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第17章 西園寺かなめ
嵯峨親子について
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「ここは右折でよろしいですの?」
造成中の畑だったらしい土地を前にして道が途切れたT字路で嵯峨茜が声をかける。
「ああ、そうすればすぐ見える」
かなめは相変わらず火のついていないタバコをくわえたまま、砂埃を上げる作業用特機を眺めていた。茜がハンドルを切り、世界は回る。そんな視界の先に孤立した山城のようにも見えるマンションが見えた。周りの造成地が整備中か、雑草が茂る空き地か、そんなもので構成されている中にあって、そのマンションはきわめて異質なものに見える。
まるで戦場に立つ要塞のようだ。誠はマンションを見上げながらそう思った。茜は静かにその玄関に車を止める。
「ああ、ありがとな」
そう言いながらかなめはくわえていたタバコに火をつけて地面に降り立つ。
「ありがとうございました」
「いいえ、これからお世話になるんですもの。当然のことをしたまでですわ」
茜の左の袖が振られる。その様を見ながら誠は少し照れるように笑った。
「それじゃあごきげんよう」
そういい残して茜は車を走らせた。
「おい、何見てんだよ!」
タバコをくわえたままかなめは誠の肩に手をやる。
「別になにも……」
「じゃあ行くぞ」
そう言うとかなめはタバコを携帯灰皿でもみ消し、マンションの入り口の回転扉の前に立った。扉の横のセキュリティーシステムに暗証番号を入力する。それまで銀色の壁のように見えていた正面の扉の周りが透明になって汚れの一つ無いフロアーがガラス越しに覗けるようになった。
建物の中には大理石を模した壁。いや、本物の大理石かもしれない。何しろ胡州一の名門の一人娘の住まうところなのだから。
「ここって高いですよね?」
「そうか?まあ、親父が就職祝いがまだだったってんで、買ってくれたんだけどな」
根本的にかなめとは金銭感覚が違うことをひしひしと感じながら、開いた自動ドアを超えていくかなめに誠はついていく。
「茜ねえ……嵯峨親子はどうにも苦手でね。何を聞いても暖簾に腕押しさ、ぬらりくらりとかわされる」
かなめはそう言いながらエレベータのボタンを押した。その間も誠は静かな人気の無い一階フロアーを見回していた。すぐにその目は自分を見ていないことに気づいたかなめの責めるような視線に捕らわれる。仕方がないというように誠は先ほどのかなめの言葉を頭の中で反芻した。
「まあ、茜さんの考え方は隊長と似てますよね」
「気をつけな。下手すると茜の奴は叔父貴よりたちが悪いぞ」
エレベータが開きかなめが乗り込む。階は9階。誠は人気の無さを少しばかり不審に思ったが、あえて口には出さなかった。たぶんかなめのことである。このマンション全室が彼女のものであったとしても不思議なことは無い。そして、もしそんなことを口にしたら彼女の機嫌を損ねることはわかっていた。
「どうした?アタシの顔になんかついてるのか?」
「いえ、なんでもないです」
誠がそんな言葉を返す頃にはエレベータは9階に到着していた。
かなめは黙ってエレベータから降りる。誠もそれに続く。フロアーには相変わらず生活臭と言うものがしない。誠は少し不安を抱えたまま、慣れた調子で歩くかなめの後に続いた。東南角部屋。このマンションでも一番の物件であろうところでかなめは足を止めた。
造成中の畑だったらしい土地を前にして道が途切れたT字路で嵯峨茜が声をかける。
「ああ、そうすればすぐ見える」
かなめは相変わらず火のついていないタバコをくわえたまま、砂埃を上げる作業用特機を眺めていた。茜がハンドルを切り、世界は回る。そんな視界の先に孤立した山城のようにも見えるマンションが見えた。周りの造成地が整備中か、雑草が茂る空き地か、そんなもので構成されている中にあって、そのマンションはきわめて異質なものに見える。
まるで戦場に立つ要塞のようだ。誠はマンションを見上げながらそう思った。茜は静かにその玄関に車を止める。
「ああ、ありがとな」
そう言いながらかなめはくわえていたタバコに火をつけて地面に降り立つ。
「ありがとうございました」
「いいえ、これからお世話になるんですもの。当然のことをしたまでですわ」
茜の左の袖が振られる。その様を見ながら誠は少し照れるように笑った。
「それじゃあごきげんよう」
そういい残して茜は車を走らせた。
「おい、何見てんだよ!」
タバコをくわえたままかなめは誠の肩に手をやる。
「別になにも……」
「じゃあ行くぞ」
そう言うとかなめはタバコを携帯灰皿でもみ消し、マンションの入り口の回転扉の前に立った。扉の横のセキュリティーシステムに暗証番号を入力する。それまで銀色の壁のように見えていた正面の扉の周りが透明になって汚れの一つ無いフロアーがガラス越しに覗けるようになった。
建物の中には大理石を模した壁。いや、本物の大理石かもしれない。何しろ胡州一の名門の一人娘の住まうところなのだから。
「ここって高いですよね?」
「そうか?まあ、親父が就職祝いがまだだったってんで、買ってくれたんだけどな」
根本的にかなめとは金銭感覚が違うことをひしひしと感じながら、開いた自動ドアを超えていくかなめに誠はついていく。
「茜ねえ……嵯峨親子はどうにも苦手でね。何を聞いても暖簾に腕押しさ、ぬらりくらりとかわされる」
かなめはそう言いながらエレベータのボタンを押した。その間も誠は静かな人気の無い一階フロアーを見回していた。すぐにその目は自分を見ていないことに気づいたかなめの責めるような視線に捕らわれる。仕方がないというように誠は先ほどのかなめの言葉を頭の中で反芻した。
「まあ、茜さんの考え方は隊長と似てますよね」
「気をつけな。下手すると茜の奴は叔父貴よりたちが悪いぞ」
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