レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
250 / 1,503
第4章 お友達

熊騒動

しおりを挟む
 そのまま戦闘機のエンジンを製造している建物を抜けて、見慣れた司法局実働部隊の壁に沿って車は進む。だが、ゲートの前にでカウラは急にブレーキを踏んだ。誠やかなめはそのまま身を乗り出して前方の部隊の通用門に目をやった。

 そこには完全武装した警備部の面々が立っていた。サングラス越しに運転しているカウラを見つけた警備部の面々が歩み寄ってくる。だが装備の割りにそれぞれの表情は明らかに楽しそうな感じに誠には見えた。

「どうしたんだ? 」 

「ベルガー大尉!実は……」 

 スキンヘッドの重装備の男が青い目をこすりながら車内を覗き込む。

「ニコノフ曹長。事件ですか?」 

 誠を見て少し安心したようにニコノフは大きく息をした。

「それがいなくなりまして……」 

 歯切れの悪い調子で話を切り出そうとするニコノフに切れたかなめがアイシャの座る助手席を蹴り上げる。

「わかったわよ!降りればいいんでしょ?」 

 そう言ってアイシャは扉を開き道路に降り立つ。ニコノフの後ろから出てきたGIカットの軍曹が彼女に敬礼する。

「いなくなったって何がいなくなったのよ。ライフル持って警備部の面々が走り回るような事件なの?」 

 いらだたしげにそう言うアイシャにニコノフはどう答えていいか迷っているように頭を掻く。

「それが、ナンバルゲニア中尉の『お友達』らしいんで……」 

 その言葉を聞いて、車を降りようと誠を押していたかなめはそのまま誠の隣に座りなおした。

「アイシャも乗れよ。車に乗ってれば大丈夫だ」 

 かなめの言葉に引かれるようにしてアイシャも車に乗り込む。開いたゲートを抜けてカウラは徐行したまま敷地に車を乗り入れる。辺りを徘徊している警備部の面々は完全武装しており、その後ろにはバットやバールを持った技術部の隊員が続いて走り回っている。

「ナンバルゲニア中尉のお友達?」 

 誠はそう言うとかなめの顔を見つめた。

「どうせ遼南の猛獣かなんか連れてきたんだろ?先週まで遼南に出張してたからな」 

 かなめの言葉にアイシャも納得がいったというようにうなづいた。

「猛獣?」 

 誠はあの動物大好きなシャムの顔を思い出した。遼南内戦の人民軍のプロパガンダ写真に巨大な熊にまたがってライフルを構えるシャムの写真が
あったことを誠はなんとなく思い出した。

「隊長達には吉田に言われて黙ってたんだろ?あの馬鹿はこう言う騒動になることも計算のうちだろうからな。今頃面白がって冷蔵庫で笑い転げてるぜ」 

 投げやりにそう言ったかなめは、突然ブレーキをかけたカウラをにらみつけた。

「なんだ?あれは」 

 カウラはそう言って駐車場の方を指差した。

 そこには茶色の巨大な塊が置いてあった。

 かなめが腰の愛銃スプリングフィールドXDM-40に手を伸ばす。

「止めておけ!怪我させたらシャムが泣くぞ」 

 カウラのその言葉に、かなめはアイシャを押しのけようとした手を止めた。車と同じくらいの巨大な物体が動いた。誠は目を凝らす。

「ウーウー」 

 顔がこちらに向く。それは巨大な熊だった。

「コンロンオオヒグマか?面倒なもの持込みやがって」 

 かなめはそう言うと銃を手にしたままヒグマを見つめた。ヒグマは自分が邪魔になっているのがわかったのか、のそのそと起き上がるとそのまま隣の空いていたところに移動してそのまま座り込む。

「アイシャ、シャムを呼べ。かなめはこのまま待機だ」 

 カウラの言葉に二人は頷く。熊は車中の一人ひとりを眺めながら、くりくりとした瞳を輝かせている。

「舐めてんじゃねえのか?」 

 そう言ってかなめは銃を握り締める。アイシャは携帯を取り出していた。 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

潜水艦艦長 深海調査手記

ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。 皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...