210 / 1,503
第17章 西園寺かなめ
姐御の婚礼話
しおりを挟む
下っていくエレベータ。シャムが不安そうに眉間にしわを寄せているかなめの顔を見る。
「ああ、そう言えばシャム。花屋寄ってかんとまずいだろ」
「そうだよ!そのためにもかなめちゃんのところに来たんだから!」
吉田とシャムがかなめのタレ目を覗き込む。
「何が言いたいんだ?」
エレベータの扉が開く。すばやくその間を抜けて歩き始めたかなめが吉田達に振り向いた。
「聞いてないのか?」
「だから何をだよ!」
そうかなめが言い放つと、困惑したように吉田とシャムが顔を見合わせる。
「タコの奴、ようやく腹を決めたんだわ」
それだけではわからない。誠はその言葉の意味が分からず茫然と吉田の顔を覗き込んだ。
「来年の六月にね、同盟司法局本局の明石清海《あかしきよみ》中佐と明華ちゃん結婚するんだって!」
一瞬の沈黙。マンションの自動ドアを通り過ぎた地点で、かなめはようやく意味が聞き取れたと言うように立ち止まった。本局付きで、クバルカ・
ランの前任の司法局実働部隊副隊長だった明石清海中佐、そして技術部部長で司法局実働部隊の実力ナンバーワンの許明華大佐。その二人の名前を思い出し誠はようやく納得したようにうなづいた。
「姐御が……マジか?」
吉田を見つめるかなめ。誠は呆然と吉田達を眺めた。
「嘘ついてどうするんだよ。シャム、カウラには連絡したろ?」
シャムが吉田を不思議そうな顔で見つめている。吉田は頭を抱える。
「そう言うことは早く言えよ!それで渡す花束のコーディネートをアタシに頼もうってんだろ?」
ようやく納得がいったとでも言うようにかなめは目の前に止めてあった吉田のワンボックスカーのドアを開けた。
「吉田。重要なことはシャムに任せるんじゃねえよ。それにしても、暑いなあ。ったくクーラーくらい付けろっての!」
そう言うとかなめは石油エネルギー全盛期の地球製と思われる吉田の古いクーラーの無いワンボックスカーの後部座席に座り込む。
「夏は暑いから夏なんだよ!我慢しなきゃ!」
助手席のシャムは平気な顔をしている。一方でガムを口に放り込んでエンジンをかける吉田も平然としている。誠は噴出す汗を感じてすぐに窓を全
開に開けた。吉田の趣味らしく電子音が揺れているようなポップな音楽が大音量で流れる。
「花屋に任せりゃあ良いじゃねえか。それとも何か?アタシに指導料でもくれるのか?」
音楽に負けない程度の声でかなめが叫ぶ。
「同僚だろ?それに西園寺流華道家元の娘らしいことしてくれても罰は当たらないんじゃないか?」
そう言うと吉田は車を出した。
「それにこいつ。ほっとくと花とか食うからな」
「酷いよ俊平!アタシそんなもの食べないよ!」
シャムが口をとがらせて抗議する。誠は苦笑いを浮かべて様子をうかがっていた。市の中心部へと向かう大通りに入り込んだ車は、吉田の的確なハンドルさばきで次々と先行する車両を抜き去る。
「そう言えばパーラが華道やりたいとか言ってたぞ。教えてやれよ」
吉田がそれとなく振り向く。かなめは無視してそのまま車窓を眺めている。工事中の立体交差の大通りを前に左折し、裏道に入る。少しすすけたよ
うな旧市街の町並みが続く。
「しかし、タコの奴心境の変化でもあったのかね。独身主義者とか言ってただろ?」
開け放たれた窓からの風に前髪を揺らしながらかなめがつぶやく。
「まあ俺はあいつのプロポーズがいつになるか楽しみだったんだけど、アレは無いよなあ……」
吉田の口から漏れたその言葉に、かなめとシャムが食いつくように目を向けた。
「先に言っとくぞ。明石の旦那は一応俺の上司だ。あいつの不利になるようなことは言わねえからな」
「勿体付けんなよ。吉田のことだからカメラ仕掛けるとか盗聴器しかけるとかしてよく知ってるんだろ? 教えろよ」
かなめが運転している吉田の頬をぺたぺたと叩く。目を輝かせているシャムが黙って吉田を見つめる。
「だから、たいしたことは無いんだって!」
そう言うと車がすれ違うには難しいような細い路地へと吉田は車を向かわせる。
「まあいいか、どうせ叔父貴が言いふらすだろうからそっちから聞くわ」
そう言うとあきらめたようにかなめは後部座席で思い切り伸びをした。
「もう少し粘ったら教えてやったのにな……」
吉田の言葉にかなめは一瞬後悔するような顔をした後、思い直したように視線を車の進行方向に向けた。
「ああ、そう言えばシャム。花屋寄ってかんとまずいだろ」
「そうだよ!そのためにもかなめちゃんのところに来たんだから!」
吉田とシャムがかなめのタレ目を覗き込む。
「何が言いたいんだ?」
エレベータの扉が開く。すばやくその間を抜けて歩き始めたかなめが吉田達に振り向いた。
「聞いてないのか?」
「だから何をだよ!」
そうかなめが言い放つと、困惑したように吉田とシャムが顔を見合わせる。
「タコの奴、ようやく腹を決めたんだわ」
それだけではわからない。誠はその言葉の意味が分からず茫然と吉田の顔を覗き込んだ。
「来年の六月にね、同盟司法局本局の明石清海《あかしきよみ》中佐と明華ちゃん結婚するんだって!」
一瞬の沈黙。マンションの自動ドアを通り過ぎた地点で、かなめはようやく意味が聞き取れたと言うように立ち止まった。本局付きで、クバルカ・
ランの前任の司法局実働部隊副隊長だった明石清海中佐、そして技術部部長で司法局実働部隊の実力ナンバーワンの許明華大佐。その二人の名前を思い出し誠はようやく納得したようにうなづいた。
「姐御が……マジか?」
吉田を見つめるかなめ。誠は呆然と吉田達を眺めた。
「嘘ついてどうするんだよ。シャム、カウラには連絡したろ?」
シャムが吉田を不思議そうな顔で見つめている。吉田は頭を抱える。
「そう言うことは早く言えよ!それで渡す花束のコーディネートをアタシに頼もうってんだろ?」
ようやく納得がいったとでも言うようにかなめは目の前に止めてあった吉田のワンボックスカーのドアを開けた。
「吉田。重要なことはシャムに任せるんじゃねえよ。それにしても、暑いなあ。ったくクーラーくらい付けろっての!」
そう言うとかなめは石油エネルギー全盛期の地球製と思われる吉田の古いクーラーの無いワンボックスカーの後部座席に座り込む。
「夏は暑いから夏なんだよ!我慢しなきゃ!」
助手席のシャムは平気な顔をしている。一方でガムを口に放り込んでエンジンをかける吉田も平然としている。誠は噴出す汗を感じてすぐに窓を全
開に開けた。吉田の趣味らしく電子音が揺れているようなポップな音楽が大音量で流れる。
「花屋に任せりゃあ良いじゃねえか。それとも何か?アタシに指導料でもくれるのか?」
音楽に負けない程度の声でかなめが叫ぶ。
「同僚だろ?それに西園寺流華道家元の娘らしいことしてくれても罰は当たらないんじゃないか?」
そう言うと吉田は車を出した。
「それにこいつ。ほっとくと花とか食うからな」
「酷いよ俊平!アタシそんなもの食べないよ!」
シャムが口をとがらせて抗議する。誠は苦笑いを浮かべて様子をうかがっていた。市の中心部へと向かう大通りに入り込んだ車は、吉田の的確なハンドルさばきで次々と先行する車両を抜き去る。
「そう言えばパーラが華道やりたいとか言ってたぞ。教えてやれよ」
吉田がそれとなく振り向く。かなめは無視してそのまま車窓を眺めている。工事中の立体交差の大通りを前に左折し、裏道に入る。少しすすけたよ
うな旧市街の町並みが続く。
「しかし、タコの奴心境の変化でもあったのかね。独身主義者とか言ってただろ?」
開け放たれた窓からの風に前髪を揺らしながらかなめがつぶやく。
「まあ俺はあいつのプロポーズがいつになるか楽しみだったんだけど、アレは無いよなあ……」
吉田の口から漏れたその言葉に、かなめとシャムが食いつくように目を向けた。
「先に言っとくぞ。明石の旦那は一応俺の上司だ。あいつの不利になるようなことは言わねえからな」
「勿体付けんなよ。吉田のことだからカメラ仕掛けるとか盗聴器しかけるとかしてよく知ってるんだろ? 教えろよ」
かなめが運転している吉田の頬をぺたぺたと叩く。目を輝かせているシャムが黙って吉田を見つめる。
「だから、たいしたことは無いんだって!」
そう言うと車がすれ違うには難しいような細い路地へと吉田は車を向かわせる。
「まあいいか、どうせ叔父貴が言いふらすだろうからそっちから聞くわ」
そう言うとあきらめたようにかなめは後部座席で思い切り伸びをした。
「もう少し粘ったら教えてやったのにな……」
吉田の言葉にかなめは一瞬後悔するような顔をした後、思い直したように視線を車の進行方向に向けた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる