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第21章 普段の一日
去って行く人々
しおりを挟む結局、父の借金は白金貨80枚と、飛んで銀貨21枚だった。ヒノモトの 圓でいうと ーーー 80億圓!?……いかん。冥府に勝ち込んであのクソを挽肉にしてやりたい。
まあ3年もあのクソを押し付けていた負目もあって、借金は一括で払った。阿婆擦れにも白金貨を10枚握らせた。口止めと手切れ金だ。おかげでガラス産業の3年分の純利益が吹っ飛んだ。
妓楼の店主と阿婆擦れに受け取りのサインをさせると、2人はホクホク顔で帰って行った。………そう、小汚いガキを置いて。
「………おい、お前」
「…………」
「お前の製造元と一緒に帰れ。金は払った。お前の母親は娼婦を辞めても食っていける」
そう言って追い出したことを、数日後に俺は後悔した。
妓楼ベルフィーユが燃えた。彩色こそ豪華で派手だったが所詮は木造。大黒柱さえ残らないほどの景気の良い全焼だった。妓楼の店主や従業員、娼婦たちの遺体には首や四肢を切断されたり頭蓋骨に損傷があったりと、明らかに他殺の跡があった。鏖だ。プレンダーガストから多額の現金を持ち帰ったことを嗅ぎつけられたのか、店主自ら喋ったのか。焼け出された金庫の扉はぐちゃぐちゃに破壊されていた。
小汚いガキは、泥と煤に塗れてさらに汚いガキになっていた。
泣きもせず、無表情で。捨てられた人形のように地べたに転がっていた。申し訳程度に掛けられた筵がこれまた汚いのなんの。正直臭い。さらに筵の隙間に赤茶色の蠢くモノ。……大量の 床虱を見つけた瞬間に、悲鳴をあげてガキの体の上に掛けられた筵を剥ぎ取った。
「…おいおい、領主様?イジメはいかんよイジメはぁ」
「五月蝿い黙ってろ!ぅぉおおおお!鳥肌っ!鳥肌立ってんぞ!どうしてくれる!!ご婦人!盤!盤を貸して……いや、売ってくれないか!あと石鹸!うわぁああああ!刺されてる!!」
馴染みの憲兵が俺を咎めたが無視。筵は焼け跡に投げ捨てて火魔法で燃やしておく。燃えた妓楼の隣の店主に声をかけて盤を売ってもらった。水と火の混合魔法で湯を出して、ぼんやり寝転んだままのガキの服を剥ぐ。案の定赤い斑点が大量に肌を埋め尽くして、背中には丸々と腹に血を吸ったマダニまで噛み付いてやがった!ひぃー!精神衛生上良くない!!元ヒノモト人の潔癖症舐めるな!!
身体強化魔法で筋力ブースト!ガキを抱き上げる。……あれ?軽い…。これなら身体強化はいらなかった?でもガキ、痩せすぎだろ!?
盤と石鹸を売ってくれたご婦人(妓楼の店主、多分80歳オーバー)が銀貨に気をよくしてチュニックのような貫頭衣を持ってきてくれる。うむ、清潔だ。お日様の匂いがする。……そうだ、なんでだ?プレンダーガスト領は俺が管理するようになって公衆衛生を叩き込んだ。領都には公衆浴場もあるし、石鹸も格安で売っている。なのになんでこのガキはこんなに臭いんだ?無抵抗で盤の中に座るガキを洗いながら、最悪の答えに辿り着く。
………こいつ、育児放棄されてやがったのか…。
プレンダーガストの屋敷に連れてきた時だけ体裁を整えて、金さえもらえればまた放ったらかしやがったな!?なんてことしやがる!子供は国の宝だぞ!?
二、三度洗ったくらいじゃ落ちない垢に白旗を上げる。こりゃもう長期戦だ。やりすぎたら肌を傷める。頭虱は屋敷に帰って除去剤を振りかけて……
溜息を吐くと、ガキと目が合った。
綺麗な金瞳だ。瞳の虹彩も心なし縦長で、前世で飼っていたトラに似ている。そういやトラも、俺が拾った直後はガリガリに痩せてて蚤は酷いし臭かった。………そうか、こいつはトラだ。うん、猫だと思おう。
「トラ……じゃねえな。タイガー、ティガ…ティグ……ティグレ。うん、ティグレだ。お前はティグレにしよう」
「………?」
「お前は猫だ。そうだろ?セバスにこれ以上人間は拾うなと言われてるんだ。だからお前は猫だ。覚悟しろよ?猫の子だと思って、俺がブックブクに肥えさせてやる」
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