レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第3章 仲間達

出迎え

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「そう言えば、挨拶行かないの?」 

 機体を降りた誠の前でさんざんかなめにプロレス技をかけられていたアイシャが、屈伸をしながらカウラの顔を見上げる。

「そうだな。地球の会議に出発してひと月か……出張帰りだから顔を見せておくのもいいかも知れないな」

 そう言いながらカウラはエメラルドグリーンのポニーテールを秋の風になびかせる。だが、一人眉をひそめているのがかなめだった。

「おい、あの餓鬼のところに行くのかよ?」 

「餓鬼って……」 

 噂をすれば何とやらと言うことで本部の建屋からランとシンが実験を成功裏に終わらせてリラックスした表情を浮かべて歩いてくる。

「おう、元気そうじゃねーか!こんなところまで来て……ご苦労なこった」

 ランはそう言うとかなめ達を見渡した。

「中佐は……引継ぎがまだなんですか?」

 急に仕事モードの態度になったアイシャにランは苦笑いを浮かべる。

「まあな……嵯峨の旦那の気まぐれでアタシが異動になったのはいいが……ここも元々人手が足りてるところじゃねーからな。とりあえずアタシが作った訓練プログラムが実施されているかの確認とかがあってさ。それよりオメー等は遊んでていーのか?」 

「お言葉ですが、法術兵器の使用については術者の身体や精神に過度の負担がかかると聞いていますから、彼の上官としてそのケアに当たるための方策を……」 

 カウラがそこまで言うと、ランが彼女をにらみつけた。思わずその迫力に気おされてカウラは黙り込んだ。そしてその視線は隣で引きつった笑みを浮かべるアイシャとかなめと順に向けられた後、にんまりとした笑みへと変わる。

「へー、神前曹長。相変わらずモテモテなんだなオメーは」 

 そう言って誠の肩を叩こうとするが、途中で背伸びをして手を伸ばす姿があまりにも間抜けになると気付いたのか、ランがは誠にボディーブローを放った。

「うおっ!!」 

 みぞおちに決まった一撃で誠はそのまま倒れこんだ。

「中佐!」 

 さすがのカウラもたまりかねて二人の間に割り込んだ。 

「鍛え方が足りねーみたいだな。戻ったらしごいてやんよ」 

 そう言うと誠に寄り添うアイシャとカウラを残してランは管制塔へと去っていく。

「相変わらず傍若無人な奴だねえ。神前、大丈夫か?」 

 誠はかなめの言葉を聞くとゆっくりと立ち上がった。

「ええ、まあ」 

 ランの腹への一撃で噴出した脂汗を拭いながら誠は立ち上がった。

「じゃあとっとと着替えて来いよ」

 そう言って誠からかなめは目を逸らして実験を眺めていた東和陸軍の兵士達の群れに向かっていく。 

「あのーもしかして迎えに来てくれたんですか?」 

 ようやく気がついたように誠は三人にそう言った。頭を掻きながらカウラは天を見つめる。立ち止まって誠に背を向けたままポケットから取り出したタバコをくわえながらかなめはわざとらしくライターを探している。生暖かい視線を誠に送る西をアイシャは気を紛らすべく睨み付けて威嚇していた。

 とりあえず逆らわないことが身のためと思った誠はそのまま駆け足でトレーラーの止めてあるハンガーへと急いだ。
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