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第17章 西園寺かなめ
物騒な噂の出どころ
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「それじゃあ、どうする?」
「商店街でも顔出すか」
そう言ってかなめは立ち上がる。そのままベランダのドアを開け、吉田の肩を叩いた。
「帰るのも当然こっちだろ?」
かなめはニヤつきながらベランダの向こうに垂れ下がっているロープを指差す。
「俺の車に乗るんだろ?ちゃんとロープは回収するから頼むわ」
そう言うと吉田はベランダに出てロープを一回弛ませる。すぐさま上から鉤爪が落ちて来るのを受け取るとロープをまとめ始める。
「そう言えば吉田。最近、叔父貴に仕事を頼まれたことあるか?」
部屋を出ようとする吉田にかなめが声をかける。
「仕事ねえ、年中頼まれてるがどんな仕事だ?」
「『カネミツ』がらみ、またはこいつの『クロームナイト』の関係でも良いや」
かなめの言葉を聞くと吉田は少し怪訝な顔をする。
「遼南叩きのサイトなんかで流れてたな、そんな噂。年中立つ噂だが、今回はちょっとソースが特殊なんでね」
頭を掻きながら玄関で吉田は靴に足を突っ込む。
「やっぱりデマか。でもどこだって言うんだ?ソースは」
「東モスレム解放戦線の公然組織、東和回教布教団だ。東モスレムの連中にしたら確かにあの化け物が央都に鎮座しているってことが安心して眠れない理由なんだろうが、持ち主の遼南軍とは情報の接点のの無い連中だから推測で叫んでいるだけなんじゃないかな。もし本当ならもっと早い段階で水漏れして俺のところにもいくつかの情報屋から知らせがくるもんだけどな」
そう言うと吉田はゆっくりと靴の紐を締めていく。
「つまり今回アタシが手に入れた情報は無意味だったと」
「まあそう言うこと。とりあえず騒ぐことが無いからでっち上げたんだろ。だが、東モスレムの情報が嘘だからといって豊川工場に『カネミツ』が存在しないかどうかは俺もわかんねえよ」
吉田はゆっくりと立ち上がる。かなめはそれ以上聞くつもりは無かった。ネット上の情報をほぼその神経デバイスにリアルタイムで流している吉田すら嵯峨の特殊な情報網は把握できてはいない。そして吉田もそのことを追求することは無い。
いつものことだ。そう割り切った誠はさっさとサンダルを履くかなめの後に続いて靴を履いた。
誰もいない踊り場からかなめを先頭にエレベータに向かう。
「しかし、西園寺が出てったらどうなるんだ?この建物。どうせお前さんの持ちもんだろ?」
吉田が人気の無いフロアーを見回している。シャムもそれをまねるように首をめぐらす。
「ああ、今度、京渓電鉄が向こうの造成地に駅作るって話だから売れるんじゃねえか?」
まるで他人事のようにかなめはそう言い残してエレベータに乗り込む。
「でも、凄いですね」
ここ数日、かなめと自分の暮らしていた世界が余りに遠いことを思い知らされた誠はそう言うしかなかった。
「胡州帝国宰相の娘とは思えない部屋だったしな」
「吉田。どういう意味だ?」
予想通り噛み付いてきたと振り返って眼を飛ばすかなめに吉田は笑顔を返す。
「言ったとおり。それ以外の意味なんかねえよ」
かなめはそう言ってニヤリと笑った。
「商店街でも顔出すか」
そう言ってかなめは立ち上がる。そのままベランダのドアを開け、吉田の肩を叩いた。
「帰るのも当然こっちだろ?」
かなめはニヤつきながらベランダの向こうに垂れ下がっているロープを指差す。
「俺の車に乗るんだろ?ちゃんとロープは回収するから頼むわ」
そう言うと吉田はベランダに出てロープを一回弛ませる。すぐさま上から鉤爪が落ちて来るのを受け取るとロープをまとめ始める。
「そう言えば吉田。最近、叔父貴に仕事を頼まれたことあるか?」
部屋を出ようとする吉田にかなめが声をかける。
「仕事ねえ、年中頼まれてるがどんな仕事だ?」
「『カネミツ』がらみ、またはこいつの『クロームナイト』の関係でも良いや」
かなめの言葉を聞くと吉田は少し怪訝な顔をする。
「遼南叩きのサイトなんかで流れてたな、そんな噂。年中立つ噂だが、今回はちょっとソースが特殊なんでね」
頭を掻きながら玄関で吉田は靴に足を突っ込む。
「やっぱりデマか。でもどこだって言うんだ?ソースは」
「東モスレム解放戦線の公然組織、東和回教布教団だ。東モスレムの連中にしたら確かにあの化け物が央都に鎮座しているってことが安心して眠れない理由なんだろうが、持ち主の遼南軍とは情報の接点のの無い連中だから推測で叫んでいるだけなんじゃないかな。もし本当ならもっと早い段階で水漏れして俺のところにもいくつかの情報屋から知らせがくるもんだけどな」
そう言うと吉田はゆっくりと靴の紐を締めていく。
「つまり今回アタシが手に入れた情報は無意味だったと」
「まあそう言うこと。とりあえず騒ぐことが無いからでっち上げたんだろ。だが、東モスレムの情報が嘘だからといって豊川工場に『カネミツ』が存在しないかどうかは俺もわかんねえよ」
吉田はゆっくりと立ち上がる。かなめはそれ以上聞くつもりは無かった。ネット上の情報をほぼその神経デバイスにリアルタイムで流している吉田すら嵯峨の特殊な情報網は把握できてはいない。そして吉田もそのことを追求することは無い。
いつものことだ。そう割り切った誠はさっさとサンダルを履くかなめの後に続いて靴を履いた。
誰もいない踊り場からかなめを先頭にエレベータに向かう。
「しかし、西園寺が出てったらどうなるんだ?この建物。どうせお前さんの持ちもんだろ?」
吉田が人気の無いフロアーを見回している。シャムもそれをまねるように首をめぐらす。
「ああ、今度、京渓電鉄が向こうの造成地に駅作るって話だから売れるんじゃねえか?」
まるで他人事のようにかなめはそう言い残してエレベータに乗り込む。
「でも、凄いですね」
ここ数日、かなめと自分の暮らしていた世界が余りに遠いことを思い知らされた誠はそう言うしかなかった。
「胡州帝国宰相の娘とは思えない部屋だったしな」
「吉田。どういう意味だ?」
予想通り噛み付いてきたと振り返って眼を飛ばすかなめに吉田は笑顔を返す。
「言ったとおり。それ以外の意味なんかねえよ」
かなめはそう言ってニヤリと笑った。
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