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第15章 休日の終わりに
容疑の行先
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「しかし、叔父貴の奴。珍しく焦ってるな」
司法局実働部隊基地の隣に隣接している巨大な菱川重工豊川工場の敷地が続いている。夜も休むことなく走っているコンテナーを載せたトレーラーに続いて動き出したカウラのスポーツカーの後部座席でかなめは不機嫌そうにひざの上の荷物を叩きながらつぶやく。
「そうは見えませんでしたけど」
助手席の誠がそう言うと、かなめが大きなため息をついた。
「わかってねえなあ」
「まあしょうがないわよ。私だってあの不良中年の考えてることが少しわかったような気がしたの最近だもの」
そう言って自分で買ってきた缶コーヒーをアイシャが口にする。
「どうしてわかるんですか?」
「部隊長は確定情報じゃないことを真剣な顔をして口にすることは無い。それが隊長の特徴だ」
ギアを一段あげてカウラがそう言った。こういう時は嘘がつけないカウラの言葉はあてになる。確かに誠が見てもあのように本音と明らかにわかる言葉を吐く嵯峨を見たことが無かった。
「法術武装隊に知り合いがいねえだ?ふざけるなっての。東都戦争で叔父貴の手先で動いてた嵯峨直参隊の連中の身元洗って突きつけてやろうか?」
かなめはそう言うとこぶしを握り締めた。
「たぶん隊長の手元に着く前に吉田少佐にデータ改ざんされるわよ」
そのアイシャの言葉にかなめは右手のこぶしを左手に叩きつける。
「暴れるのは止めてくれ」
いつもどおりカウラは淡々とハンドルを操る。
「西園寺さんでもすぐわかる嘘をついたわけですか。じゃあどうしてそんなことを……」
「決まってるじゃない、あの人なりに誠君のこと気にしているのよ。さすがに茜お嬢さんを司法局に引き込むなんて私はかなり驚いたけど」
飲み終わったコーヒーの缶を両手で握り締めているアイシャの姿がバックミラーを通して誠の視線に入ってくる。
「どう読むよ、第二小隊隊長さん」
かなめの声。普段こういうときには皮肉が語尾に残るものだが、そこには場を凍らせる真剣さが乗っていた。
「法術適正所有者のデータを知ることが出来てその訓練に必要な場所と人材を所有する組織。しかも、それなりの資金力があるところとなると私は一つしか知らない……そこが今回の刺客と何かのつながりがあると考えるのが自然だ」
その言葉に頷きながらかなめが言葉を引き継ぐ。
「遼南青銅騎士団」
カウラの言葉をついで出てきたその言葉に誠は驚愕した。
「そんな!嵯峨隊長のお膝元じゃないですか!それに形だけとはいえあそこの団長ってシャムさんで、副長が吉田少佐ですよ!」
誠が声を張り上げるのを見て、かなめが宥めるようにその肩を押さえた。
車内は重苦しい雰囲気に包まれる。
「誠。確かに青銅騎士団は遼南帝国皇帝直属の精鋭部隊だ。だけどなどんな組織だって、なりがでかくなれば目は届かなくなる。ましてや五年前の政権を南城軍閥の頭目、アンリ・ブルゴーニュに譲渡してからどうなったか、そんなところまで叔父貴は責任もたんだろ?」
そう言うとかなめはタバコを取り出してくわえる。
「西園寺。この車は禁煙だ」
「わあってるよ!くわえてるだけだっつうの」
カウラの言葉に口元をゆがめるかなめ。そのままくわえたタバコを箱に戻す。
「私のところにも結構流れてくるわよ。青銅騎士団ってシャムちゃんが団長していた時とはかなりメンバーが入れ替わっているわね。団長代理の御子神隆志中佐くらいじゃないの?生え抜きは」
工場の出口の守衛室を眺めているアイシャ。信号が変わり再び車列が動き出す。
「叔父貴と言う重石が取れた今。その一部が暴走することは十分考えられるわな。ようやく平和が訪れたとはいえ、30年近く戦争状態が続いた遼南だ。地方間の格差や宗教問題で、いつ火が入ってもおかしいことはねえな」
バックミラー越しに見えるかなめの口元は笑っていた。
「西園寺は相変わらず趣味が悪いな。まるで火がついて欲しいみたいな顔をしているぞ」
そう言うとカウラは中央分離帯のある国道に車を乗り入れる。
「ちょうど退屈していたところだ。多少スリルがあった方が人生楽しめるもんだぜ?」
「スリルで済めばね」
そう言うとアイシャは狭い後部座席で足を伸ばそうとした。
「テメエ!半分超えて足出すな!」
「ごめんなさい。私、足が長いから」
「そう言う足は切っとくか?」
「冗談よ!冗談!」
後部座席でどたばたとじゃれあう二人を見て、誠は宵闇に沈む豊川の街を見ていた。東都のベッドタウンである豊川。ここでの暮らしも一月を越えていた。職場のぶっ飛んだ面々だけでなく、寮の近くに広がる商店街にも知り合いが出来てそれなりに楽しく過ごしている。遼州人、地球人。元をたどればどちらかにつながるであろう街の人々の顔を思い出して、今日、彼を襲った傲慢な法術使いの言葉に許しがたい怒りの感情が生まれてきた。
誠は遼州人であるが、地球人との違いを感じたことなど無かった。先月の自分の法術の発現が大々的にすべてのメディアを席巻した事件から、目には見えないが二つの人類に溝が出来ていたのかもしれない。
そんなことを考えながら流れていく豊川の町の景色を眺めていた。
司法局実働部隊基地の隣に隣接している巨大な菱川重工豊川工場の敷地が続いている。夜も休むことなく走っているコンテナーを載せたトレーラーに続いて動き出したカウラのスポーツカーの後部座席でかなめは不機嫌そうにひざの上の荷物を叩きながらつぶやく。
「そうは見えませんでしたけど」
助手席の誠がそう言うと、かなめが大きなため息をついた。
「わかってねえなあ」
「まあしょうがないわよ。私だってあの不良中年の考えてることが少しわかったような気がしたの最近だもの」
そう言って自分で買ってきた缶コーヒーをアイシャが口にする。
「どうしてわかるんですか?」
「部隊長は確定情報じゃないことを真剣な顔をして口にすることは無い。それが隊長の特徴だ」
ギアを一段あげてカウラがそう言った。こういう時は嘘がつけないカウラの言葉はあてになる。確かに誠が見てもあのように本音と明らかにわかる言葉を吐く嵯峨を見たことが無かった。
「法術武装隊に知り合いがいねえだ?ふざけるなっての。東都戦争で叔父貴の手先で動いてた嵯峨直参隊の連中の身元洗って突きつけてやろうか?」
かなめはそう言うとこぶしを握り締めた。
「たぶん隊長の手元に着く前に吉田少佐にデータ改ざんされるわよ」
そのアイシャの言葉にかなめは右手のこぶしを左手に叩きつける。
「暴れるのは止めてくれ」
いつもどおりカウラは淡々とハンドルを操る。
「西園寺さんでもすぐわかる嘘をついたわけですか。じゃあどうしてそんなことを……」
「決まってるじゃない、あの人なりに誠君のこと気にしているのよ。さすがに茜お嬢さんを司法局に引き込むなんて私はかなり驚いたけど」
飲み終わったコーヒーの缶を両手で握り締めているアイシャの姿がバックミラーを通して誠の視線に入ってくる。
「どう読むよ、第二小隊隊長さん」
かなめの声。普段こういうときには皮肉が語尾に残るものだが、そこには場を凍らせる真剣さが乗っていた。
「法術適正所有者のデータを知ることが出来てその訓練に必要な場所と人材を所有する組織。しかも、それなりの資金力があるところとなると私は一つしか知らない……そこが今回の刺客と何かのつながりがあると考えるのが自然だ」
その言葉に頷きながらかなめが言葉を引き継ぐ。
「遼南青銅騎士団」
カウラの言葉をついで出てきたその言葉に誠は驚愕した。
「そんな!嵯峨隊長のお膝元じゃないですか!それに形だけとはいえあそこの団長ってシャムさんで、副長が吉田少佐ですよ!」
誠が声を張り上げるのを見て、かなめが宥めるようにその肩を押さえた。
車内は重苦しい雰囲気に包まれる。
「誠。確かに青銅騎士団は遼南帝国皇帝直属の精鋭部隊だ。だけどなどんな組織だって、なりがでかくなれば目は届かなくなる。ましてや五年前の政権を南城軍閥の頭目、アンリ・ブルゴーニュに譲渡してからどうなったか、そんなところまで叔父貴は責任もたんだろ?」
そう言うとかなめはタバコを取り出してくわえる。
「西園寺。この車は禁煙だ」
「わあってるよ!くわえてるだけだっつうの」
カウラの言葉に口元をゆがめるかなめ。そのままくわえたタバコを箱に戻す。
「私のところにも結構流れてくるわよ。青銅騎士団ってシャムちゃんが団長していた時とはかなりメンバーが入れ替わっているわね。団長代理の御子神隆志中佐くらいじゃないの?生え抜きは」
工場の出口の守衛室を眺めているアイシャ。信号が変わり再び車列が動き出す。
「叔父貴と言う重石が取れた今。その一部が暴走することは十分考えられるわな。ようやく平和が訪れたとはいえ、30年近く戦争状態が続いた遼南だ。地方間の格差や宗教問題で、いつ火が入ってもおかしいことはねえな」
バックミラー越しに見えるかなめの口元は笑っていた。
「西園寺は相変わらず趣味が悪いな。まるで火がついて欲しいみたいな顔をしているぞ」
そう言うとカウラは中央分離帯のある国道に車を乗り入れる。
「ちょうど退屈していたところだ。多少スリルがあった方が人生楽しめるもんだぜ?」
「スリルで済めばね」
そう言うとアイシャは狭い後部座席で足を伸ばそうとした。
「テメエ!半分超えて足出すな!」
「ごめんなさい。私、足が長いから」
「そう言う足は切っとくか?」
「冗談よ!冗談!」
後部座席でどたばたとじゃれあう二人を見て、誠は宵闇に沈む豊川の街を見ていた。東都のベッドタウンである豊川。ここでの暮らしも一月を越えていた。職場のぶっ飛んだ面々だけでなく、寮の近くに広がる商店街にも知り合いが出来てそれなりに楽しく過ごしている。遼州人、地球人。元をたどればどちらかにつながるであろう街の人々の顔を思い出して、今日、彼を襲った傲慢な法術使いの言葉に許しがたい怒りの感情が生まれてきた。
誠は遼州人であるが、地球人との違いを感じたことなど無かった。先月の自分の法術の発現が大々的にすべてのメディアを席巻した事件から、目には見えないが二つの人類に溝が出来ていたのかもしれない。
そんなことを考えながら流れていく豊川の町の景色を眺めていた。
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