レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第2章 実験

広域非破壊兵器

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「神前さん!各部のチェックはいいですか?」 

 広がる全周囲モニタの中にウィンドウが開き、西の姿が映った。

「ああ、異常なし。そのままデッキアップを頼む」 

 誠の言葉に西が頷くと誠の体が緩やかに起きはじめた。周囲が明るくなっていく、誠はハンガーの外に見える廃墟のような市街戦戦闘訓練場を眺めていた。そしてそこに一台のトレーラが置いてあるのにも気付く。

「西!あそこに見えるのが今日のテスト内容か?」 

 神前の言葉に、西はそのまま一度05式用トレーラーから降りてハンガーの外の長い砲身をさらしている兵器を眺めた。

「ああ、あれが神前さんのメインウェポンになるかもしれない『展開干渉空間内制圧兵器』ですよ」 

 淡々と答える西の言葉に誠はいまひとつついていけなかった。

「展開……干渉……? 」 

「ああ、詳しいことはシュペルター中尉かシン大尉に聞いてくださいよ。僕だって理屈はよくわからないんですから。まあ来る途中でシュペルター中尉が言うには『干渉空間生成の特性を利用してその精神波動への影響を利用することにより敵をノックアウトする非破壊兵器だ』ってことなんですけど」 

 誠は正直さらにわからなくなった。

 自分が『法術』と呼ばれる空間干渉能力者であるということは近藤事件で嫌と言うほどわかった。空間に存在する意識を持った生命体そのもののエネルギー値の差異を利用して展開される切削空間、その干渉空間を形成することで様々な力を発動することができるとヨハンに何度も説明されているのだがいまいちピンとこない。

 デッキアップした自分の機体で待機する間、誠はただ目の前の明らかに長すぎる砲身を持った大砲をどう運用するのかを考えようとしていた。だがいつものように何を考えているのか良く分からない隊長の嵯峨惟基のにやけた顔が思い浮かぶ。そうなるといつものように煙に巻かれると諦めがついてきた。

「神前!起動は終わったか?」 

 別のウィンドウが開いてヨハンのふくよかな顔が目に飛び込んでくる。昨日の試合で見せた申し訳ないという感情ばかりが先行していた表情はそこには微塵も無かった。これは仕事だと割り切ったヨハンの視線が誠に向かってくる。

「今は終わって待機しているところです」 

 誠の言葉にヨハンは満足そうに頷く。誠はただ次の指示が来ることを待っていた。

「とりあえず東和陸軍の面々に見てもらおうじゃないか、05式と言うアサルト・モジュールを」 

 緩んだ顔でヨハンがそう言うと、あわせるようにして誠は固定器具のパージを開始した。

 東和陸軍の面々はハンガーの入り口で誠の痛特機を眺めている。薄い灰色の地に『ラブラブ魔女っ子シンディー』と言うアダルトゲームのヒロインキャラを誠のデザインで配置した機体の塗装に彼等は携帯のカメラを向ける。

「凄いっすねえ、神前曹長。人気者じゃないですか!」 

 冷やかすように言う西を無視して誠は機体をハンガーの外へと移動させた。

「おい、西。頼むからあの野次馬何とかしてくれ」 

 神前の言葉を聞いた西が部隊の整備員達を誠の足元に向かわせる。ハンガーの前に止めてあったトレーラを見下ろす。視点が上から見るというアングルに変わり、誠はその新兵器を眺めた。

 特に変わったところはない。

 これまでも法術や空間干渉能力を利用した兵器の実験に借り出されたことは何度かあったが、そのときの兵器達と特に違いは見えなかった。

『非破壊とか言ってたよな……』 

 誠はその長いライフルをじっと見つめる。しかし、その原理が全く説明されていない以上、それが兵器であると言う事実以外は分かるはずも無かった。

「神前。とりあえずシステム甲二種、装備Aで接続を開始しろ」 

 何かを口に頬張っているヨハンの言葉が響く。司法局実働部隊の出撃時の緊急度によって装備が規定されるのは部隊の性質上仕方の無いことだった。甲種出動は非常に危険度が高い大規模テロやクーデターの鎮圧指示の際に出されるランク。そして二種とはその中でもできるだけ事後の処理をスムーズにする為に、使用火器に限定をつけると言うことを意味していた。

『非殺傷兵器と言うことだから二種なのか……』 

 そう思いながらオペレーションシステムの変更を行うと、目の前のやたらと長い大砲のシステム接続画面へと移って行く。モニターの中に05式広域鎮圧砲という名前が浮かんでいる。それがこの兵器の正式名称らしい。直接的な名称はいかにも無味乾燥で東和軍中心での開発が行われたと言う名残だろうと誠は思った。そのまま彼の機体の左手を馬鹿長いライフルに向けた。

『左利き用なのか?僕専用ってこと?』 

 そのまま左手のシステムに接続し、各種機能調整をしているコマンドが見える。

「接続確認!このまま待機します」 

 右腕でライフルのバーチカルグリップを握って誠の機体はハンガーの前に立った。
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