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第15章 休日の終わりに
特殊すぎる任務
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「おい!帰ってきたのか、君達」
奥の事務所に続く階段を下りてくるロナルド・スミス・Jr特務大尉、ジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉の姿があった。三人はアイシャとレベッカがじっと見詰め合っている様を見つけて思わず凍り付いていた。
「なんだありゃ?」
フェデロが思わずそうこぼした。
「同志が見つかったんじゃないですか?あのクラウゼ少佐のオタク趣味は有名ですよ。レベッカ・シンプソン中尉もコスプレとかするとかいうことで写真とか見せてもらいましたから」
岡部はそう言うとハンガーを見回した。誠も真似をしてみて昨日まで予備部品の仮組みなどをしていた場所に機体の固定器具が設置されていることに気づいた。
「ちゃんと俺達の機体の収納場所は確保できそうですね」
岡部の言葉にロナルドが大きく頷く。フェデロの目は相変わらず誠の派手な機体を見上げてニヤニヤと笑っていた。
「叔父貴に会ってたのか?」
かなめはロナルド達をにらみつけてそう言った。ロナルドは軽くうなずく。隣の岡部とフェデロは口を開きたくないと言うように周囲を眺めることに決めているように見えた。
「いやあ、僕もいろいろな上官と付き合ってきたが、あれは……」
金の縁のサングラスを外しながらロナルドはそう言った。誠でもその回答は予想できた。そしてそれでいてどうも腑に落ちないと言うロナルドの雰囲気もよく理解できるものだった。
「だろうな。ありゃあ軍人向きの性格じゃねえ。太鼓持ちかヤクザが適職だろ」
かなめはそう言うとポケットからタバコを取り出す。ロナルドは明らかにその煙が気に入らないと言うように一歩かなめから離れた。
「嵯峨惟基。世の中では優れた軍政家。そう評するのが常識になってはいますが、あくまで得意とするのは小規模での奇襲作戦と言う変わった人物。そのただの一撃で敵の大部隊の士気を一撃で砕いてしまうという」
そう呟いたロナルドにかなめは静かにうなづいて同意するような仕草をした。
「確かに主に奇襲作戦を本分とする司法機関特殊機動部隊の隊長として同盟上層部がここにあの人物を置いたのは正解かもしれませんがね」
岡部はロナルドに続けてそう言うとかなめを見つめた。それに目を反らせたかなめはタバコの煙を吐き出す。それを見て再びロナルドは煙を避けるように下がる。
「なるほど、的確な分析をしてるんだな、米軍は。一撃、ただそこに複雑な利害関係を絡めて敵を交渉のテーブルに着ける。それがあのおっさんの戦争だ」
かなめはそう言いながらタバコの煙の行く手をのんびりと眺めていた。
「そうすると我々がどういう任務に付くかも見えてきますね」
それまで奥の黒い四式、嵯峨の専用機を珍しそうに見つめていたフェデロが口を開いた。
「マルケス中尉さんですね。どう読まれます?」
軽く笑みを浮かべている茜がそうたずねた。物腰の柔らかく、それでいて凛としたところもある茜にそうたずねられて、頭をかきながらフェデロは言葉を続けた。
「遼州同盟は成立したが、ベルルカン大陸はその多くの国が参加の結論を出しちゃいない。地球の大国、ロシア、ドイツ、フランス、インド。各国は軍事顧問や援助の名目で部隊を派遣し、利権の対立により紛争が絶えず続いている有様だ。そして他の植民星への建前もあり、アメリカ軍は既存の基地の防衛任務の為と言う以上の規模の部隊を派遣することが出来ない……」
誠の機体を眺めていたアイシャとレベッカもこの言葉に耳を傾けていた。
「しかし、俺達が同盟司法機構として治安管理や選挙管理などの名目で出動することになれば話は変るな。俺達はあくまで同盟の看板を掲げている以上、隣国の安定化ということで現地入りするのはノービザだ。そしてその任務に我々が合衆国の国籍章を掲げて歩き回ればそれを攻撃することは『みんなの友達イーグルサム』を敵に回すことを宣言することに等しいわけだ」
誠も伊達に幹部候補生養成課程を出たわけではない。民間のカメラマンや医師団を拉致した武装勢力に対する彼等の出身地の地球の大国が強硬手段に出たことは少なくないことくらいは知っていた。そして数年前にもベルルカンで起きたイギリス人医療スタッフの拉致事件では遼州同盟の協力すら仰いでの大規模な捜索作戦が展開されたことも思い出していた。
「これは俺達は相当忙しい身になりそうだな」
ロナルドはかなめの吐く煙から逃げながらそう結論を出した。
「まったく面倒な任務だぜ……」
そう言ってフェデロは苦虫をかみつぶすような顔をした。
「おそらく第三小隊の結成まではきつい勤務体制になるでしょうね」
岡部の言葉にフェデロは天を仰いで両手で顔を覆う。思わずアイシャがそれを見て噴出す。
「そいつはご愁傷様だな。せいぜいお仕事がんばってくれや」
そう言うとかなめはハンガーの奥へと歩き出した。
「西園寺さん。どこに行かれるんですか?」
「決まってるだろ。今日の茜がアタシ等のところにちょうど良く飛んできたという茶番をどうやって用意したのか叔父貴に聞きにいく」
誠、茜、アイシャ、カウラ。そしてレベッカもその後に続いて事務所に入る階段を上り始めた。
奥の事務所に続く階段を下りてくるロナルド・スミス・Jr特務大尉、ジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉の姿があった。三人はアイシャとレベッカがじっと見詰め合っている様を見つけて思わず凍り付いていた。
「なんだありゃ?」
フェデロが思わずそうこぼした。
「同志が見つかったんじゃないですか?あのクラウゼ少佐のオタク趣味は有名ですよ。レベッカ・シンプソン中尉もコスプレとかするとかいうことで写真とか見せてもらいましたから」
岡部はそう言うとハンガーを見回した。誠も真似をしてみて昨日まで予備部品の仮組みなどをしていた場所に機体の固定器具が設置されていることに気づいた。
「ちゃんと俺達の機体の収納場所は確保できそうですね」
岡部の言葉にロナルドが大きく頷く。フェデロの目は相変わらず誠の派手な機体を見上げてニヤニヤと笑っていた。
「叔父貴に会ってたのか?」
かなめはロナルド達をにらみつけてそう言った。ロナルドは軽くうなずく。隣の岡部とフェデロは口を開きたくないと言うように周囲を眺めることに決めているように見えた。
「いやあ、僕もいろいろな上官と付き合ってきたが、あれは……」
金の縁のサングラスを外しながらロナルドはそう言った。誠でもその回答は予想できた。そしてそれでいてどうも腑に落ちないと言うロナルドの雰囲気もよく理解できるものだった。
「だろうな。ありゃあ軍人向きの性格じゃねえ。太鼓持ちかヤクザが適職だろ」
かなめはそう言うとポケットからタバコを取り出す。ロナルドは明らかにその煙が気に入らないと言うように一歩かなめから離れた。
「嵯峨惟基。世の中では優れた軍政家。そう評するのが常識になってはいますが、あくまで得意とするのは小規模での奇襲作戦と言う変わった人物。そのただの一撃で敵の大部隊の士気を一撃で砕いてしまうという」
そう呟いたロナルドにかなめは静かにうなづいて同意するような仕草をした。
「確かに主に奇襲作戦を本分とする司法機関特殊機動部隊の隊長として同盟上層部がここにあの人物を置いたのは正解かもしれませんがね」
岡部はロナルドに続けてそう言うとかなめを見つめた。それに目を反らせたかなめはタバコの煙を吐き出す。それを見て再びロナルドは煙を避けるように下がる。
「なるほど、的確な分析をしてるんだな、米軍は。一撃、ただそこに複雑な利害関係を絡めて敵を交渉のテーブルに着ける。それがあのおっさんの戦争だ」
かなめはそう言いながらタバコの煙の行く手をのんびりと眺めていた。
「そうすると我々がどういう任務に付くかも見えてきますね」
それまで奥の黒い四式、嵯峨の専用機を珍しそうに見つめていたフェデロが口を開いた。
「マルケス中尉さんですね。どう読まれます?」
軽く笑みを浮かべている茜がそうたずねた。物腰の柔らかく、それでいて凛としたところもある茜にそうたずねられて、頭をかきながらフェデロは言葉を続けた。
「遼州同盟は成立したが、ベルルカン大陸はその多くの国が参加の結論を出しちゃいない。地球の大国、ロシア、ドイツ、フランス、インド。各国は軍事顧問や援助の名目で部隊を派遣し、利権の対立により紛争が絶えず続いている有様だ。そして他の植民星への建前もあり、アメリカ軍は既存の基地の防衛任務の為と言う以上の規模の部隊を派遣することが出来ない……」
誠の機体を眺めていたアイシャとレベッカもこの言葉に耳を傾けていた。
「しかし、俺達が同盟司法機構として治安管理や選挙管理などの名目で出動することになれば話は変るな。俺達はあくまで同盟の看板を掲げている以上、隣国の安定化ということで現地入りするのはノービザだ。そしてその任務に我々が合衆国の国籍章を掲げて歩き回ればそれを攻撃することは『みんなの友達イーグルサム』を敵に回すことを宣言することに等しいわけだ」
誠も伊達に幹部候補生養成課程を出たわけではない。民間のカメラマンや医師団を拉致した武装勢力に対する彼等の出身地の地球の大国が強硬手段に出たことは少なくないことくらいは知っていた。そして数年前にもベルルカンで起きたイギリス人医療スタッフの拉致事件では遼州同盟の協力すら仰いでの大規模な捜索作戦が展開されたことも思い出していた。
「これは俺達は相当忙しい身になりそうだな」
ロナルドはかなめの吐く煙から逃げながらそう結論を出した。
「まったく面倒な任務だぜ……」
そう言ってフェデロは苦虫をかみつぶすような顔をした。
「おそらく第三小隊の結成まではきつい勤務体制になるでしょうね」
岡部の言葉にフェデロは天を仰いで両手で顔を覆う。思わずアイシャがそれを見て噴出す。
「そいつはご愁傷様だな。せいぜいお仕事がんばってくれや」
そう言うとかなめはハンガーの奥へと歩き出した。
「西園寺さん。どこに行かれるんですか?」
「決まってるだろ。今日の茜がアタシ等のところにちょうど良く飛んできたという茶番をどうやって用意したのか叔父貴に聞きにいく」
誠、茜、アイシャ、カウラ。そしてレベッカもその後に続いて事務所に入る階段を上り始めた。
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