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第4章 お友達
隊長の娘
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「それにしてもあの熊はやばいんじゃないか?ただでさえ同盟司法局のお荷物部隊ってことで叩かれているアタシ等だ。これ以上何かあったら……」
そう言いながらかなめは階段の手すりに手をかける。
「それは気にしなくてもよろしくてよ」
ハンガーに入って詰め所に向かってあがる階段を見下ろしている女性幹部警察官の制服を見てかなめの顔がまた明らかに不機嫌になるのを誠は見てしまった。階段の上で誠達を待っていたのは、隊長嵯峨惟基の娘で同盟司法局法術特捜主席捜査官、嵯峨茜警視正だった。
「なんだよ茜か。ずいぶん余裕だねえ」
そう言うとかなめはそのまま階段を上がり始める。几帳面な彼女の襟元が少しずれて見えるのはおそらく中央に呼び出されて司法局の幹部とやりあったからだろう。
「すみませんね。また西園寺が何か……」
「知らねえよ!シャムが保護動物を連れまわしていることより問題なのはむしろ叔父貴の方じゃねえのか?実の親だ。自分で責任取れ」
かなめは我関せずという感じで茜の脇を通り抜けようとする。茜はそんなかなめを見て大きくため息をついた。
「まあお父様の独断専行の結果の小言くらいならいくらでも頂きますわ。お金と活動権限を制限されること。そちらのほうが問題なのですもの」
そう言いつつかなめの表情を見ていた茜だがかなめはただにんまりと笑うだけだった。
「言いてえことはわかる。これまで嵯峨家の身銭で運営しているうちは手を出せるお偉いさんはいなかったからな。第四小隊の創設でそれも限界。予算が欲しくなるのは当たり前だな」
かなめはそう言うとハンガーを見下ろすガラス張りの管理部のオフィスを覗く。自分から目を逸らしたかなめに少しばかり気分を害したように一度茜が大きく足踏みをした。
「まあ……近藤事件でその実力を見せつけた今。同盟機構としては逆に予算を増やして監査などを入れやすい状況を作り出して叔父貴に鈴を付けたいところだろうしな。予算規模しだいでは同盟加盟国のやり手の文官を差し向けてくるくらいのことはあるんじゃないのか?」
かなめはそう言うと上目遣いのタレ目で茜を見つめた。
「司法実働部隊に文官を入れる……まあ素直に叔父貴が納得するとは思えねえけど。それよりオメエのところ、司法局法術特捜の人材の確保のめどはどうなんだよ」
かなめは下種な笑みを浮かべて茜をにらむ。だが、茜は表情一つ変えずに語り始めた。
「厳しいところですわね。現状では私達法術特捜は、人員面であなた方四人の兼任捜査官でことが済むというのが司法局の上層部の判断ですわ。そう言えば、一般市民の法術適正者の特定と把握には東和政府は及び腰ですが、遼北や大麗では市民の法術適正検査の義務化の法案を通しましたわよ」
「あれだろ?本人に通知するかで揉めたって法案。遼北は非通知、大麗は通知だったか。それがどうしたんだよ……何か?一般市民から捜査官の公募でもするのか?」
そう言うとかなめはポケットからタバコを取り出そうとして茜ににらまれる。
「それもいい考えかも知れませんわね。適正に関することならネットではもうすでに法術の発動方法に関する論文が流出して、もう法術はオカルトの分野の話とごまかすことも出来ないのが現状ですもの。それを見た少しばかり社会に不満のある人物が自分の法術適正に気付いて、そしてその発動の方法を知ることができる機会があれば……それが何を意味するかおわかりになりますわよね?」
茜の言葉にかなめは顔色を変えた。
「馬鹿が神様気取りで暴れるのにはちょうどいいお膳立てがそろうって事か」
誠はアイシャやカウラの方を見てみた。二人とも先ほどまでのじゃれあっていた時とは違った緊張感に飲み込まれたような顔をしている。
「でもそんな急に……僕だって実際今でも力の制御ができないくらいだから……」
そう言いかけた誠を見て茜はため息をついた。
「確かに訓練もまともに受けていない適正者が法術を使用すれば、結果として自滅するのは間違いないですわね」
淡々と茜はそう答えた。
「じゃあどうするんだ?シンの旦那みたいなパイロキネシストがあっちこっちで連続放火事件を起こそうとして火達磨になって転げ回るのを黙って見てろってことか?」
かなめの表情が険しくなる。
「今のうちはそれでも仕方ないですわ」
あっさりと茜はそう答えた。その冷たく誠達を見つめる視線に誠は少し恐怖を感じた。
「今、そんな人々を救える力は私達には有りません。それは私も認めます。ですが今の同盟にはそれを主張しても押し通すだけの権限が無いのはどうしようもありませんわ。今は時を待つ。かなめお姉さまも自重して下さいね」
そう言う茜にどこか寂しげな表情が見て取れて、誠は彼女を正面から非難することができなかった。
「わあってるよ!んなことは!」
そう言ってかなめは管理部の壁に拳をぶつけた。中では心配そうな主計下士官、菰田曹長の顔が見える。
「まあこうして話していても何も起きないわよ。私はお昼ご飯食べたいから行くわね」
そう言ってかなめと茜の間を縫ってアイシャは廊下の奥に消えていく。ただ呆然と四人は彼女を見送った。
そう言いながらかなめは階段の手すりに手をかける。
「それは気にしなくてもよろしくてよ」
ハンガーに入って詰め所に向かってあがる階段を見下ろしている女性幹部警察官の制服を見てかなめの顔がまた明らかに不機嫌になるのを誠は見てしまった。階段の上で誠達を待っていたのは、隊長嵯峨惟基の娘で同盟司法局法術特捜主席捜査官、嵯峨茜警視正だった。
「なんだよ茜か。ずいぶん余裕だねえ」
そう言うとかなめはそのまま階段を上がり始める。几帳面な彼女の襟元が少しずれて見えるのはおそらく中央に呼び出されて司法局の幹部とやりあったからだろう。
「すみませんね。また西園寺が何か……」
「知らねえよ!シャムが保護動物を連れまわしていることより問題なのはむしろ叔父貴の方じゃねえのか?実の親だ。自分で責任取れ」
かなめは我関せずという感じで茜の脇を通り抜けようとする。茜はそんなかなめを見て大きくため息をついた。
「まあお父様の独断専行の結果の小言くらいならいくらでも頂きますわ。お金と活動権限を制限されること。そちらのほうが問題なのですもの」
そう言いつつかなめの表情を見ていた茜だがかなめはただにんまりと笑うだけだった。
「言いてえことはわかる。これまで嵯峨家の身銭で運営しているうちは手を出せるお偉いさんはいなかったからな。第四小隊の創設でそれも限界。予算が欲しくなるのは当たり前だな」
かなめはそう言うとハンガーを見下ろすガラス張りの管理部のオフィスを覗く。自分から目を逸らしたかなめに少しばかり気分を害したように一度茜が大きく足踏みをした。
「まあ……近藤事件でその実力を見せつけた今。同盟機構としては逆に予算を増やして監査などを入れやすい状況を作り出して叔父貴に鈴を付けたいところだろうしな。予算規模しだいでは同盟加盟国のやり手の文官を差し向けてくるくらいのことはあるんじゃないのか?」
かなめはそう言うと上目遣いのタレ目で茜を見つめた。
「司法実働部隊に文官を入れる……まあ素直に叔父貴が納得するとは思えねえけど。それよりオメエのところ、司法局法術特捜の人材の確保のめどはどうなんだよ」
かなめは下種な笑みを浮かべて茜をにらむ。だが、茜は表情一つ変えずに語り始めた。
「厳しいところですわね。現状では私達法術特捜は、人員面であなた方四人の兼任捜査官でことが済むというのが司法局の上層部の判断ですわ。そう言えば、一般市民の法術適正者の特定と把握には東和政府は及び腰ですが、遼北や大麗では市民の法術適正検査の義務化の法案を通しましたわよ」
「あれだろ?本人に通知するかで揉めたって法案。遼北は非通知、大麗は通知だったか。それがどうしたんだよ……何か?一般市民から捜査官の公募でもするのか?」
そう言うとかなめはポケットからタバコを取り出そうとして茜ににらまれる。
「それもいい考えかも知れませんわね。適正に関することならネットではもうすでに法術の発動方法に関する論文が流出して、もう法術はオカルトの分野の話とごまかすことも出来ないのが現状ですもの。それを見た少しばかり社会に不満のある人物が自分の法術適正に気付いて、そしてその発動の方法を知ることができる機会があれば……それが何を意味するかおわかりになりますわよね?」
茜の言葉にかなめは顔色を変えた。
「馬鹿が神様気取りで暴れるのにはちょうどいいお膳立てがそろうって事か」
誠はアイシャやカウラの方を見てみた。二人とも先ほどまでのじゃれあっていた時とは違った緊張感に飲み込まれたような顔をしている。
「でもそんな急に……僕だって実際今でも力の制御ができないくらいだから……」
そう言いかけた誠を見て茜はため息をついた。
「確かに訓練もまともに受けていない適正者が法術を使用すれば、結果として自滅するのは間違いないですわね」
淡々と茜はそう答えた。
「じゃあどうするんだ?シンの旦那みたいなパイロキネシストがあっちこっちで連続放火事件を起こそうとして火達磨になって転げ回るのを黙って見てろってことか?」
かなめの表情が険しくなる。
「今のうちはそれでも仕方ないですわ」
あっさりと茜はそう答えた。その冷たく誠達を見つめる視線に誠は少し恐怖を感じた。
「今、そんな人々を救える力は私達には有りません。それは私も認めます。ですが今の同盟にはそれを主張しても押し通すだけの権限が無いのはどうしようもありませんわ。今は時を待つ。かなめお姉さまも自重して下さいね」
そう言う茜にどこか寂しげな表情が見て取れて、誠は彼女を正面から非難することができなかった。
「わあってるよ!んなことは!」
そう言ってかなめは管理部の壁に拳をぶつけた。中では心配そうな主計下士官、菰田曹長の顔が見える。
「まあこうして話していても何も起きないわよ。私はお昼ご飯食べたいから行くわね」
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