レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
161 / 1,535
第10章 いざ海へ

明るいニューフェイス

しおりを挟む
「これは奇遇ですね」 

 誠が廊下の先を見ると、そこに立っていたのはアメリカ海軍の夏服を着たロナルド、岡部、そして初めて見るみる浅黒い肌の将校と、長いブロンドの髪をなびかせている眼鏡の女性の将校だった。

「こいつか?昨日、神前が見たって言う……」 

 失礼なのをわかっていてかなめがロナルド達を指差す。

「そう言うことなら話は早い。西園寺中尉、お初にお目にかかります。私は……」 

 ロナルドの言葉にかなめのタレ目がすぐに殺気を帯びる。その迫力に思わずロナルドは口を噤んでしまった。

「おい!誰が中尉だ!アタシは大尉だ!」 

 戸惑っているロナルドだが、かなめは急に襟首に伸ばそうとした右手を止めて静かにロナルドを見つめた。いつもならすぐに殴るか蹴るか関節を極めに行く彼女が不意に手を止めたことが誠には少しばかり不自然に見えた。ロナルドは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。

「失礼、では西園寺大尉とお呼びするべきなんですね。そして第二小隊隊長、カウラ・ベルガー大尉。運用艦『高雄』副長アイシャ・クラウゼ少佐。私が……」 

「オメエ、パイロット上がりじゃねえな」 

 ロナルドの言葉をさえぎって、不敵な笑いを浮かべながらかなめがそう言った。

「なぜそう思うんです?」 

 まるでその言葉を予想していたように、ロナルドも頬の辺りに笑みを湛えている。誠にはかなめの言葉の意味がわからなかった。岡部と隣の軽そうな雰囲気の髭の将校とロナルドの雰囲気の違いなど誠にはわからなかった。だが得意げにかなめは話を続ける。

「なに、匂いだよ。カウラやうちのチビ隊長みたいに正規任務だけをこなしてきた人間にゃあつかない匂いだ。海軍ってことは『シールチーム』か?」 

 一呼吸置こう、そう考えているとでも言う様に、ロナルドは呼吸を置いて話し始めた。『シールチーム』アメリカ海軍の特殊部隊。誠も話は聞いていた。敵深くに軽装備で潜入して調査、探索、誘導などを主任務とする部隊の隊員として知られている。それぐらいの知識は誠にもあった。だがロナルドは相変わらず社交辞令のような笑みを絶やそうとはしない。

「それについては否定も肯定もしませんよ。規則上私の口からは言えないのでね。なんなら吉田少佐にでも調べてもらったらどうですか?彼のテクニックならペンタゴンのホストマシンに介入するくらいの芸当は出来るでしょうから」 

 特殊部隊上がりによく見られる態度だ。誠は以前部隊に配属された初日に警備部部長のマリア・シュバーキナに感じた違和感を思い出してようやくロナルドに感じて納得がいった。

「まあ、その口ぶりではっきり分かったわ。どことは言わんが非正規戦部隊出身の特務大尉殿か」 

「旦那!俺等のわかるように話してくださいよ!」 

 ラテン系と思われる髭を生やした中背の中尉がロナルドの脇をつつく。そして岡部の脇からチョコチョコと眼鏡をかけたブロンドの女性将校が誠を見ている。誠が微笑みかけると、逃げるように岡部の後ろに隠れた。そこで岡部が一歩足を踏み出して誠達を見回す。

「自分が……」 

「俺がフェデロ・マルケス海軍中尉。合衆国海軍強襲戦術集団出身で……」 

 岡部を押しのけて自己紹介を開始したフェデロだが、しらけた雰囲気に言葉を飲み込んだ。

「フェデロ。もう少し余裕を持て。それと彼がジョージ・岡部中尉だ。このフェデロとは強襲戦術集団のパイロット時代からの同期だ」 

 ロナルドがそう言うと静かに歩み出た岡部がかなめに向かって握手を求める。

「ジョージでいいです。まあ、このうるさいのとは強襲戦術集団の頃からの腐れ縁で……」 

「腐れ縁ってなんだよ!いつもお前の無茶に付き合わされてた俺の身にもなってみろ」 

 小柄なフェデロはそう言うと岡部の手を引っ張る。

「それならお前が馬鹿やった席の尻拭いをさせられた回数を教えてもらいたいものだね」 

 にらみ合う二人。

「あのー」 

 そう言って話しかけてきた眼鏡の女性将校を見て、かなめの動きが止まった。

「でけえな」 

 かなめは一言そう言った。確かにそれは海軍の制服を着ていても分かるくらいの大きさの胸だった。隊のかなめとマリアは大きい方だが、メガネの将校の胸は何かと邪魔になるだろうと心配してしまうような大きさだった。かなめはそれを確認すると、緑のキャミソールを着ているカウラの胸に視線を持っていった。

「平たいな」 

「おい、西園寺。何が言いたいんだ?」 

 カウラはさすがにすぐに気がついてこぶしを固めてかなめをにらみ付ける。

「カウラさん落ち着いて!」 

 誠が思わず二人の間に入る。眼鏡の女性将校はおびえてしまい、また岡部の後ろに下がろうとする。

「シンプソン中尉。そんなに怯えなくてもいいですよ」 

 ロナルドのその言葉で落ち着いたシンプソンと呼ばれた女性将校がおずおずと前に出た。

「私がレベッカ・シンプソン技術中尉です。よろしくお願いします」 

 レベッカは消え入るような声でそう言うと頭を下げる。かなめ、カウラ、アイシャの視線が彼女の胸に集中する。

「そんな……見られると……私……」 

 レベッカはそう言ってまたロナルド達の後ろに隠れた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...