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第9章 墓参り
警察詣で
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四条畷港の超空間転移式港湾警備本部。その真新しい壁にしみ一つ無い廊下を一人の胡州海軍の少佐の階級章をつけた細身の高級将校が早足で歩いている。後ろに流れるような、根元を白い紐で結わいた黒髪も流れるように空調の風に揺れ、この人物の中性的な表情をより美しく飾り立てた。海軍の女性将校の制服はタイトスカートが基本であるところから考えれば、スラックスの姿であるこの人物が男性ということになるが、その胸の大きな塊がその可能性を否定した。
彼女、西園寺かえで少佐の機嫌は最悪だった。
検疫か、それとも輸出入薬剤などの分析班の職員と思われる白衣の女性達が彼女に熱い視線を送っている。いつもなら軽く笑顔を浮かべて黄色い歓声を浴びることを楽しみにしている彼女だが、今日はそれどころではなかった。彼女が立ち止まったのは『機動特務隊』と書かれた部屋の前だった。当然のようにノックもせずにかえでは踏み込んだ。
防弾ベストに実弾入りのマガジンをいくつも入れている臨戦態勢の部隊員が一斉にかえでを見据えた。百戦錬磨の室内戦闘のプロに睨まれている状況は、普通の軍人でもかなり威圧感を感じるところだろうが、かえではただ彼等をすごむような調子でにらみ返すとついたてで仕切られた部屋の隅の休憩所のようなところへと足を向けた。
「よう、遅かったじゃねえか」
そこでさも当然のように天丼を食っているのは着流し姿の叔父嵯峨惟基だった。いつもと同じように、食事中だというのに隣におかれたガラス製の大きな灰皿には吸いかけのタバコが煙を上げている。
「叔父上……」
姪を一瞥した後そのまま天丼に箸を伸ばす叔父を見ながら、かえでは疲れが出たように真向かいのパイプ椅子に腰を下ろした。
「やっぱり米は東和の方が旨いんだな……で、勤務中じゃないのか?お前さんは」
そう言いながら嵯峨は口元に付いた米粒を指でつまんで口に放り込む。その動作がさらにかえでの怒りを駆り立てた。
「その勤務中の僕に身元引受人を頼んだのは誰ですか!子供じゃないんですから来るたびに警察に迎えに来させる必要は無いと思いますよ!」
そう言ってかえでは力任せに机を叩く。ついたての外の隊員達は慣れているのかこの身内の喧嘩にまるで口出しをするつもりは無いように沈黙している。
「前のお盆の墓参りの時はここには来てないのにな……」
もぞもぞとそう言う嵯峨だが、かえでの一睨みでおずおずと下を向き、重箱の中に残った飯粒をかき集め始めた。
「例外の話はいいんです!この三年で四回ですよ!叔父上がここに世話になるのは。この前は爆発物を仕掛けたテロリストを峰打ちと言って袋叩きにするし、その前は……」
「良いじゃねえか死人は出て無い……」
嵯峨は口答えをするが、再びかえでの射るような視線におびえたように黙り込む。
「大体、今回もあそこにスナイパーがいるのはわかってたんじゃないですか?どうせもう上層部には今回の事件に関係する組織の名前を送付済みで、今頃国家憲兵隊が協力者のアジトの摘発に動いてたりとか……」
「そこまでお見通しか……」
明らかに呆れ果てたようなかえでの視線が嵯峨を射抜き、彼を黙らせる。
「特に今回は叔父上にはちゃんと殿上会での勤めを果たしていただかねばならないのですから!大事な体なんですから無茶はしないでくださいよ」
そう言うとかえでは彼女を無視してきょろきょろと周りを見回す叔父を見ていた。
「なんですか、叔父上」
「ああ、お茶をお願いしたいと思って……」
そう言った叔父の前の机をかえでは思い切り叩いた。嵯峨の表情が一変して泣き顔に変わる。
「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないかよう」
再び睨みつけられた嵯峨は仕方なく空の湯飲みをテーブルに置くと席を立った姪の後ろに続いた。
「また来ますねー」
拳銃の手入れをしているかえでと同じぐらいの年の女性隊員に嵯峨は手を振る。当然のようにかえでの鋭い視線が飛んできた。
彼女、西園寺かえで少佐の機嫌は最悪だった。
検疫か、それとも輸出入薬剤などの分析班の職員と思われる白衣の女性達が彼女に熱い視線を送っている。いつもなら軽く笑顔を浮かべて黄色い歓声を浴びることを楽しみにしている彼女だが、今日はそれどころではなかった。彼女が立ち止まったのは『機動特務隊』と書かれた部屋の前だった。当然のようにノックもせずにかえでは踏み込んだ。
防弾ベストに実弾入りのマガジンをいくつも入れている臨戦態勢の部隊員が一斉にかえでを見据えた。百戦錬磨の室内戦闘のプロに睨まれている状況は、普通の軍人でもかなり威圧感を感じるところだろうが、かえではただ彼等をすごむような調子でにらみ返すとついたてで仕切られた部屋の隅の休憩所のようなところへと足を向けた。
「よう、遅かったじゃねえか」
そこでさも当然のように天丼を食っているのは着流し姿の叔父嵯峨惟基だった。いつもと同じように、食事中だというのに隣におかれたガラス製の大きな灰皿には吸いかけのタバコが煙を上げている。
「叔父上……」
姪を一瞥した後そのまま天丼に箸を伸ばす叔父を見ながら、かえでは疲れが出たように真向かいのパイプ椅子に腰を下ろした。
「やっぱり米は東和の方が旨いんだな……で、勤務中じゃないのか?お前さんは」
そう言いながら嵯峨は口元に付いた米粒を指でつまんで口に放り込む。その動作がさらにかえでの怒りを駆り立てた。
「その勤務中の僕に身元引受人を頼んだのは誰ですか!子供じゃないんですから来るたびに警察に迎えに来させる必要は無いと思いますよ!」
そう言ってかえでは力任せに机を叩く。ついたての外の隊員達は慣れているのかこの身内の喧嘩にまるで口出しをするつもりは無いように沈黙している。
「前のお盆の墓参りの時はここには来てないのにな……」
もぞもぞとそう言う嵯峨だが、かえでの一睨みでおずおずと下を向き、重箱の中に残った飯粒をかき集め始めた。
「例外の話はいいんです!この三年で四回ですよ!叔父上がここに世話になるのは。この前は爆発物を仕掛けたテロリストを峰打ちと言って袋叩きにするし、その前は……」
「良いじゃねえか死人は出て無い……」
嵯峨は口答えをするが、再びかえでの射るような視線におびえたように黙り込む。
「大体、今回もあそこにスナイパーがいるのはわかってたんじゃないですか?どうせもう上層部には今回の事件に関係する組織の名前を送付済みで、今頃国家憲兵隊が協力者のアジトの摘発に動いてたりとか……」
「そこまでお見通しか……」
明らかに呆れ果てたようなかえでの視線が嵯峨を射抜き、彼を黙らせる。
「特に今回は叔父上にはちゃんと殿上会での勤めを果たしていただかねばならないのですから!大事な体なんですから無茶はしないでくださいよ」
そう言うとかえでは彼女を無視してきょろきょろと周りを見回す叔父を見ていた。
「なんですか、叔父上」
「ああ、お茶をお願いしたいと思って……」
そう言った叔父の前の机をかえでは思い切り叩いた。嵯峨の表情が一変して泣き顔に変わる。
「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないかよう」
再び睨みつけられた嵯峨は仕方なく空の湯飲みをテーブルに置くと席を立った姪の後ろに続いた。
「また来ますねー」
拳銃の手入れをしているかえでと同じぐらいの年の女性隊員に嵯峨は手を振る。当然のようにかえでの鋭い視線が飛んできた。
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