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第五章 出発
出発の時
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「それにしても今回は少ないよな、参加者。技術部は島田のアホとキム、ソン、西、吉川、金子、遠藤。警備部はヤコブ、イワノフ、ボルクマン。管理部は菰田、服部、立川。それと家村親子にお姉さんと旦那か」
かなめはアイシャの冊子を誠に押し付けると男性陣を指折り数えた。
「暇そうな連中だな」
それを聞いたカウラもそう続ける。そこでかなめはサングラスを下げて、下から見上げるようにカウラに近づく。何事かと構えるカウラの正面に満面の笑みのかなめがいた。
「菰田、ソン、ヤコブが来るのはお前目当てなんだろ?ちゃんと絞めて行けよ」
『ヒンヌー教徒』三人の名前を聞いてカウラの表情が曇る。
「つまらない事は言わない方がいいぞ。口は災いの元だからな」
カウラはその話をしたくは無いと言うようにあっさり答えた。
「神前!荷物積むの手伝え!」
とても実働部隊の備品とは思えない量のパーティーグッズを荷物置き場に押し込んでいる島田が叫んだ。
「じゃあな、アタシ等乗ってるから」
そう言うと島田に見入られて身動き取れない誠を置いてかなめとカウラはバスに乗り込む。
「スイカはここに入れると割れるんじゃないですか?」
誠はパーラから島田が受け取ろうとしているスイカを見てそう言った。
「じゃあシャムちゃんに見つからないように隠しておくわね」
パーラはそう言うとそのままボストンバッグを誠に渡してバスに乗り込む。
「パラソルは折れるかな?」
「大丈夫なんじゃないですか?奥のほうに突っ込んでおけば」
誠と島田はバスに乗り込んでいく面々から荷物を受け取りつつ、それを床面の下の荷物置き場に突っ込む。
「正人!アイス買ってきたけど食べる?」
荷物置き場が一杯になった時、備品の自転車に乗って買出しに行っていたサラが二本のアイスキャンディーを島田達に手渡す。彼は受け取った二本のキャンディーを誠に見せた。
「悪いね。神前、どっち食う?」
「じゃあ小豆の方で」
いつの間にかかいた汗を拭いながら三人で一息つく。
「なるほどねえ。この前、姐御からM10の仕様書渡されて、どっからこんな最新機の情報手に入れたか聞こうと思ったんだが、ウチで動かすのか。整備のシフト考え直さないとまずいよなあ」
ソーダ味のアイスキャンディーを口にしながら島田がつぶやく。
「しかし、M10なら採用国は同盟加盟国でも何カ国かあるから大丈夫なんじゃないですか?運用の問題点とかのノウハウなら吉田さんに頼めば調べてくれるでしょうし」
誠の小豆のアイスバーは周りに氷が張り付いてしばらく味がしなかった。失敗したかなと思いながら、誠は小豆色のバーを口にねじ込む。
「別に吉田さんに頼まんでも俺も聞いてるよ、M10の運用の注意点くらい。海兵隊が採用しなかったのは初めて導入したアメリカ海軍での評判があまり芳しくなかったからだって話だぞ。関節部の駆動部品のメンテが面倒でね。交換に一癖あって正直俺もどうかなあって思ってたんだよ。まあA4にバージョンアップしてその部分はかなり改善されたって言う話だけど、コスト無視の05式は別格として主要国に採用されているアサルト・モジュールじゃあ相当なじゃじゃ馬だそうな。まあ実物を拝まないことには判断はつかないけどな」
そう言うと島田は解けて手にかかろうとするアイスに手を焼いてそのままがぶりと先から食いついた。
「そうなんですか……」
誠は島田の話を聞きながら伸びをする。その視線にバスの中で手招きしているかなめの姿を見つけた。
「島田の旦那ー!」
窓を開けようとする島田を待っていた誠に向けて叫ぶ声が聞こえて振り向いた。オリーブ色のTシャツにジーンズの小夏、桜色の日傘を手にする紫の和服の春子がハンガーから出てバスに向かってきていた。
「俺も旦那に昇格か」
窓を開けると島田は照れるように笑う。整備班員の統率を買われていた島田は技術部部長の明華の推薦で准尉に昇進していた。そんな島田が笑顔でバスに駆け寄って来た小夏を迎える。
「師匠はもう中ですか?」
そう言うと小夏はバスの先頭を指差す。誠は周りを見回すが、自分と島田以外は全員バスに乗っていることに気づいて苦笑いを浮かべた。
「そうみたいだな。それにしてもお前も少しは女らしくしろよ」
いつ見ても男の子のように見えるショートヘアーに化粧らしきものすら見えない小夏を島田はからかってみせる。
「それはグリファン少尉みたいにしろってことですか?」
小夏が思い切りにやけた笑みで島田を見つめる。彼女であるサラとのことを弄られて島田はムッとして小夏を睨み付けた。
「下らないこと言ってないでとっとと乗れ!」
柄にもなく照れている島田と笑顔の春子が誠の目に入る。誠はそれを暖かく見守るとそのまま。春子のかばんと小夏のリュックを荷物置き場に押し込んでロックをかける。
「じゃあ全員そろったわけだ。行くか?」
誠は島田の言葉で春子を連れてバスの前を回ってバスに乗り込む。
「神前!こことって有るからな!」
バスの窓からかなめが身を乗り出している。誠はしかたなくそのままバスに乗り込むとかなめの座る奥の方の座席へと歩き出した。
「ここだ。座れ」
ジャッキーカルパスを咥えながら、もう既にウィスキーの小瓶を手にして飲み始めているかなめの隣に席を占める。通路を隔てて隣は不機嫌そうにかなめをにらみつけるアイシャがいる。そして窓際に二人の動向を静かに見守るカウラが座っている。
「オメエも喰うか?」
燻製を差し出すかなめにしかたなく誠は受け取った。
「行くのは永峰海岸ですか。随分ありますよね、ここからだと」
運用艦『高雄』の停泊先が東に150kmの新港。それに対して永峰は南の戸蔵半島の付け根のリゾート地である。渋滞とかのことを計算に入れれば今から出ても着くのは夕方になる。
「いいじゃない。着いたら温泉が待ってるのよ」
アイシャがそこでニヤリと笑う。大体彼女が笑うときは何かあるので誠は冷や汗が流れるのを感じていた。
「まさか混浴じゃないですよね?」
誠は何となくそう言ってみた。それに答えるつもりはまるで無いというようにアイシャはじっと笑顔を保ち続ける。
「まあなんだ。アタシの顔が利くところだからな」
このかなめの一言で混浴の浴場があることは誠にも想像ができた。
「何かたくらんでますね、西園寺さん」
誠は恐る恐るかなめを見る。いかにもたくらんでいますというようにかなめは満面の笑みを浮かべていた。
「いや……なんだろうねえ……着いてからのお楽しみってところか?」
かなめが見慣れた下卑た笑みを浮かべた。次の瞬間、バスはゆっくりと走り出した。
かなめはアイシャの冊子を誠に押し付けると男性陣を指折り数えた。
「暇そうな連中だな」
それを聞いたカウラもそう続ける。そこでかなめはサングラスを下げて、下から見上げるようにカウラに近づく。何事かと構えるカウラの正面に満面の笑みのかなめがいた。
「菰田、ソン、ヤコブが来るのはお前目当てなんだろ?ちゃんと絞めて行けよ」
『ヒンヌー教徒』三人の名前を聞いてカウラの表情が曇る。
「つまらない事は言わない方がいいぞ。口は災いの元だからな」
カウラはその話をしたくは無いと言うようにあっさり答えた。
「神前!荷物積むの手伝え!」
とても実働部隊の備品とは思えない量のパーティーグッズを荷物置き場に押し込んでいる島田が叫んだ。
「じゃあな、アタシ等乗ってるから」
そう言うと島田に見入られて身動き取れない誠を置いてかなめとカウラはバスに乗り込む。
「スイカはここに入れると割れるんじゃないですか?」
誠はパーラから島田が受け取ろうとしているスイカを見てそう言った。
「じゃあシャムちゃんに見つからないように隠しておくわね」
パーラはそう言うとそのままボストンバッグを誠に渡してバスに乗り込む。
「パラソルは折れるかな?」
「大丈夫なんじゃないですか?奥のほうに突っ込んでおけば」
誠と島田はバスに乗り込んでいく面々から荷物を受け取りつつ、それを床面の下の荷物置き場に突っ込む。
「正人!アイス買ってきたけど食べる?」
荷物置き場が一杯になった時、備品の自転車に乗って買出しに行っていたサラが二本のアイスキャンディーを島田達に手渡す。彼は受け取った二本のキャンディーを誠に見せた。
「悪いね。神前、どっち食う?」
「じゃあ小豆の方で」
いつの間にかかいた汗を拭いながら三人で一息つく。
「なるほどねえ。この前、姐御からM10の仕様書渡されて、どっからこんな最新機の情報手に入れたか聞こうと思ったんだが、ウチで動かすのか。整備のシフト考え直さないとまずいよなあ」
ソーダ味のアイスキャンディーを口にしながら島田がつぶやく。
「しかし、M10なら採用国は同盟加盟国でも何カ国かあるから大丈夫なんじゃないですか?運用の問題点とかのノウハウなら吉田さんに頼めば調べてくれるでしょうし」
誠の小豆のアイスバーは周りに氷が張り付いてしばらく味がしなかった。失敗したかなと思いながら、誠は小豆色のバーを口にねじ込む。
「別に吉田さんに頼まんでも俺も聞いてるよ、M10の運用の注意点くらい。海兵隊が採用しなかったのは初めて導入したアメリカ海軍での評判があまり芳しくなかったからだって話だぞ。関節部の駆動部品のメンテが面倒でね。交換に一癖あって正直俺もどうかなあって思ってたんだよ。まあA4にバージョンアップしてその部分はかなり改善されたって言う話だけど、コスト無視の05式は別格として主要国に採用されているアサルト・モジュールじゃあ相当なじゃじゃ馬だそうな。まあ実物を拝まないことには判断はつかないけどな」
そう言うと島田は解けて手にかかろうとするアイスに手を焼いてそのままがぶりと先から食いついた。
「そうなんですか……」
誠は島田の話を聞きながら伸びをする。その視線にバスの中で手招きしているかなめの姿を見つけた。
「島田の旦那ー!」
窓を開けようとする島田を待っていた誠に向けて叫ぶ声が聞こえて振り向いた。オリーブ色のTシャツにジーンズの小夏、桜色の日傘を手にする紫の和服の春子がハンガーから出てバスに向かってきていた。
「俺も旦那に昇格か」
窓を開けると島田は照れるように笑う。整備班員の統率を買われていた島田は技術部部長の明華の推薦で准尉に昇進していた。そんな島田が笑顔でバスに駆け寄って来た小夏を迎える。
「師匠はもう中ですか?」
そう言うと小夏はバスの先頭を指差す。誠は周りを見回すが、自分と島田以外は全員バスに乗っていることに気づいて苦笑いを浮かべた。
「そうみたいだな。それにしてもお前も少しは女らしくしろよ」
いつ見ても男の子のように見えるショートヘアーに化粧らしきものすら見えない小夏を島田はからかってみせる。
「それはグリファン少尉みたいにしろってことですか?」
小夏が思い切りにやけた笑みで島田を見つめる。彼女であるサラとのことを弄られて島田はムッとして小夏を睨み付けた。
「下らないこと言ってないでとっとと乗れ!」
柄にもなく照れている島田と笑顔の春子が誠の目に入る。誠はそれを暖かく見守るとそのまま。春子のかばんと小夏のリュックを荷物置き場に押し込んでロックをかける。
「じゃあ全員そろったわけだ。行くか?」
誠は島田の言葉で春子を連れてバスの前を回ってバスに乗り込む。
「神前!こことって有るからな!」
バスの窓からかなめが身を乗り出している。誠はしかたなくそのままバスに乗り込むとかなめの座る奥の方の座席へと歩き出した。
「ここだ。座れ」
ジャッキーカルパスを咥えながら、もう既にウィスキーの小瓶を手にして飲み始めているかなめの隣に席を占める。通路を隔てて隣は不機嫌そうにかなめをにらみつけるアイシャがいる。そして窓際に二人の動向を静かに見守るカウラが座っている。
「オメエも喰うか?」
燻製を差し出すかなめにしかたなく誠は受け取った。
「行くのは永峰海岸ですか。随分ありますよね、ここからだと」
運用艦『高雄』の停泊先が東に150kmの新港。それに対して永峰は南の戸蔵半島の付け根のリゾート地である。渋滞とかのことを計算に入れれば今から出ても着くのは夕方になる。
「いいじゃない。着いたら温泉が待ってるのよ」
アイシャがそこでニヤリと笑う。大体彼女が笑うときは何かあるので誠は冷や汗が流れるのを感じていた。
「まさか混浴じゃないですよね?」
誠は何となくそう言ってみた。それに答えるつもりはまるで無いというようにアイシャはじっと笑顔を保ち続ける。
「まあなんだ。アタシの顔が利くところだからな」
このかなめの一言で混浴の浴場があることは誠にも想像ができた。
「何かたくらんでますね、西園寺さん」
誠は恐る恐るかなめを見る。いかにもたくらんでいますというようにかなめは満面の笑みを浮かべていた。
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