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第12章 食後のひと時
泳げない人々
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「やっぱりアタシのクルーザー回せばよかったかなあ」
「西園寺さん、船も持ってるんですか?」
そんな誠の言葉に、珍しく裏も無くうれしそうな顔でかなめが向き直る。
「まあな、それほどたいしたことはねえけどさ」
沖を行く釣り船を見ながら自信たっぷりにかなめが言った。
「かなめちゃん!神前君!」
リアナののんびりした声に誠は振り返る。
「どうしたんですお姉さん。それに……」
隣にはアイシャの姿がある。
「なに?アタシがいるとおかしいの?」
「そうだな、テメエがいるとろくなことにならねえ」
かなめがそう言うと急にアイシャがしなを作る。
「怖いわ!誠ちゃん。このゴリラ女が!」
そのままアイシャは誠に抱きついてくる。
「アイシャ、やっぱお前死ねよ」
逃げる誠に抱きつこうとするアイシャをかなめが片腕で払いのける。
「貴様等、本当に楽しそうだな」
付いてきたカウラの姿が見えた。その表情はかなめの態度に呆れたような感じに見える。
「そうねえ。仲良しさんなのね」
満足げに笑うのはリアナだが、アイシャは思い切り首を横に振った。
「カウラいたのか、それとお姉さん変に勘ぐらないでくださいよ」
かなめはいつの間にかやってきていたカウラとリアナに泣き付く。かなめは砂球を作るとアイシャに投げつけた。
「誠君、見て。かなめったらアタシの顔を砂に投げつけたりするのよ」
「なんだ?今度はシャムとは反対に頭だけ砂に埋もれてみるか?」
「仲良くしましょうよ、ね?お願いしますから」
誠が割って入った。さすがにこれ以上暴れられたらたまらない。そして周りを見ると他に誰も知った顔はいなかった。
「健一さんや島田先輩達はどうしたんですか?」
三人しかいない状況を不思議に思って誠はリアナに尋ねる。
「健ちゃんと島田君達はお片づけしてくれるって。それとシャムちゃんと春子さん、それに小夏ちゃんは岩場のほうで遊んでくるって言ってたわ」
「小夏め、やっぱりあいつは餓鬼だなあ」
かなめは鼻で笑う。
「かなめちゃん。中学生と張り合ってるってあなたも餓鬼なんじゃないの?」
砂で団子を作ろうとしながらアイシャが呟いた。
「んだと!」
かなめはアイシャを見上げて伸び上がる。いつでもこぶしを打ち込めるように力をこめた肩の動きが誠の目に入る。
「落ち着いてくださいよ、二人とも!」
誠の言葉でかなめとアイシャはお互い少し呼吸を整えるようにして両手を下げた。
「かなめちゃんは泳げないのは知ってるけど、神前君はどうなの?泳ぎは」
リアナが肩にかけていたタオルをパラソルの下の荷物の上に置きながら言った。誠の額に油の汗が浮かぶ。
「まあ……どうなんでしょうねえ……」
誠の顔が引きつる。アイシャ、カウラがその煮え切らない語尾に惹かれるようにして誠を見つめる。
「泳げないのね」
「情けない」
アイシャとカウラの言葉。二人がつぶやく言葉に、誠はがっくりと頭をたれる。
「気が合うじゃないか、誠。ピーマンが嫌いで泳げない。やっぱり時代はかなづちだな」
「自慢になることか?任務では海上からの侵攻という作戦が展開……」
説教を始めようとするカウラをリアナがなんとか押しとどめる。
「カウラちゃんそのくらいにして、じゃあみんなで教えてあげましょうよ」
リアナはいいことを思いついたとでも言うように手を叩いた。
「お姉さん。アタシはそもそも水に浮かないんだけど……」
「じゃあアイシャちゃんがかなめちゃんに教えてあげて、カウラちゃんと私で神前君を……」
「人の話聞いてくださいよ!」
涙目でかなめがリアナに話しかけるが、自分の世界に入り込んだリアナの聞くところでは無かった。
「あのー私はどうすれば?」
急に声がしたので驚いてかなめと誠は振り向いた。その視線の先には申し訳なさそうに立っているレベッカがいた。
「そうだ!レベッカさん、アメリカ海軍出身ってことは泳げるわよね?じゃあカウラちゃんとレベッカさんで誠ちゃんに教えてあげて、私とアイシャ
ちゃんでかなめちゃんに教えましょう」
「あのー、お姉さん。アタシは教えるとかそう言う問題じゃ無くって……」
まったく人の話を聞かないリアナに業を煮やして叫ぶかなめだが、声の大きさとリアナが人の話を聞くかは別の問題だった。
「かなめちゃん、いい物があるのよ」
そう言うとアイシャはシャムが残していった浮き輪をかなめにかぶせる。かなめの額から湯気でも出そうな雰囲気。誠はすぐにでも逃げ出したい衝
動に駆られていた。
「おい、アイシャ。やっぱ埋める!」
逃げ出すアイシャに立ち上がろうとしたかなめだが、砂に足を取られてそのまま顔面から砂浜に突っ込む。
「あら?砂にも潜っちゃうのかしら?」
「このアマ!」
アイシャを追ってかなめが走り出した。
「西園寺さん、船も持ってるんですか?」
そんな誠の言葉に、珍しく裏も無くうれしそうな顔でかなめが向き直る。
「まあな、それほどたいしたことはねえけどさ」
沖を行く釣り船を見ながら自信たっぷりにかなめが言った。
「かなめちゃん!神前君!」
リアナののんびりした声に誠は振り返る。
「どうしたんですお姉さん。それに……」
隣にはアイシャの姿がある。
「なに?アタシがいるとおかしいの?」
「そうだな、テメエがいるとろくなことにならねえ」
かなめがそう言うと急にアイシャがしなを作る。
「怖いわ!誠ちゃん。このゴリラ女が!」
そのままアイシャは誠に抱きついてくる。
「アイシャ、やっぱお前死ねよ」
逃げる誠に抱きつこうとするアイシャをかなめが片腕で払いのける。
「貴様等、本当に楽しそうだな」
付いてきたカウラの姿が見えた。その表情はかなめの態度に呆れたような感じに見える。
「そうねえ。仲良しさんなのね」
満足げに笑うのはリアナだが、アイシャは思い切り首を横に振った。
「カウラいたのか、それとお姉さん変に勘ぐらないでくださいよ」
かなめはいつの間にかやってきていたカウラとリアナに泣き付く。かなめは砂球を作るとアイシャに投げつけた。
「誠君、見て。かなめったらアタシの顔を砂に投げつけたりするのよ」
「なんだ?今度はシャムとは反対に頭だけ砂に埋もれてみるか?」
「仲良くしましょうよ、ね?お願いしますから」
誠が割って入った。さすがにこれ以上暴れられたらたまらない。そして周りを見ると他に誰も知った顔はいなかった。
「健一さんや島田先輩達はどうしたんですか?」
三人しかいない状況を不思議に思って誠はリアナに尋ねる。
「健ちゃんと島田君達はお片づけしてくれるって。それとシャムちゃんと春子さん、それに小夏ちゃんは岩場のほうで遊んでくるって言ってたわ」
「小夏め、やっぱりあいつは餓鬼だなあ」
かなめは鼻で笑う。
「かなめちゃん。中学生と張り合ってるってあなたも餓鬼なんじゃないの?」
砂で団子を作ろうとしながらアイシャが呟いた。
「んだと!」
かなめはアイシャを見上げて伸び上がる。いつでもこぶしを打ち込めるように力をこめた肩の動きが誠の目に入る。
「落ち着いてくださいよ、二人とも!」
誠の言葉でかなめとアイシャはお互い少し呼吸を整えるようにして両手を下げた。
「かなめちゃんは泳げないのは知ってるけど、神前君はどうなの?泳ぎは」
リアナが肩にかけていたタオルをパラソルの下の荷物の上に置きながら言った。誠の額に油の汗が浮かぶ。
「まあ……どうなんでしょうねえ……」
誠の顔が引きつる。アイシャ、カウラがその煮え切らない語尾に惹かれるようにして誠を見つめる。
「泳げないのね」
「情けない」
アイシャとカウラの言葉。二人がつぶやく言葉に、誠はがっくりと頭をたれる。
「気が合うじゃないか、誠。ピーマンが嫌いで泳げない。やっぱり時代はかなづちだな」
「自慢になることか?任務では海上からの侵攻という作戦が展開……」
説教を始めようとするカウラをリアナがなんとか押しとどめる。
「カウラちゃんそのくらいにして、じゃあみんなで教えてあげましょうよ」
リアナはいいことを思いついたとでも言うように手を叩いた。
「お姉さん。アタシはそもそも水に浮かないんだけど……」
「じゃあアイシャちゃんがかなめちゃんに教えてあげて、カウラちゃんと私で神前君を……」
「人の話聞いてくださいよ!」
涙目でかなめがリアナに話しかけるが、自分の世界に入り込んだリアナの聞くところでは無かった。
「あのー私はどうすれば?」
急に声がしたので驚いてかなめと誠は振り向いた。その視線の先には申し訳なさそうに立っているレベッカがいた。
「そうだ!レベッカさん、アメリカ海軍出身ってことは泳げるわよね?じゃあカウラちゃんとレベッカさんで誠ちゃんに教えてあげて、私とアイシャ
ちゃんでかなめちゃんに教えましょう」
「あのー、お姉さん。アタシは教えるとかそう言う問題じゃ無くって……」
まったく人の話を聞かないリアナに業を煮やして叫ぶかなめだが、声の大きさとリアナが人の話を聞くかは別の問題だった。
「かなめちゃん、いい物があるのよ」
そう言うとアイシャはシャムが残していった浮き輪をかなめにかぶせる。かなめの額から湯気でも出そうな雰囲気。誠はすぐにでも逃げ出したい衝
動に駆られていた。
「おい、アイシャ。やっぱ埋める!」
逃げ出すアイシャに立ち上がろうとしたかなめだが、砂に足を取られてそのまま顔面から砂浜に突っ込む。
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