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第11章 バーベキュー
何事もなかったように
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「菰田君達も集まったことだし、お昼の準備みんなでしましょうね!」
砂浜でひっくり返ってる菰田達が、アイシャのその言葉でゆっくりと起き上がる。
「じゃあ荷物番は神前と西園寺で」
そう言うとカウラは後ろ髪を惹かれるようにまなざしを投げてくるアイシャをつれて、バーベキュー場に向かう。
「それにしても、今更」
「神前、アイシャも言ってたろ?こりゃあうちの出番じゃねえよ。それにこれで終わりとは思えないしな。その時までお偉いさんには自分が逮捕されても混乱が生じないように後進の指導にでも集中してもらおうや」
そう言うとかなめは再びタバコに火をつけた。
「平和だねえ」
先ほどまでの同じ司法局特務考案公安部隊の動きを察知して会議のようなものをしていたアイシャ達は、もうすでに食事の準備の仕上げのために立ち去っていた。かなめは半身を起こしタバコをくわえながら、海水浴客の群がる海辺を眺めていた。その向こう側では島田達がようやく遊び疲れたのか波打ち際に座って談笑している。
「こう言うのんびりした時間もたまにはいいですね」
誠もその様子を見ながら砂浜に腰掛けて呆然と海を眺めていた。
「アタシはさあ。どうもこういう状況にはいい思い出は無いんだ」
ささやくように海風に髪をなびかせながらかなめはそう言った。
「嫌いなんですか?静かなのは」
覗き込むようにサングラスをかけたかなめを誠は見つめる。だがそこには穏やかな笑顔が浮かんでいるだけだった。
「嫌いなわけ無いだろ?だけど、アタシの家ってのは……昨日の夕食でも見てわかるだろ?他人と会うときは格式ばって仮面をかぶらなきゃ気がすまねえ。今日だってホテルの支配人の奴、アタシのためだけにプライベートビーチを全部貸しきるとかぬかしやがる」
かなめは口元をゆがめて携帯灰皿に吸殻を押し付ける。
「そんな暮らしにあこがれる人がいるのも事実ですし」
「まあな。だけど、それが当たり前じゃないことはアタシの体が良く分かってるんだ」
そう言うとかなめは左腕を眺めた。人工皮膚の継ぎ目がはっきりと誠にも見える。テロで体の九割以上を生体部品に交換することを迫られた三歳の少女。その複雑な胸中を思うと誠の胸は締め付けられる。
「それは、かなめさんのせいじゃないんでしょ」
誠はそう声をかける。その声にかなめは誠の方を一瞥したあと、天を仰いだ。
「オメエ、アホだけどいい奴だな」
まるで感情がこもっていない。こういう時のかなめの典型的な抑揚の無い言葉。誠はいつものようにわざとむきになったように語気を荒げる。
「アホはいりません」
誠のその言葉を聴くと、かなめは微笑みながら誠の方を見てサングラスを下ろした。
「よく見ると、うぶな割には男前だな、オメエ」
「は?」
その反応はいつもとはまるで違った。誠は正直状況がつかめずにいた。前回の出動の時の言葉は要するに釣り橋効果だ、そんなことは分かっていた。かなめの励ましが力になったのは事実だし、それが励まし以上の意味を持たないことも分かっていた。
しかし、今こうしてかなめに見つめられるのは、どこと無く恥ずかしい。女性にこんな目で見られるのは高校三年の卒業式で、二年生のマネージャーに学ランの第二ボタンを渡したとき以来だ。ちなみにその少女からその後、連絡が来たことは無かったが。
「まあいいか、こうして平和な空を見上げてるとなんかどうでもよくなって来るねえ」
その言葉に、誠はそんな昔のマネージャーを思い出して苦笑した。
砂浜でひっくり返ってる菰田達が、アイシャのその言葉でゆっくりと起き上がる。
「じゃあ荷物番は神前と西園寺で」
そう言うとカウラは後ろ髪を惹かれるようにまなざしを投げてくるアイシャをつれて、バーベキュー場に向かう。
「それにしても、今更」
「神前、アイシャも言ってたろ?こりゃあうちの出番じゃねえよ。それにこれで終わりとは思えないしな。その時までお偉いさんには自分が逮捕されても混乱が生じないように後進の指導にでも集中してもらおうや」
そう言うとかなめは再びタバコに火をつけた。
「平和だねえ」
先ほどまでの同じ司法局特務考案公安部隊の動きを察知して会議のようなものをしていたアイシャ達は、もうすでに食事の準備の仕上げのために立ち去っていた。かなめは半身を起こしタバコをくわえながら、海水浴客の群がる海辺を眺めていた。その向こう側では島田達がようやく遊び疲れたのか波打ち際に座って談笑している。
「こう言うのんびりした時間もたまにはいいですね」
誠もその様子を見ながら砂浜に腰掛けて呆然と海を眺めていた。
「アタシはさあ。どうもこういう状況にはいい思い出は無いんだ」
ささやくように海風に髪をなびかせながらかなめはそう言った。
「嫌いなんですか?静かなのは」
覗き込むようにサングラスをかけたかなめを誠は見つめる。だがそこには穏やかな笑顔が浮かんでいるだけだった。
「嫌いなわけ無いだろ?だけど、アタシの家ってのは……昨日の夕食でも見てわかるだろ?他人と会うときは格式ばって仮面をかぶらなきゃ気がすまねえ。今日だってホテルの支配人の奴、アタシのためだけにプライベートビーチを全部貸しきるとかぬかしやがる」
かなめは口元をゆがめて携帯灰皿に吸殻を押し付ける。
「そんな暮らしにあこがれる人がいるのも事実ですし」
「まあな。だけど、それが当たり前じゃないことはアタシの体が良く分かってるんだ」
そう言うとかなめは左腕を眺めた。人工皮膚の継ぎ目がはっきりと誠にも見える。テロで体の九割以上を生体部品に交換することを迫られた三歳の少女。その複雑な胸中を思うと誠の胸は締め付けられる。
「それは、かなめさんのせいじゃないんでしょ」
誠はそう声をかける。その声にかなめは誠の方を一瞥したあと、天を仰いだ。
「オメエ、アホだけどいい奴だな」
まるで感情がこもっていない。こういう時のかなめの典型的な抑揚の無い言葉。誠はいつものようにわざとむきになったように語気を荒げる。
「アホはいりません」
誠のその言葉を聴くと、かなめは微笑みながら誠の方を見てサングラスを下ろした。
「よく見ると、うぶな割には男前だな、オメエ」
「は?」
その反応はいつもとはまるで違った。誠は正直状況がつかめずにいた。前回の出動の時の言葉は要するに釣り橋効果だ、そんなことは分かっていた。かなめの励ましが力になったのは事実だし、それが励まし以上の意味を持たないことも分かっていた。
しかし、今こうしてかなめに見つめられるのは、どこと無く恥ずかしい。女性にこんな目で見られるのは高校三年の卒業式で、二年生のマネージャーに学ランの第二ボタンを渡したとき以来だ。ちなみにその少女からその後、連絡が来たことは無かったが。
「まあいいか、こうして平和な空を見上げてるとなんかどうでもよくなって来るねえ」
その言葉に、誠はそんな昔のマネージャーを思い出して苦笑した。
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