レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
150 / 1,505
第7章 ハイソな暮らし

かなめ達の誘い

しおりを挟む
 その時急にドアが開き、キムがそのドアにしたたか頭を打ち付けた。

「何してんの?」 

 頭を抱えて座り込むキムを見下ろしている紺色の髪の女性が誠の視界に入った。入ってきたのはアイシャだった。しばらくして顔を上げるとキムは恨みがましい目で彼女を見上げる。

「あっ、ジュン君ごめんね。痛かったでしょう」 

 アイシャが謝るが、軽く手を上げたキムはそのまま廊下に消えていった。

「一人で退屈でしょ。うちの部屋来ない?」 

「はあ……」 

 誠はなぜ自分が独りになると言うことを知っているのか不思議に思いながら生返事をする。満足げにアイシャはそれを見つめる。

「誰の部屋だと思ってんだ? ちゃんと持ち主の許可をとれってんだよ!」 

 怒鳴り込んできたのはかなめだった。そしてそのまま窓辺に立っている誠の目の前まで来るとしばらく黙り込む。

「あの……西園寺さん?」 

 誠の言葉を聞いてようやくかなめは何かの決意をしたように誠を見上げてきた。

「その……なんだ。ボルドーの2302年ものがあるんだ。一人で飲むのはつまらねえからな。良いんだぜ、別に酒はもう勘弁って思ってるんだったらアタシが全部飲むから」 

 かなめをちらちら見ながらアイシャが揉み手をしながら近づいてくる。

「いいワインは独り占めするわけ?ひどいじゃないの!」 

 アイシャがかなめに噛み付く。開かれたドアの外ではカウラが困ったような表情で二人を見つめている。

「わかりました、今行きますよ」 

 そう言って誠は窓に背を向ける。そして満足そうに頷いているアイシャに手を握られた。

「何やってんだ?オメエは」 

 タレ目なので威圧してもあまり迫力が無いが、かなめの機嫌を損ねると大変だと誠は慌てて手を離す。カウラにも見つめられて廊下に出た誠は沈黙が怖くなり思わず口を開いた。

「ワインですか。なんか……」 

「アタシの柄じゃねえのはわかってるよ」 

 頭を掻きながらかなめが見つめてくるので、笑みを作った誠はそのまま彼女について広い廊下の中央を進んだ。

 やわらかい乳白色の大理石で覆われた廊下を歩く。時折開いた大きな窓からは海に突き出した別館が見える。かなめは先頭に立って歩いている。

「本当にすごいですね」 

 窓の外に広がる眺望に誠は息を呑んだ。広がる海。波の白い線、突き出した岬の上の松の枝ぶり。

「アタシは嫌いだね、こんな風景。成金趣味が鼻につくぜ」 

 先頭を歩くかなめは吐き捨てるようにそう言った。こう言うとっておきの風景を見慣れすぎたこの人にはつまらなく見えるのだろうと誠は思った。

 胡州四大公筆頭西園寺家の次期当主。擦り寄ってくる人間の数は万を超えたものになるだろう。擦り寄ってくる相手にどう自分を演じて状況から逃れるのか。それはとても扱いに困るじゃじゃ馬を演じること。かなめはそう結論付けたのかもしれないと誠は考えていた。

 そんなことを考えている誠を気にするわけでもなく廊下を突き当たったところにある凝った彫刻で飾られた大きな扉にかなめが手をかざした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...