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第2章 実験
静かな射場
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誠はモニターの拡大ボタンを押して、足元の人影を画面に投影した。そこでは三人の東和陸軍の作業服を着た女性が西と話をしているところだった。
すぐに誠はその三人が誠の所属する第二小隊の小隊長、カウラ・ベルガー大尉、二番機担当西園寺かなめ大尉、そして運用艦『高雄』の副長であるアイシャ・クラウゼ少佐だと分かった。
『西園寺さん?カウラさん?それにアイシャさん?』
『よう!元気にしとるか!』
『駄目ですよ!今、大事なところなんですから!』
西の制止を無視してモニターに飛び込んできたのは西園寺かなめ大尉のタレ目だった。
『馬鹿だねえ西の餓鬼は。この位の邪魔で撃てなくなるなら意味ねえじゃねえか』
そう言ってかなめはいつものようにまなじりを下げる。そこに割って入ったのはアイシャ・クラウゼ少佐だった。
『ねえ、教導隊と言えば、ランちゃんでしょ?あの小さい姐御に苛められなかった?』
「クバルカ中佐はまだ教導官が本務だったんでしたよね。まだ会ってませんよ」
誠はギリギリのところで法力チャージと上司達との会話を続けていた。
『貴様等……邪魔するなと言ったじゃないか』
画面の端でエメラルドグリーンのポニーテールをなびかせてカウラ・ベルガー大尉がつぶやいた。『小さい姐御』と言う言葉がつぼに入ったのか、かなめがカウラの隣で腹を抱えて笑っている。
「あのー。ちょっと黙っていていただけますか?」
さすがの誠も雑念に負けそうになってついそう言っていた。
『酷い!誠ちゃんには私の言葉は届かないのね!』
わざと泣き声を装うようにアイシャの声が響く。画面の端からアイシャの肩を叩いているのはカウラだろう。
「そう言う意味じゃないんですけど……」
誠がそう言ったとき、管制室の画面が05式の全周囲モニターに開いた。
『遊んでるんじゃないぞ!とりあえず標的の準備はできた。最終安全装置の解除まで行ってくれ』
ヨハンの顔が大写しにされて、誠は少しばかり引き気味に火器管制システムの設定に移った。訓練場を示す地図が開き、誠の干渉空間が展開される。干渉空間には二種類あり、その活用方法については誠は飛躍的に制御技術向上させていた。
一つは直接展開空間。
それは平面状に展開され、シールドや位相転移、すなわち瞬間移動などを行うことができる展開発動者専用の空間である。これを展開できるのは司法局でも誠と隊長の嵯峨惟基特務大佐とその娘で法術特捜主席捜査官の嵯峨茜警視正、さらに副隊長で第一小隊長のクバルカ・ラン中佐だけと言う特殊な技能である。
そしてもう一つが一般に『テリトリー』と呼ばれる干渉空間だった。
それは展開した法術者の意識レベルによって変性可能な干渉空間である。その『テリトリー』の運用に長けているのはパイロキネシストとしての能力を展開した空間内で発揮できる管理部部長アブドゥール・シャー・シン大尉、思考サーチなどが可能な能力を有している警備部部長マリア・シュバーキナ少佐、そして内部空間の時間軸をずらすことで相対的運動性を発揮することができる実働部隊第一小隊のエース、ナンバルゲニア・シャムラード中尉がいた。
干渉空間、テリトリーの展開を開始すると、下で騒いでいたかなめ達の顔色が変わった。再び誠の全身から力が抜けていくような感覚が走る。
『干渉空間展開率30……40……50……』
西のカウントともに小さなウィンドウに記された演習場の地図が次第に赤く染まる。目の前を見ると、干渉済みの空間がゆらゆらと陽炎のように誠の目に見えた。
「法術エネルギーブースト開始。最終安全装置の解除を確認」
そう言うと誠は火器管制モードになった画面を見つめる。さすがにこの状況ではふざけるつもりが無いようで、足元で観測機器をいじっている西をかなめ達三人は黙ってみているようだった。
『周囲に識別反応無し!発射よろし!』
ヨハンの指示が下される。誠はトリガーに指をかけた。
「発射!」
誠がトリガーを引いた。薄い桃色の光線が揺らめく干渉空間を飲み込む。反動や爆風が起こることも無く、目の前が桃色の光で満たされた。その光景が見えたのは一秒にも満たない瞬間だろう。
戻った視界の中に見えるのは発砲前とまるで変わらない演習場の景色だった。
『なんだよ。こりゃ?」』
すべてが終わり、はじめに口を開いたのはかなめだった。誠も、干渉空間を解除する脱力感の中で非常に手ごたえのなさを感じていた。
『これはですねえ、広域犯罪やテロなどの非常事態に被疑者の意識を奪うことで事件解決の……』
『んなことはわかってんだよ!だけどなんだ?こんなでかくて強そうな武器だっつうのに……、なあ!』
まじめに説明しようとする西を押さえつけてかなめが話題をアイシャに振った。
『確かに。カタルシスと言うものが無いわね』
そう言ってアイシャは紺色のロングヘアーをかきあげる。
『貴様等……何がしたくて軍に入ったんだ?』
カウラが二人の言葉に呆れた顔をする。誠も二人の反応に少し呆れながらも手ごたえの無さに不安になる自分に気づいていた。
すぐに誠はその三人が誠の所属する第二小隊の小隊長、カウラ・ベルガー大尉、二番機担当西園寺かなめ大尉、そして運用艦『高雄』の副長であるアイシャ・クラウゼ少佐だと分かった。
『西園寺さん?カウラさん?それにアイシャさん?』
『よう!元気にしとるか!』
『駄目ですよ!今、大事なところなんですから!』
西の制止を無視してモニターに飛び込んできたのは西園寺かなめ大尉のタレ目だった。
『馬鹿だねえ西の餓鬼は。この位の邪魔で撃てなくなるなら意味ねえじゃねえか』
そう言ってかなめはいつものようにまなじりを下げる。そこに割って入ったのはアイシャ・クラウゼ少佐だった。
『ねえ、教導隊と言えば、ランちゃんでしょ?あの小さい姐御に苛められなかった?』
「クバルカ中佐はまだ教導官が本務だったんでしたよね。まだ会ってませんよ」
誠はギリギリのところで法力チャージと上司達との会話を続けていた。
『貴様等……邪魔するなと言ったじゃないか』
画面の端でエメラルドグリーンのポニーテールをなびかせてカウラ・ベルガー大尉がつぶやいた。『小さい姐御』と言う言葉がつぼに入ったのか、かなめがカウラの隣で腹を抱えて笑っている。
「あのー。ちょっと黙っていていただけますか?」
さすがの誠も雑念に負けそうになってついそう言っていた。
『酷い!誠ちゃんには私の言葉は届かないのね!』
わざと泣き声を装うようにアイシャの声が響く。画面の端からアイシャの肩を叩いているのはカウラだろう。
「そう言う意味じゃないんですけど……」
誠がそう言ったとき、管制室の画面が05式の全周囲モニターに開いた。
『遊んでるんじゃないぞ!とりあえず標的の準備はできた。最終安全装置の解除まで行ってくれ』
ヨハンの顔が大写しにされて、誠は少しばかり引き気味に火器管制システムの設定に移った。訓練場を示す地図が開き、誠の干渉空間が展開される。干渉空間には二種類あり、その活用方法については誠は飛躍的に制御技術向上させていた。
一つは直接展開空間。
それは平面状に展開され、シールドや位相転移、すなわち瞬間移動などを行うことができる展開発動者専用の空間である。これを展開できるのは司法局でも誠と隊長の嵯峨惟基特務大佐とその娘で法術特捜主席捜査官の嵯峨茜警視正、さらに副隊長で第一小隊長のクバルカ・ラン中佐だけと言う特殊な技能である。
そしてもう一つが一般に『テリトリー』と呼ばれる干渉空間だった。
それは展開した法術者の意識レベルによって変性可能な干渉空間である。その『テリトリー』の運用に長けているのはパイロキネシストとしての能力を展開した空間内で発揮できる管理部部長アブドゥール・シャー・シン大尉、思考サーチなどが可能な能力を有している警備部部長マリア・シュバーキナ少佐、そして内部空間の時間軸をずらすことで相対的運動性を発揮することができる実働部隊第一小隊のエース、ナンバルゲニア・シャムラード中尉がいた。
干渉空間、テリトリーの展開を開始すると、下で騒いでいたかなめ達の顔色が変わった。再び誠の全身から力が抜けていくような感覚が走る。
『干渉空間展開率30……40……50……』
西のカウントともに小さなウィンドウに記された演習場の地図が次第に赤く染まる。目の前を見ると、干渉済みの空間がゆらゆらと陽炎のように誠の目に見えた。
「法術エネルギーブースト開始。最終安全装置の解除を確認」
そう言うと誠は火器管制モードになった画面を見つめる。さすがにこの状況ではふざけるつもりが無いようで、足元で観測機器をいじっている西をかなめ達三人は黙ってみているようだった。
『周囲に識別反応無し!発射よろし!』
ヨハンの指示が下される。誠はトリガーに指をかけた。
「発射!」
誠がトリガーを引いた。薄い桃色の光線が揺らめく干渉空間を飲み込む。反動や爆風が起こることも無く、目の前が桃色の光で満たされた。その光景が見えたのは一秒にも満たない瞬間だろう。
戻った視界の中に見えるのは発砲前とまるで変わらない演習場の景色だった。
『なんだよ。こりゃ?」』
すべてが終わり、はじめに口を開いたのはかなめだった。誠も、干渉空間を解除する脱力感の中で非常に手ごたえのなさを感じていた。
『これはですねえ、広域犯罪やテロなどの非常事態に被疑者の意識を奪うことで事件解決の……』
『んなことはわかってんだよ!だけどなんだ?こんなでかくて強そうな武器だっつうのに……、なあ!』
まじめに説明しようとする西を押さえつけてかなめが話題をアイシャに振った。
『確かに。カタルシスと言うものが無いわね』
そう言ってアイシャは紺色のロングヘアーをかきあげる。
『貴様等……何がしたくて軍に入ったんだ?』
カウラが二人の言葉に呆れた顔をする。誠も二人の反応に少し呆れながらも手ごたえの無さに不安になる自分に気づいていた。
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