覚通信は危険だって習ってるんだな。良い事だ」
ランはそう言うと店から銃を構えて出てきたアイシャにいったん止まるように指示を出す。
「とりあえずクラウゼ。テメーはシャムとベルガーを連れて一般人の避難誘導の準備をしておけ。それと西園寺と吉田は現状の把握ができるまでこの場で待機。指示があるまで発砲はするな!」
そう言うとランは彼女の拳銃に驚いてブレーキを踏んだ軽トラックの前を疾走して敵対的な行動を示している法術師の確保に向かった。誠はいつでも干渉空間を複数展開できることを確認すると、先日嵯峨から受け取った銃、モーゼル・パラベラムを構えながら雑居ビルの階段を登ろうとするランの背中についた。
「的確な判断じゃねーか。まあ、もう少し状況を把握してくれる探知系の干渉空間をはじめに展開してくれたら楽だったんだがな!」
そう言ってランは銃を構えたまま開く扉から出てくる男に銃口を向ける。
雀荘から出てきた近くの大学の学生らしい若い男はその銃口を見て驚きの声を上げた。だが、すぐにランが銃口を下げて階段を下りるように手を動かすと、すごすごと降りていった。
「どうだ?相手は動いてるか?」
ランはそう言うと階段を今度は三階に向けて駆け上っていく。
「感覚的にはそう言う感じはしないですね。しかし、この空間制御力は……相当な使い手ですよ」
そう言いながらランの後ろにぴったりとついて誠も階段を上る。ランも超一流の法術師であることは初対面の時にわかっていた。しかし、ランは一切力を使うそぶりも見せない。
法術師同士の戦いでは力を先に使った者が圧倒的に不利になる。初動の法術は往々にして制御能力ギリギリの臨界点で発動してしまうことが多いため、最初の展開で術者の能力は把握されてしまうのが大半のケースだとその専門家のヨハンから聞いた言葉が頭をよぎる。
一応は遼南帝国の精鋭部隊『青銅騎士団』の団長であるシャムや司法局実働部隊に間借りしている法術特捜の主席捜査官、嵯峨茜警視正の法術訓練の成果がランの行動の意味を誠に教えていた。
「このまま一気に屋上のお客さんのところまで行くぞ!」
そう言うとランは銀色に輝く切削空間を作り出す。ランと誠はその中に飛び込んだ。
転移して昼下がりの生暖かい日差しを目にすると誠はすぐに防御用の空間を展開した。
しかし、目の前のランは銃を下ろしていた。誠もそれまで感じていた干渉空間とは違う感覚が誠を包んでいることを理解した。
何者かに見つめられているような感覚。そして虚脱感のようなもので力をこめることができない体。それが第三者の干渉空間の展開によるものだと気づいたのは、ランが厳しい表情で店の扉をすばやく開けて飛び出してきたのと同時だった。
「神前。オメーは下がってろ」
そう言ってランは子供用のようなウェストポーチから彼女の愛銃マカロフPMを取り出した。周りの買い物客はランの手に握られた拳銃に叫び声をあげる。
「司法局です!危険が予想されます!できるだけ頭を低くして離れてください!」
我に返った誠はそう叫びながら身分証を取り出して周りの人々に見せつつ干渉空間を展開した。店の中のアイシャ達は警戒しながら外の様子を見守っている。シャムとカウラは丸腰だが、アイシャとかなめは拳銃を携帯しており、吉田の左腕には2.6mm口径のニードルガンが内蔵されている。
「あのパチンコ屋のある雑居ビルの屋上です!」
誠はその明らかにこれまで接触をもったことの無い種類の干渉空間を発生させている人物の位置をアイシャに伝えた。
「おう、こういうところでは感覚通信は危険だって習ってるんだな。良い事だ」
ランはそう言うと店から銃を構えて出てきたアイシャにいったん止まるように指示を出す。
「とりあえずクラウゼ。テメーはシャムとベルガーを連れて一般人の避難誘導の準備をしておけ。それと西園寺と吉田は現状の把握ができるまでこの場で待機。指示があるまで発砲はするな!」
そう言うとランは彼女の拳銃に驚いてブレーキを踏んだ軽トラックの前を疾走して敵対的な行動を示している法術師の確保に向かった。誠はいつでも干渉空間を複数展開できることを確認すると、先日嵯峨から受け取った銃、モーゼル・パラベラムを構えながら雑居ビルの階段を登ろうとするランの背中についた。
「的確な判断じゃねーか。まあ、もう少し状況を把握してくれる探知系の干渉空間をはじめに展開してくれたら楽だったんだがな!」
そう言ってランは銃を構えたまま開く扉から出てくる男に銃口を向ける。
雀荘から出てきた近くの大学の学生らしい若い男はその銃口を見て驚きの声を上げた。だが、すぐにランが銃口を下げて階段を下りるように手を動かすと、すごすごと降りていった。
「どうだ?相手は動いてるか?」
ランはそう言うと階段を今度は三階に向けて駆け上っていく。
「感覚的にはそう言う感じはしないですね。しかし、この空間制御力は……相当な使い手ですよ」
そう言いながらランの後ろにぴったりとついて誠も階段を上る。ランも超一流の法術師であることは初対面の時にわかっていた。しかし、ランは一切力を使うそぶりも見せない。
法術師同士の戦いでは力を先に使った者が圧倒的に不利になる。初動の法術は往々にして制御能力ギリギリの臨界点で発動してしまうことが多いため、最初の展開で術者の能力は把握されてしまうのが大半のケースだとその専門家のヨハンから聞いた言葉が頭をよぎる。
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「このまま一気に屋上のお客さんのところまで行くぞ!」
そう言うとランは銀色に輝く切削空間を作り出す。ランと誠はその中に飛び込んだ。
転移して昼下がりの生暖かい日差しを目にすると誠はすぐに防御用の空間を展開した。
しかし、目の前のランは銃を下ろしていた。誠もそれまで感じていた干渉空間とは違う感覚が誠を包んでいることを理解した。
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