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第12章 食後のひと時
水泳指導
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「あいつは放っておこう。行くぞ誠」
そういつもの通り淡々と言うと、カウラはレベッカと誠を連れて海に向かった。
「神前曹長は泳げないんですか?」
まるで不思議な生き物でも見るようなレベッカの瞳に見られて、誠は思わず目を逸らしてしまった。
「泳げないと言うわけじゃなくて……息つぎが出来ないだけ……」
「それを泳げないと言うんだ」
波打ち際で中腰になって波を体に浴びせながらカウラが言う。
「とりあえず浅瀬でバタ足から行くぞ」
レベッカに手を取られて誠はそのままカウラの導くまま海の中に入る。
「大丈夫ですか?急に深くなったりしてないですよね」
誠は水の中で次第に恐怖が広がっていくのを感じていた。
「安心しろ、これだけ人がいればおぼれていても誰かが見つけてくれる」
誠の前を浮き輪をつけた小学生の女の子が父親に引かれて泳いでいる。とりあえず腰より少し深いくらいのところまで来ると、カウラは向き直っ
た。その視線がレベッカに引っ張られている誠の左手に向いたとき、少しきつくなったのを感じて誠は思わず手を離す。
「それでは一度泳いでみろ」
「手を引いてくれるとか……」
「甘えるな!」
レベッカの胸と誠の顔を往復するカウラの視線。それを感じて仕方なく誠は水の中に頭から入った。
とりあえず海水に頭から入り、誠は足をばたばたさせる。次第にその体は浮力に打ち勝って体が沈み始める。息が苦しくなった誠はとりあえず立ち
上がった。起き上がった誠の前にあきれているカウラの顔があった。それは完全に呆れると言うところを通り過ぎて表情が死んでいた。
「そんな顔されても仕方が無いじゃないですか。人には向き不向きがあるわけで……」
「神前……君。もう少し体の力を抜いてとにかく浮くことからはじめましょう」
突然、心を決めたとでも言うように強い口調で話し始めたレベッカを見て誠達は驚いた。レベッカはこれまでとは別人のやる気に満ちた表情を浮か
べていた。
「そうだな、神前。とりあえず浮くだけでいい。やってみろ」
カウラはレベッカのあとをついで誠に指示する。
「浮くだけですか、バタ足とかは……」
「しなくて良い、浮くだけだ」
カウラのその言葉でとりあえず誠はまた海に入った。
動くなと言われても水に入ること自体を不自然に感じている誠の体に力が入る。力を抜けば浮くとは何度も言われてきたことだが、そう簡単に出来るものでもなく、次第に体が沈み始めたところで息が切れてまた立ち上がった。
「少し良くなりましたよ。それじゃあ私が手を引きますから今度は進んでみましょう」
レベッカが手を差し伸べてくる。これまでのシャイなレベッカを見慣れていたカウラはただ呆然と見つめていた。
「じゃあお願いします」
誠はただ流されるままにレベッカの手を握りまた水に入る。手で支えてもらっていると言うこともあり、力はそれほど入っていなかったようで、先ほどのように沈むことも無くそのまま息が続かなくなるまで水上を移動し続ける誠。
「良いじゃないですか、神前君。その息が切れたところで頭を水の上に出すんですよ」
「そうですか、本当に力が入るかどうかで浮くかどうかも決まるんですね」
これまで怯えたような、恥ずかしがるような顔しか見せなかったレベッカが笑っている。誠はつられて微笑んでいた。
「よう!楽しそうじゃねえか!」
背中の方でする声に誠は思わず顔が凍りついた。
「西園寺さん……」
振り返ると浮き輪を持ったかなめがこめかみを引きつらせて立っている。
「西園寺さん、神前君少しは浮くようになったんですよ」
レベッカのその言葉にさらにかなめの表情は曇る。
「ああ、オメエ等好きにしてな。アタシはどうせ泳げはしないんだから」
そう言うとかなめは浮き輪を誠に投げつけて浜辺へと向かった。
そういつもの通り淡々と言うと、カウラはレベッカと誠を連れて海に向かった。
「神前曹長は泳げないんですか?」
まるで不思議な生き物でも見るようなレベッカの瞳に見られて、誠は思わず目を逸らしてしまった。
「泳げないと言うわけじゃなくて……息つぎが出来ないだけ……」
「それを泳げないと言うんだ」
波打ち際で中腰になって波を体に浴びせながらカウラが言う。
「とりあえず浅瀬でバタ足から行くぞ」
レベッカに手を取られて誠はそのままカウラの導くまま海の中に入る。
「大丈夫ですか?急に深くなったりしてないですよね」
誠は水の中で次第に恐怖が広がっていくのを感じていた。
「安心しろ、これだけ人がいればおぼれていても誰かが見つけてくれる」
誠の前を浮き輪をつけた小学生の女の子が父親に引かれて泳いでいる。とりあえず腰より少し深いくらいのところまで来ると、カウラは向き直っ
た。その視線がレベッカに引っ張られている誠の左手に向いたとき、少しきつくなったのを感じて誠は思わず手を離す。
「それでは一度泳いでみろ」
「手を引いてくれるとか……」
「甘えるな!」
レベッカの胸と誠の顔を往復するカウラの視線。それを感じて仕方なく誠は水の中に頭から入った。
とりあえず海水に頭から入り、誠は足をばたばたさせる。次第にその体は浮力に打ち勝って体が沈み始める。息が苦しくなった誠はとりあえず立ち
上がった。起き上がった誠の前にあきれているカウラの顔があった。それは完全に呆れると言うところを通り過ぎて表情が死んでいた。
「そんな顔されても仕方が無いじゃないですか。人には向き不向きがあるわけで……」
「神前……君。もう少し体の力を抜いてとにかく浮くことからはじめましょう」
突然、心を決めたとでも言うように強い口調で話し始めたレベッカを見て誠達は驚いた。レベッカはこれまでとは別人のやる気に満ちた表情を浮か
べていた。
「そうだな、神前。とりあえず浮くだけでいい。やってみろ」
カウラはレベッカのあとをついで誠に指示する。
「浮くだけですか、バタ足とかは……」
「しなくて良い、浮くだけだ」
カウラのその言葉でとりあえず誠はまた海に入った。
動くなと言われても水に入ること自体を不自然に感じている誠の体に力が入る。力を抜けば浮くとは何度も言われてきたことだが、そう簡単に出来るものでもなく、次第に体が沈み始めたところで息が切れてまた立ち上がった。
「少し良くなりましたよ。それじゃあ私が手を引きますから今度は進んでみましょう」
レベッカが手を差し伸べてくる。これまでのシャイなレベッカを見慣れていたカウラはただ呆然と見つめていた。
「じゃあお願いします」
誠はただ流されるままにレベッカの手を握りまた水に入る。手で支えてもらっていると言うこともあり、力はそれほど入っていなかったようで、先ほどのように沈むことも無くそのまま息が続かなくなるまで水上を移動し続ける誠。
「良いじゃないですか、神前君。その息が切れたところで頭を水の上に出すんですよ」
「そうですか、本当に力が入るかどうかで浮くかどうかも決まるんですね」
これまで怯えたような、恥ずかしがるような顔しか見せなかったレベッカが笑っている。誠はつられて微笑んでいた。
「よう!楽しそうじゃねえか!」
背中の方でする声に誠は思わず顔が凍りついた。
「西園寺さん……」
振り返ると浮き輪を持ったかなめがこめかみを引きつらせて立っている。
「西園寺さん、神前君少しは浮くようになったんですよ」
レベッカのその言葉にさらにかなめの表情は曇る。
「ああ、オメエ等好きにしてな。アタシはどうせ泳げはしないんだから」
そう言うとかなめは浮き輪を誠に投げつけて浜辺へと向かった。
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