レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
173 / 1,503
第12章 食後のひと時

泳げない人々

しおりを挟む
「やっぱりアタシのクルーザー回せばよかったかなあ」 

「西園寺さん、船も持ってるんですか?」 

 そんな誠の言葉に、珍しく裏も無くうれしそうな顔でかなめが向き直る。

「まあな、それほどたいしたことはねえけどさ」 

 沖を行く釣り船を見ながら自信たっぷりにかなめが言った。

「かなめちゃん!神前君!」 

 リアナののんびりした声に誠は振り返る。

「どうしたんですお姉さん。それに……」

 隣にはアイシャの姿がある。 

「なに?アタシがいるとおかしいの?」 

「そうだな、テメエがいるとろくなことにならねえ」

 かなめがそう言うと急にアイシャがしなを作る。 

「怖いわ!誠ちゃん。このゴリラ女が!」 

 そのままアイシャは誠に抱きついてくる。

「アイシャ、やっぱお前死ねよ」 

 逃げる誠に抱きつこうとするアイシャをかなめが片腕で払いのける。 

「貴様等、本当に楽しそうだな」 

 付いてきたカウラの姿が見えた。その表情はかなめの態度に呆れたような感じに見える。

「そうねえ。仲良しさんなのね」

 満足げに笑うのはリアナだが、アイシャは思い切り首を横に振った。 

「カウラいたのか、それとお姉さん変に勘ぐらないでくださいよ」 

 かなめはいつの間にかやってきていたカウラとリアナに泣き付く。かなめは砂球を作るとアイシャに投げつけた。

「誠君、見て。かなめったらアタシの顔を砂に投げつけたりするのよ」 

「なんだ?今度はシャムとは反対に頭だけ砂に埋もれてみるか?」 

「仲良くしましょうよ、ね?お願いしますから」 

 誠が割って入った。さすがにこれ以上暴れられたらたまらない。そして周りを見ると他に誰も知った顔はいなかった。

「健一さんや島田先輩達はどうしたんですか?」

 三人しかいない状況を不思議に思って誠はリアナに尋ねる。 

「健ちゃんと島田君達はお片づけしてくれるって。それとシャムちゃんと春子さん、それに小夏ちゃんは岩場のほうで遊んでくるって言ってたわ」 

「小夏め、やっぱりあいつは餓鬼だなあ」 

 かなめは鼻で笑う。

「かなめちゃん。中学生と張り合ってるってあなたも餓鬼なんじゃないの?」 

 砂で団子を作ろうとしながらアイシャが呟いた。

「んだと!」 

 かなめはアイシャを見上げて伸び上がる。いつでもこぶしを打ち込めるように力をこめた肩の動きが誠の目に入る。

「落ち着いてくださいよ、二人とも!」 

 誠の言葉でかなめとアイシャはお互い少し呼吸を整えるようにして両手を下げた。

「かなめちゃんは泳げないのは知ってるけど、神前君はどうなの?泳ぎは」 

 リアナが肩にかけていたタオルをパラソルの下の荷物の上に置きながら言った。誠の額に油の汗が浮かぶ。

「まあ……どうなんでしょうねえ……」 

 誠の顔が引きつる。アイシャ、カウラがその煮え切らない語尾に惹かれるようにして誠を見つめる。

「泳げないのね」 

「情けない」 

 アイシャとカウラの言葉。二人がつぶやく言葉に、誠はがっくりと頭をたれる。

「気が合うじゃないか、誠。ピーマンが嫌いで泳げない。やっぱり時代はかなづちだな」 

「自慢になることか?任務では海上からの侵攻という作戦が展開……」

 説教を始めようとするカウラをリアナがなんとか押しとどめる。 

「カウラちゃんそのくらいにして、じゃあみんなで教えてあげましょうよ」 

 リアナはいいことを思いついたとでも言うように手を叩いた。 

「お姉さん。アタシはそもそも水に浮かないんだけど……」 

「じゃあアイシャちゃんがかなめちゃんに教えてあげて、カウラちゃんと私で神前君を……」 

「人の話聞いてくださいよ!」 

 涙目でかなめがリアナに話しかけるが、自分の世界に入り込んだリアナの聞くところでは無かった。

「あのー私はどうすれば?」 

 急に声がしたので驚いてかなめと誠は振り向いた。その視線の先には申し訳なさそうに立っているレベッカがいた。

「そうだ!レベッカさん、アメリカ海軍出身ってことは泳げるわよね?じゃあカウラちゃんとレベッカさんで誠ちゃんに教えてあげて、私とアイシャ
ちゃんでかなめちゃんに教えましょう」 

「あのー、お姉さん。アタシは教えるとかそう言う問題じゃ無くって……」

 まったく人の話を聞かないリアナに業を煮やして叫ぶかなめだが、声の大きさとリアナが人の話を聞くかは別の問題だった。 

「かなめちゃん、いい物があるのよ」 

 そう言うとアイシャはシャムが残していった浮き輪をかなめにかぶせる。かなめの額から湯気でも出そうな雰囲気。誠はすぐにでも逃げ出したい衝
動に駆られていた。

「おい、アイシャ。やっぱ埋める!」 

 逃げ出すアイシャに立ち上がろうとしたかなめだが、砂に足を取られてそのまま顔面から砂浜に突っ込む。

「あら?砂にも潜っちゃうのかしら?」 

「このアマ!」 

 アイシャを追ってかなめが走り出した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...