221 / 1,505
第21章 普段の一日
欲望の詰まった部屋
しおりを挟む
「じゃあとりあえずこの部屋に置きましょう」
そう言うとアイシャは図書館の手前の空き部屋の鍵を開ける。
「いつの間に島田から借り出したんだ?」
「いえね、以前サラが正人君にスペアーキーもらったのをコピーしたのよ」
そう言うとアイシャは扉を開く。誠は不機嫌そうなかなめからダンボールを取り上げると、そのまま部屋に運び込んだ。次々とダンボールが積み上げられ、あっという間に部屋の半分が埋め尽くされていく。
「ずいぶんな量だな」
「スミス大尉。これでもかなり減らした方なんですよ」
ロナルドにパーラが耳打ちする。
「今日はこれでおしまいなわけね」
アイシャはそう言うと寮の住人のコレクションに手を伸ばす。
「好きだねえ、オメエは」
手にした漫画の表紙の少女の過激な股を広げた格好を見て呆れたようにかなめが呟いた。
「何?いけないの?」
「オメエの趣味だ、あれこれ言うつもりはねえよ」
開き直るアイシャにそう言うとかなめはタバコを取り出して部屋を出て行く。一つだけ、先ほどまでかなめが抱えていたダンボールから縄で縛られた少女の絵が覗いている。
「やっぱりこう言う趣味なのね、かなめちゃんは」
そう言うとアイシャはその漫画を取り上げた。
「なんですか?それは」
岡部の声が裏返る。
「百合&調教もの。まさにかなめちゃんにぴったりじゃないの」
ぱらぱらとアイシャはページをめくる。
「だが、それを買ったのは貴様だろ?」
カウラはそう言うと、そのページを覗き込んでいる誠とフェデロを一瞥した後、部屋から出て行った。
「ごめんね、ちょっとトイレに!」
そう言うとアイシャは冊子を置いてカウラに続いて部屋を出て行った。
「すまんが西、これでコーヒーでも買ってきてくれ」
食堂についたカウラが西に一万円札を渡す。
「ああ、俺も出しますよ」
そう言ってロナルドがポケットに手を伸ばすのをカウラは視線で制した。
「全部アイシャの荷物だからあの娘《こ》が出すのが良いんだけど、そうするとまた余計な仕事を押し付けられるかもしれないからね」
パーラがそう言ってロナルド達に疲れた笑みを浮かべた。
「しかし、本当に変わった奴が多いな。この部隊は」
ロナルドの言葉に顔を見合わせるサラとパーラには言うべき言葉が見つからなかった。西はロナルド達から質問されて下手な答えをしないために急いで敬礼してそのまま近くのコンビニへと走る。入れ替わりにタバコを一服したかなめが帰ってきた。
「でも良い人が多くて良かったです」
レベッカはそう言うと恥ずかしそうに視線を落とした。
「そいつはどうかねえ」
タバコを一服して戻ってきたかなめはそんな彼女を見て笑顔を浮かべながら意味ありげに笑う。
「違うんですか?」
レベッカがアイシャのコレクションの運搬の仕事を始めてから初めてに無邪気な笑みを浮かべた。
「実際お前さんの上官に聞いてみな?アタシがいい奴かどうか」
かなめの言葉にレベッカが彼女を見守っていたロナルドに目を向けた。ロナルドは黙って首を振った。
「まあロナルドの旦那はアタシと同類か……まあいいや。ここにいても仕方ねえや。食堂で話そうや」
かなめはそう言って部屋の扉を開ける。誠達も彼女に続いて廊下から階段、そして食堂へとたどり着いた。
食堂に入ると薄ら笑いを浮かべながらかなめがどっかりと中央のテーブルの真ん中の椅子に座る。誠もいつも通り意識せずにその隣の席を取る。反対側に座ったカウラがいつものように冷たい視線を送るが、まるで気にする様子は無い。
「しかし、神前君は良い上司に恵まれてるな……少なくとも人として扱ってもらっている」
ロナルドは気を利かせたレベッカからぬるい番茶の入った湯飲みを受け取るとそれを口に含んだ。
「そうかねえ、俺にはそうは思えないけどな」
フェデロの一言で、かなめとカウラの視線が彼に向かう。助けを求めるようにレベッカを見るフェデロだが、レベッカはもじもじしながら下を向いてしまった。
「余計なことは言わない方が良いな。お前も岡部もアサルト・モジュールでの本格的な実戦を経験したことは無いんだ。それに対し神前君は撃墜スコアー6機。立派なエースだ。文句を言いたければ結果を出してからにしろ」
「なんだよ、海軍の精鋭と聞いていたわりには実戦処女か?訓練時間だけが長いただのひよっこじゃねえか」
挑発的な視線を送るかなめだが、岡部もフェデロもそれに食いつく様子は見せない。さすがにかなめのわかりやすい性格が読めてきたのだろうと思って誠は苦笑いを浮かべた。ロナルドは言葉を続ける。
「我々と西園寺大尉では司法局に所属する意味はまるっきり違う。そう遠くない時期にベルルカン大陸に遼州司法局の旗を持って派遣される可能性もあるだろうからな」
ロナルドのその言葉に場の空気は固まった。
「そうか、あそこは遼州のアキレス腱だからな。小隊一つ送るにしても、微妙なパワーバランスや政治的配慮やらでお偉いさんも及び腰になっているのが実情だ。まああそこに利権を持つロシアやフランス辺りの面子を潰さずにアメちゃんの兵隊を送り込む方法としては、そう言う発想はありなんじゃないかな」
一人その空気を読めていたかなめの言葉、ロナルドは静かに頷いた。
「例えば先月誕生したスラベニア文民政権の正当性をめぐって遼州同盟は苛立っている。選挙と言うがベルルカン大陸らしい妨害や選挙データの改ざんが噂されている。さらに後ろに今度の大統領の後ろにはあからさまに地球の南米の大国、ブラジルのネオナチの影がちらついているからな。再来月の出直し選挙がどういう形で行われるかであの大陸の運命が決まるかも知れない」
ロナルドはそう言いながら一同を見回した。
「まあ、第一小隊は同盟加盟国の法術武装組織の教導任務で手が離せない。アタシ等は目立ちすぎて動けない。そうなるとどこかからそれなりの腕前の奴を引っ張ってくるしかない。そこに遼州での存在をアピールしたかったアメリカ海軍が目をつけたって事だな」
かなめのその言葉を否定も肯定もせず、ロナルドはただ笑みを浮かべるだけだった。
「まあ、そう言うことにしておきましょう」
不敵な笑みを浮かべるロナルド。まあ良いとでも言うようにかなめは自分の頭を軽く叩いた。
「まあ西の野郎を待ちつつまったりしようや」
その場にいる全員が珍しくかなめの言うことに同意するように頷いた。
そう言うとアイシャは図書館の手前の空き部屋の鍵を開ける。
「いつの間に島田から借り出したんだ?」
「いえね、以前サラが正人君にスペアーキーもらったのをコピーしたのよ」
そう言うとアイシャは扉を開く。誠は不機嫌そうなかなめからダンボールを取り上げると、そのまま部屋に運び込んだ。次々とダンボールが積み上げられ、あっという間に部屋の半分が埋め尽くされていく。
「ずいぶんな量だな」
「スミス大尉。これでもかなり減らした方なんですよ」
ロナルドにパーラが耳打ちする。
「今日はこれでおしまいなわけね」
アイシャはそう言うと寮の住人のコレクションに手を伸ばす。
「好きだねえ、オメエは」
手にした漫画の表紙の少女の過激な股を広げた格好を見て呆れたようにかなめが呟いた。
「何?いけないの?」
「オメエの趣味だ、あれこれ言うつもりはねえよ」
開き直るアイシャにそう言うとかなめはタバコを取り出して部屋を出て行く。一つだけ、先ほどまでかなめが抱えていたダンボールから縄で縛られた少女の絵が覗いている。
「やっぱりこう言う趣味なのね、かなめちゃんは」
そう言うとアイシャはその漫画を取り上げた。
「なんですか?それは」
岡部の声が裏返る。
「百合&調教もの。まさにかなめちゃんにぴったりじゃないの」
ぱらぱらとアイシャはページをめくる。
「だが、それを買ったのは貴様だろ?」
カウラはそう言うと、そのページを覗き込んでいる誠とフェデロを一瞥した後、部屋から出て行った。
「ごめんね、ちょっとトイレに!」
そう言うとアイシャは冊子を置いてカウラに続いて部屋を出て行った。
「すまんが西、これでコーヒーでも買ってきてくれ」
食堂についたカウラが西に一万円札を渡す。
「ああ、俺も出しますよ」
そう言ってロナルドがポケットに手を伸ばすのをカウラは視線で制した。
「全部アイシャの荷物だからあの娘《こ》が出すのが良いんだけど、そうするとまた余計な仕事を押し付けられるかもしれないからね」
パーラがそう言ってロナルド達に疲れた笑みを浮かべた。
「しかし、本当に変わった奴が多いな。この部隊は」
ロナルドの言葉に顔を見合わせるサラとパーラには言うべき言葉が見つからなかった。西はロナルド達から質問されて下手な答えをしないために急いで敬礼してそのまま近くのコンビニへと走る。入れ替わりにタバコを一服したかなめが帰ってきた。
「でも良い人が多くて良かったです」
レベッカはそう言うと恥ずかしそうに視線を落とした。
「そいつはどうかねえ」
タバコを一服して戻ってきたかなめはそんな彼女を見て笑顔を浮かべながら意味ありげに笑う。
「違うんですか?」
レベッカがアイシャのコレクションの運搬の仕事を始めてから初めてに無邪気な笑みを浮かべた。
「実際お前さんの上官に聞いてみな?アタシがいい奴かどうか」
かなめの言葉にレベッカが彼女を見守っていたロナルドに目を向けた。ロナルドは黙って首を振った。
「まあロナルドの旦那はアタシと同類か……まあいいや。ここにいても仕方ねえや。食堂で話そうや」
かなめはそう言って部屋の扉を開ける。誠達も彼女に続いて廊下から階段、そして食堂へとたどり着いた。
食堂に入ると薄ら笑いを浮かべながらかなめがどっかりと中央のテーブルの真ん中の椅子に座る。誠もいつも通り意識せずにその隣の席を取る。反対側に座ったカウラがいつものように冷たい視線を送るが、まるで気にする様子は無い。
「しかし、神前君は良い上司に恵まれてるな……少なくとも人として扱ってもらっている」
ロナルドは気を利かせたレベッカからぬるい番茶の入った湯飲みを受け取るとそれを口に含んだ。
「そうかねえ、俺にはそうは思えないけどな」
フェデロの一言で、かなめとカウラの視線が彼に向かう。助けを求めるようにレベッカを見るフェデロだが、レベッカはもじもじしながら下を向いてしまった。
「余計なことは言わない方が良いな。お前も岡部もアサルト・モジュールでの本格的な実戦を経験したことは無いんだ。それに対し神前君は撃墜スコアー6機。立派なエースだ。文句を言いたければ結果を出してからにしろ」
「なんだよ、海軍の精鋭と聞いていたわりには実戦処女か?訓練時間だけが長いただのひよっこじゃねえか」
挑発的な視線を送るかなめだが、岡部もフェデロもそれに食いつく様子は見せない。さすがにかなめのわかりやすい性格が読めてきたのだろうと思って誠は苦笑いを浮かべた。ロナルドは言葉を続ける。
「我々と西園寺大尉では司法局に所属する意味はまるっきり違う。そう遠くない時期にベルルカン大陸に遼州司法局の旗を持って派遣される可能性もあるだろうからな」
ロナルドのその言葉に場の空気は固まった。
「そうか、あそこは遼州のアキレス腱だからな。小隊一つ送るにしても、微妙なパワーバランスや政治的配慮やらでお偉いさんも及び腰になっているのが実情だ。まああそこに利権を持つロシアやフランス辺りの面子を潰さずにアメちゃんの兵隊を送り込む方法としては、そう言う発想はありなんじゃないかな」
一人その空気を読めていたかなめの言葉、ロナルドは静かに頷いた。
「例えば先月誕生したスラベニア文民政権の正当性をめぐって遼州同盟は苛立っている。選挙と言うがベルルカン大陸らしい妨害や選挙データの改ざんが噂されている。さらに後ろに今度の大統領の後ろにはあからさまに地球の南米の大国、ブラジルのネオナチの影がちらついているからな。再来月の出直し選挙がどういう形で行われるかであの大陸の運命が決まるかも知れない」
ロナルドはそう言いながら一同を見回した。
「まあ、第一小隊は同盟加盟国の法術武装組織の教導任務で手が離せない。アタシ等は目立ちすぎて動けない。そうなるとどこかからそれなりの腕前の奴を引っ張ってくるしかない。そこに遼州での存在をアピールしたかったアメリカ海軍が目をつけたって事だな」
かなめのその言葉を否定も肯定もせず、ロナルドはただ笑みを浮かべるだけだった。
「まあ、そう言うことにしておきましょう」
不敵な笑みを浮かべるロナルド。まあ良いとでも言うようにかなめは自分の頭を軽く叩いた。
「まあ西の野郎を待ちつつまったりしようや」
その場にいる全員が珍しくかなめの言うことに同意するように頷いた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる