186 / 1,505
第15章 休日の終わりに
未確認敵勢力
しおりを挟む
「それがねえ……」
頭をかきながら隊長用の机の引き出しを漁る嵯峨。一つのファイルをそこから取り出した。
「遼南帝国、特務機関一覧」
カウラが古びたファイルの見出しを読み上げる。
「この字は隊長の字ですね。それにしてもずいぶん古いじゃないですか」
うっすらと金属粉末が積もっているファイルに目を向けながらアイシャがそう言った。
「まあな。俺が胡州帝国東和大使館付き二等武官だった時に作ったファイルだ」
誠も目の前にいるのが陸軍大学校を主席で卒業したエリート士官の顔もある男であることを思い出した。配属先が東和大使館だったと言うことは嵯峨が当時は軍上層部から目の敵にされていた西園寺家の身内だった為、中央から遠ざけられたと言う噂も耳にしていた。
「そんな昔の話聞くためにここに来たんじゃねえよ」
かなめはそう言うとくみ上げた拳銃をまた分解し始めた。
「まあそう焦るなって。俺が吉田の仕組んだクーデターで遼南の全権を掌握した時、当然そこにある特務機関の再編成をやろうとしたんだが……カウラ125ページを開いてみろや」
そう言われてファイルを取り上げたカウラが言われるままにファイルの125ページを開く。かなめ以外の面々がそのページを覗き込んだ。
「法術武装隊」
その項目の題名をカウラが読み上げた。
「俺や茜、誠の力をとりあえず『法術』と呼称している元ネタは遼南帝国の特殊部隊の名称から引っ張ってきてるんだ」
いかにもどうでもいいことというように嵯峨が吐き捨てるようにつぶやく。
「そんな力の名前がどうこうした話を聞きに来たわけじゃねえ」
かなめはさすがに勿体つけた嵯峨の態度に怒りを表して手にしていた拳銃を机に叩き付けた。
「じゃあ率直に言おうか?他の特殊部隊、秘密警察の類は関係者と接触を取ることができた。必要な部隊は再編成し、必要ない部隊は廃止した。だが、法術武装隊の構成員は一人として発見できながった」
「調べ方が甘かったんじゃねえの?」
嵯峨の言葉にすぐさまそう応えて挑戦的な笑みを浮かべるかなめ。隊長の椅子に深く座った嵯峨は大きく伸びをした。
「それだったらよかったんだけどねえ」
そう言うと今度は机の上に乱雑に置かれた書類の山から一冊のノートを取り出してかなめに投げた。
「日記?」
そう言うとアイシャがページをめくる。
「違うな。帳簿だろ?手書きってことはどこかの裏帳簿だな」
アイシャから古びたノートを奪ったかなめはぺらぺらとそのページをめくる。
「分かるわけないか。入金元、振込先。全部符号を使って書いてある。叔父貴、こいつはどこで手に入れた?」
嵯峨はノートの数字を眺めているかなめ達を見ながらタバコに火をつけた。
「近藤資金を手繰っていった先、東モスレム解放戦線の公然組織とだけ言っておくか」
東モスレム。その言葉を聴いてかなめの目が鋭く光るさまを誠は見ていた。遼南西部の西モスレムと昆西山脈を隔てた広大な乾燥地帯は東モスレムと呼ばれていた。イスラム教徒の多く住むその地域は西モスレムへの編入を求めるイスラム教徒と遼南の自治区になることを求める仏教徒と遼州古代精霊を信仰する人々との間での衝突が絶えない地域だった。
同盟設立後は西モスレム、遼南の両軍が軍を派遣し、表向きの平静は保たれていたが、過激な武力闘争路線を堅持している東モスレム解放戦線によるテロが週に一度は全遼州のテレビを占拠する仕組みになっていた。
「だったら早いじゃねえか。司法局公安機動隊長の安城秀美の姐さんにでも頼んで片っ端からメンバーしょっ引いて吐かせりゃ終わりだろ?」
そう言って笑うかなめを嵯峨は感情のない目で見つめていた。
「それが出来ればやってるよ。なんでこいつが俺の手元にあるかわかるか?」
物分りの悪い子供をなだめすかすように嵯峨は姪を見つめる。見つめられたかなめはこちらも明らかにいつでも目の前の叔父を殴りつけることができるのだと言うように拳を握り締めていた。
「もったいぶるなよ」
そう言うかなめの目の前で嵯峨は煙を吐く。タバコの煙が次第に部屋に充満し、アイシャが眉をひそめる。
「まあお前等が知らないのは当然だな。報道管制が十分に機能している証拠だ。4時間前、その組織は壊滅した」
「どういう事だ?じゃあ何でその帳簿が叔父貴の手元にあるんだ?」
机を叩きつけるかなめの右手。嵯峨の机の上の金属粉が一斉に舞い上がり、カウラと茜がそれを吸い込まないように口を手で押さえる。
「安城さん達の助っ人でね。東モスレム難民の東和における支援を名目に設立された法人が入っているビルに行ったわけだが、酷いもんだったよ。生存者なし。ああ言うのをブラッドバスって言うのかね。壁と言い床と言い人肉の破片が飛び散っちゃってまあ見れたもんじゃなかったよ」
かなめからノートを取り上げた茜がそれに目を通す。
「この帳簿の符牒の解読を吉田少佐に依頼するためにここに運ばれて来た訳ですね」
アイシャは自分が知りたかった情報はすべて理解したと言うようにうなづいている。かなめやカウラはただ眉をひそめて嵯峨を見つめる。誠は黙り込んで次の嵯峨の言葉を待った。
「まあ、こいつと誠に首っ丈の遼州解放をうたう遼州民族主義者達のつながりがあるかどうかは俺もわからん。だが、その手の組織が存在すると言うのは同盟首脳会議でも何度か話題には出てる。そいつらが資金目当てに近藤資金と接触することも十分に考えられる話だ。そして今、連中が動き出したと言う理由もわかる……消えた近藤資金の幾ばくかを手に入れて活動資金の潤沢なうちに敵対組織を叩いとこうというところなんだろ」
そう言うと嵯峨は口元まで火が入ったタバコを慌てて灰皿に押し付けた。
「そうなると一番に対抗して動き出すのは司法局実働部隊。つまり我々です。そしてその機先を制するべく動き出した」
カウラがそう言うと誠の顔を見た。
「そう考えれば帳尻が合う。気持ち悪いぐらいにな」
そう言うと嵯峨は椅子から立ち上がり周りを見渡す。かなめは追及を諦めたように黙り込んだ。
頭をかきながら隊長用の机の引き出しを漁る嵯峨。一つのファイルをそこから取り出した。
「遼南帝国、特務機関一覧」
カウラが古びたファイルの見出しを読み上げる。
「この字は隊長の字ですね。それにしてもずいぶん古いじゃないですか」
うっすらと金属粉末が積もっているファイルに目を向けながらアイシャがそう言った。
「まあな。俺が胡州帝国東和大使館付き二等武官だった時に作ったファイルだ」
誠も目の前にいるのが陸軍大学校を主席で卒業したエリート士官の顔もある男であることを思い出した。配属先が東和大使館だったと言うことは嵯峨が当時は軍上層部から目の敵にされていた西園寺家の身内だった為、中央から遠ざけられたと言う噂も耳にしていた。
「そんな昔の話聞くためにここに来たんじゃねえよ」
かなめはそう言うとくみ上げた拳銃をまた分解し始めた。
「まあそう焦るなって。俺が吉田の仕組んだクーデターで遼南の全権を掌握した時、当然そこにある特務機関の再編成をやろうとしたんだが……カウラ125ページを開いてみろや」
そう言われてファイルを取り上げたカウラが言われるままにファイルの125ページを開く。かなめ以外の面々がそのページを覗き込んだ。
「法術武装隊」
その項目の題名をカウラが読み上げた。
「俺や茜、誠の力をとりあえず『法術』と呼称している元ネタは遼南帝国の特殊部隊の名称から引っ張ってきてるんだ」
いかにもどうでもいいことというように嵯峨が吐き捨てるようにつぶやく。
「そんな力の名前がどうこうした話を聞きに来たわけじゃねえ」
かなめはさすがに勿体つけた嵯峨の態度に怒りを表して手にしていた拳銃を机に叩き付けた。
「じゃあ率直に言おうか?他の特殊部隊、秘密警察の類は関係者と接触を取ることができた。必要な部隊は再編成し、必要ない部隊は廃止した。だが、法術武装隊の構成員は一人として発見できながった」
「調べ方が甘かったんじゃねえの?」
嵯峨の言葉にすぐさまそう応えて挑戦的な笑みを浮かべるかなめ。隊長の椅子に深く座った嵯峨は大きく伸びをした。
「それだったらよかったんだけどねえ」
そう言うと今度は机の上に乱雑に置かれた書類の山から一冊のノートを取り出してかなめに投げた。
「日記?」
そう言うとアイシャがページをめくる。
「違うな。帳簿だろ?手書きってことはどこかの裏帳簿だな」
アイシャから古びたノートを奪ったかなめはぺらぺらとそのページをめくる。
「分かるわけないか。入金元、振込先。全部符号を使って書いてある。叔父貴、こいつはどこで手に入れた?」
嵯峨はノートの数字を眺めているかなめ達を見ながらタバコに火をつけた。
「近藤資金を手繰っていった先、東モスレム解放戦線の公然組織とだけ言っておくか」
東モスレム。その言葉を聴いてかなめの目が鋭く光るさまを誠は見ていた。遼南西部の西モスレムと昆西山脈を隔てた広大な乾燥地帯は東モスレムと呼ばれていた。イスラム教徒の多く住むその地域は西モスレムへの編入を求めるイスラム教徒と遼南の自治区になることを求める仏教徒と遼州古代精霊を信仰する人々との間での衝突が絶えない地域だった。
同盟設立後は西モスレム、遼南の両軍が軍を派遣し、表向きの平静は保たれていたが、過激な武力闘争路線を堅持している東モスレム解放戦線によるテロが週に一度は全遼州のテレビを占拠する仕組みになっていた。
「だったら早いじゃねえか。司法局公安機動隊長の安城秀美の姐さんにでも頼んで片っ端からメンバーしょっ引いて吐かせりゃ終わりだろ?」
そう言って笑うかなめを嵯峨は感情のない目で見つめていた。
「それが出来ればやってるよ。なんでこいつが俺の手元にあるかわかるか?」
物分りの悪い子供をなだめすかすように嵯峨は姪を見つめる。見つめられたかなめはこちらも明らかにいつでも目の前の叔父を殴りつけることができるのだと言うように拳を握り締めていた。
「もったいぶるなよ」
そう言うかなめの目の前で嵯峨は煙を吐く。タバコの煙が次第に部屋に充満し、アイシャが眉をひそめる。
「まあお前等が知らないのは当然だな。報道管制が十分に機能している証拠だ。4時間前、その組織は壊滅した」
「どういう事だ?じゃあ何でその帳簿が叔父貴の手元にあるんだ?」
机を叩きつけるかなめの右手。嵯峨の机の上の金属粉が一斉に舞い上がり、カウラと茜がそれを吸い込まないように口を手で押さえる。
「安城さん達の助っ人でね。東モスレム難民の東和における支援を名目に設立された法人が入っているビルに行ったわけだが、酷いもんだったよ。生存者なし。ああ言うのをブラッドバスって言うのかね。壁と言い床と言い人肉の破片が飛び散っちゃってまあ見れたもんじゃなかったよ」
かなめからノートを取り上げた茜がそれに目を通す。
「この帳簿の符牒の解読を吉田少佐に依頼するためにここに運ばれて来た訳ですね」
アイシャは自分が知りたかった情報はすべて理解したと言うようにうなづいている。かなめやカウラはただ眉をひそめて嵯峨を見つめる。誠は黙り込んで次の嵯峨の言葉を待った。
「まあ、こいつと誠に首っ丈の遼州解放をうたう遼州民族主義者達のつながりがあるかどうかは俺もわからん。だが、その手の組織が存在すると言うのは同盟首脳会議でも何度か話題には出てる。そいつらが資金目当てに近藤資金と接触することも十分に考えられる話だ。そして今、連中が動き出したと言う理由もわかる……消えた近藤資金の幾ばくかを手に入れて活動資金の潤沢なうちに敵対組織を叩いとこうというところなんだろ」
そう言うと嵯峨は口元まで火が入ったタバコを慌てて灰皿に押し付けた。
「そうなると一番に対抗して動き出すのは司法局実働部隊。つまり我々です。そしてその機先を制するべく動き出した」
カウラがそう言うと誠の顔を見た。
「そう考えれば帳尻が合う。気持ち悪いぐらいにな」
そう言うと嵯峨は椅子から立ち上がり周りを見渡す。かなめは追及を諦めたように黙り込んだ。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる