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第二章 ショッピング?
嵐の前の静けさ
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「マルヨに行くの?だったらアニクラの割引券使えるね!」
豊川一の百貨店マルヨの隣、雑居ビルのアニメ専門店『アニメクラブ』の割引券をズボンのポケットから取り出してシャムが笑っている。
「あのなあ、アタシ等は水着買いに行くんだからな。お前とアイシャで勝手に行け」
いつものようにきつい言葉だがかなめは笑いながらそう言った。
「ひどいなあ、かなめちゃん」
どこと無く不思議そうな顔をしながらシャムは薄ら笑いを浮かべる。
どこかかなめの様子がおかしい。車内の全員が気づいていた。
ちょうど道は渋滞していた。いつもならかなめのいかに豊川市の都市計画が間違っているかと言う演説が始まるには十分な時間だけこの車は動いていない。それなのにかなめは特に何をするというわけでもなくじっと座って赤く染まる街を見つめている。
どうやら初めて男性に水着を選んでもらえるのがうれしいようだと言うことはわかった。そうはわかっていても、今日のかなめはどこかおかしいかった。
「あのさあ、かなめちゃん。なにか悪いものでも食べたの?」
アイシャが恐る恐るたずねる。気分屋のかなめである。下手に刺激をしたくないところだった。
「何言ってんだよ。今日は出前の冷やし中華食べただけだよ」
「そうなんだ……」
普段ならどうでもいいことでも噛み付いてくるかなめが大人しい。
「パーラ、そこの脇道右折だ。そうすればマルヨの駐車場まで一直線だぞ」
かなめの不気味な上機嫌ぶりを気にしながらパーラは彼女の言うままにロータリーに向かう道から抜けて裏道に入った。
なかなか落ちない真夏の太陽が輝いている。その最後の一仕事とでも言うように水平に近い角度の西日が車内を熱する。さすがに顔にあたる強い日差しにうんざりする車内の人々。
「パーラ。クーラー強くしないのか?」
人工皮膚で日焼けの心配の無いかなめがにやけながら運転席のパーラにけしかける。
「西園寺。給料日は来週だぞ」
思わず微笑みの止まらないかなめにカウラは探りを入れてみる。
「何でそんな事言うんだ?」
カウラの顔をかなめはまじまじと見つめる。間に居る誠は非常に居づらい雰囲気を感じて、前の席に座る人々に目で助けを求める。だが彼らも誠と考えることは同じ。誰一人振り向く者はいなかった。
「宝くじでも当たったの?」
ようやく気を利かせるべくアイシャが声をかける。どこかいつもと違い語尾が裏返っているのが誠の笑いを誘いそうになった。
「何でそんな事聞くんだ?」
かなめは本当に不思議そうにたずねる。少なくともいいことがあったというわけでは無い。全員がそう判断するものの、同時にこの不可思議なかなめの機嫌の良さが余計不気味に感じられた。
「おう、そこの月極駐車場を突っ切って行くと早いぞ」
「いいの?そんな事して」
さすがに運転に集中していたパーラはいつもの調子で後ろを振り返る。
「パーラが止まっている車にぶつけなきゃ大丈夫だよ。出たら右折だ。気をつけろよ、そこの道は駅に向かう裏道だから。ぶっ飛ばしてくる単車引っ掛けたら免停だぞ」
相変わらずかなめの上機嫌は続いている。不思議なことがあるものだと運転席のパーラはもう一度振り向いてしまう。
「それはご親切にどうも」
スイスイとかなめの指示する道を行く。ここまでかなめを観察して分かった事は、自分が上機嫌である事自体、本人は気づいていないという事だった。
マルヨの立体駐車場に入る頃には、不安は恐怖に変わっていた。人は理解できないことに出会うと拒絶するか恐怖すると言うが、拒絶したら張り倒されそうなかなめの雰囲気に周りは支配されていた。ただ沈黙だけが車内に続く。
「今日は木曜日か。空いてるのはいいことだ。そこの外車が出るみたいだぜ」
黒いドイツ車が出ようとしているのをかなめは素早く見つける。誠が右側に視線を移すと、不思議そうな顔をしたカウラの姿がある。
「アタシが降りて指示を出そうか?」
かなめはそう言うとシートベルトを外し始めた。突然のことに誠も唖然として降りようとするかなめに目が行ってしまう。
「いいわよ。私の運転を舐めてもらっちゃあ困るわね!」
パーラが断ったのは運転への自信からではなかった。それは普段は絶対にありえないかなめの台詞に驚いたからだった。パーラは高級車が出口へ向かうのを見届けるとすかさずハンドルを切り、後ろからゆっくりと車を駐車する。
「お疲れさん。じゃあ行くぞ」
すぐにドアを開きかなめは降り立つ。誠もカウラも、島田もサラも、シャムやパーラも理由の分からない上機嫌なかなめを見守っていた。ただアイシャはちらちらとかなめを見つめながら何か別のことを考えている。誠は普段のアイシャのことを思い出してそう確信した。
度胸の据わり具合ならかなめと同類と隊長の嵯峨からも言われているアイシャである。彼女がかなめの機嫌の良さを利用して何か企んでいるのは明らかだった。
「サラ。四階でいいのか?」
かなめが先頭を切って歩く。エスカレータの前で突然かなめに振り向かれたサラと島田が困ったような表情をした後、おずおずと頷いた。
「それじゃあ行くぞ」
何か腹にあるアイシャ以外は、この奇妙なかなめの態度を読みかねていた。その光景があまりにシュールなのか、買い物客達は一目見ると係わり合いになりたくないと言うように通路の両端に避けてしまう。
エスカレータでかなめの下に付いた島田とサラが、助けを求めるように後ろに続くパーラを見る。パーラはピンク色の髪をかきあげながら後ろに続くシャムを見て、シャムも猫耳をなでながら困ったような顔で並んで立っているカウラと誠を見つめる。
『嵐の前の静けさ』
皆が恐れていたのはそんな状況だった。瞬間核融合炉のあだ名を持ち、気分屋で超の付く短気で知られるかなめである。ふとしたきっかけで一気に
爆発する事だけは避けたい。その思いは一つだった。
ドアが開くが軍服を着た痩せ型の女性士官とやけに機嫌のいいサイボーグ。そしてなぜか猫耳をつけている関係のよくわからない少女と普通は見ない髪の色の女性の集団。エレベータを待っていた親子連れが止まったエレベータをやり過ごしたのは明らかにその集団と一緒に扉を通るのを避けたと
言うように見えた。
一方でかなめは鼻歌交じりにドアを閉じ、階に付けば早速開くボタンを押して皆が降りるまでサービスまでする。
「着いたな。お前らマルヨのカード持ってきたか?」
財布からカードを取り出しながらかなめがそう言った。女性陣が一斉にそれを取り出した。
「アタシ持ってないよ!」
シャムが胸を張って答える。ここでいつも通りかなめはシャムの頭をはたくこともせず、無視してそのまま島田とサラに目を向ける。
「おいサラ案内しろ」
サラは引きつった笑いを浮かべながら歩き始めた。並んでいる島田が頻繁に後ろを歩くかなめのことを気にして振り向く。まるで銃でも突きつけられているようだ。誠はそう思いながらそんなことを口にすればどうなるのかを想像していた。
「マルヨのカードって……」
沈黙に耐えられずに誠はつぶやいた。確かにカウラが東和軍の夏服と同じ企画の保安隊の勤務服を着ているのが目立つのは確かなのはわかった。でもそれ以上にこれだけの集団が黙って歩いていると言う状況の奇妙さが原因だと誠も気づいていた。
「まあお前もシャムと同類だったな。ここのカード作るときにサイズとかを登録してくれるんだ。おかげで合う商品がすぐ選べるし、画像で試着の代わりまで出来るんだ。便利だろ?」
得意げにかなめはそう答える。口元には笑みまで浮かんでいる。
「そうなんですか」
かなめの言葉に感心しながら誠は先頭を歩く彼女い付いていく。すこし後ろを振り向けば、涼しい顔をしているアイシャがいた。
『何か起きるぞ』
誠だけでなくかなめとアイシャ以外の全員がそう思っていた。
豊川一の百貨店マルヨの隣、雑居ビルのアニメ専門店『アニメクラブ』の割引券をズボンのポケットから取り出してシャムが笑っている。
「あのなあ、アタシ等は水着買いに行くんだからな。お前とアイシャで勝手に行け」
いつものようにきつい言葉だがかなめは笑いながらそう言った。
「ひどいなあ、かなめちゃん」
どこと無く不思議そうな顔をしながらシャムは薄ら笑いを浮かべる。
どこかかなめの様子がおかしい。車内の全員が気づいていた。
ちょうど道は渋滞していた。いつもならかなめのいかに豊川市の都市計画が間違っているかと言う演説が始まるには十分な時間だけこの車は動いていない。それなのにかなめは特に何をするというわけでもなくじっと座って赤く染まる街を見つめている。
どうやら初めて男性に水着を選んでもらえるのがうれしいようだと言うことはわかった。そうはわかっていても、今日のかなめはどこかおかしいかった。
「あのさあ、かなめちゃん。なにか悪いものでも食べたの?」
アイシャが恐る恐るたずねる。気分屋のかなめである。下手に刺激をしたくないところだった。
「何言ってんだよ。今日は出前の冷やし中華食べただけだよ」
「そうなんだ……」
普段ならどうでもいいことでも噛み付いてくるかなめが大人しい。
「パーラ、そこの脇道右折だ。そうすればマルヨの駐車場まで一直線だぞ」
かなめの不気味な上機嫌ぶりを気にしながらパーラは彼女の言うままにロータリーに向かう道から抜けて裏道に入った。
なかなか落ちない真夏の太陽が輝いている。その最後の一仕事とでも言うように水平に近い角度の西日が車内を熱する。さすがに顔にあたる強い日差しにうんざりする車内の人々。
「パーラ。クーラー強くしないのか?」
人工皮膚で日焼けの心配の無いかなめがにやけながら運転席のパーラにけしかける。
「西園寺。給料日は来週だぞ」
思わず微笑みの止まらないかなめにカウラは探りを入れてみる。
「何でそんな事言うんだ?」
カウラの顔をかなめはまじまじと見つめる。間に居る誠は非常に居づらい雰囲気を感じて、前の席に座る人々に目で助けを求める。だが彼らも誠と考えることは同じ。誰一人振り向く者はいなかった。
「宝くじでも当たったの?」
ようやく気を利かせるべくアイシャが声をかける。どこかいつもと違い語尾が裏返っているのが誠の笑いを誘いそうになった。
「何でそんな事聞くんだ?」
かなめは本当に不思議そうにたずねる。少なくともいいことがあったというわけでは無い。全員がそう判断するものの、同時にこの不可思議なかなめの機嫌の良さが余計不気味に感じられた。
「おう、そこの月極駐車場を突っ切って行くと早いぞ」
「いいの?そんな事して」
さすがに運転に集中していたパーラはいつもの調子で後ろを振り返る。
「パーラが止まっている車にぶつけなきゃ大丈夫だよ。出たら右折だ。気をつけろよ、そこの道は駅に向かう裏道だから。ぶっ飛ばしてくる単車引っ掛けたら免停だぞ」
相変わらずかなめの上機嫌は続いている。不思議なことがあるものだと運転席のパーラはもう一度振り向いてしまう。
「それはご親切にどうも」
スイスイとかなめの指示する道を行く。ここまでかなめを観察して分かった事は、自分が上機嫌である事自体、本人は気づいていないという事だった。
マルヨの立体駐車場に入る頃には、不安は恐怖に変わっていた。人は理解できないことに出会うと拒絶するか恐怖すると言うが、拒絶したら張り倒されそうなかなめの雰囲気に周りは支配されていた。ただ沈黙だけが車内に続く。
「今日は木曜日か。空いてるのはいいことだ。そこの外車が出るみたいだぜ」
黒いドイツ車が出ようとしているのをかなめは素早く見つける。誠が右側に視線を移すと、不思議そうな顔をしたカウラの姿がある。
「アタシが降りて指示を出そうか?」
かなめはそう言うとシートベルトを外し始めた。突然のことに誠も唖然として降りようとするかなめに目が行ってしまう。
「いいわよ。私の運転を舐めてもらっちゃあ困るわね!」
パーラが断ったのは運転への自信からではなかった。それは普段は絶対にありえないかなめの台詞に驚いたからだった。パーラは高級車が出口へ向かうのを見届けるとすかさずハンドルを切り、後ろからゆっくりと車を駐車する。
「お疲れさん。じゃあ行くぞ」
すぐにドアを開きかなめは降り立つ。誠もカウラも、島田もサラも、シャムやパーラも理由の分からない上機嫌なかなめを見守っていた。ただアイシャはちらちらとかなめを見つめながら何か別のことを考えている。誠は普段のアイシャのことを思い出してそう確信した。
度胸の据わり具合ならかなめと同類と隊長の嵯峨からも言われているアイシャである。彼女がかなめの機嫌の良さを利用して何か企んでいるのは明らかだった。
「サラ。四階でいいのか?」
かなめが先頭を切って歩く。エスカレータの前で突然かなめに振り向かれたサラと島田が困ったような表情をした後、おずおずと頷いた。
「それじゃあ行くぞ」
何か腹にあるアイシャ以外は、この奇妙なかなめの態度を読みかねていた。その光景があまりにシュールなのか、買い物客達は一目見ると係わり合いになりたくないと言うように通路の両端に避けてしまう。
エスカレータでかなめの下に付いた島田とサラが、助けを求めるように後ろに続くパーラを見る。パーラはピンク色の髪をかきあげながら後ろに続くシャムを見て、シャムも猫耳をなでながら困ったような顔で並んで立っているカウラと誠を見つめる。
『嵐の前の静けさ』
皆が恐れていたのはそんな状況だった。瞬間核融合炉のあだ名を持ち、気分屋で超の付く短気で知られるかなめである。ふとしたきっかけで一気に
爆発する事だけは避けたい。その思いは一つだった。
ドアが開くが軍服を着た痩せ型の女性士官とやけに機嫌のいいサイボーグ。そしてなぜか猫耳をつけている関係のよくわからない少女と普通は見ない髪の色の女性の集団。エレベータを待っていた親子連れが止まったエレベータをやり過ごしたのは明らかにその集団と一緒に扉を通るのを避けたと
言うように見えた。
一方でかなめは鼻歌交じりにドアを閉じ、階に付けば早速開くボタンを押して皆が降りるまでサービスまでする。
「着いたな。お前らマルヨのカード持ってきたか?」
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「アタシ持ってないよ!」
シャムが胸を張って答える。ここでいつも通りかなめはシャムの頭をはたくこともせず、無視してそのまま島田とサラに目を向ける。
「おいサラ案内しろ」
サラは引きつった笑いを浮かべながら歩き始めた。並んでいる島田が頻繁に後ろを歩くかなめのことを気にして振り向く。まるで銃でも突きつけられているようだ。誠はそう思いながらそんなことを口にすればどうなるのかを想像していた。
「マルヨのカードって……」
沈黙に耐えられずに誠はつぶやいた。確かにカウラが東和軍の夏服と同じ企画の保安隊の勤務服を着ているのが目立つのは確かなのはわかった。でもそれ以上にこれだけの集団が黙って歩いていると言う状況の奇妙さが原因だと誠も気づいていた。
「まあお前もシャムと同類だったな。ここのカード作るときにサイズとかを登録してくれるんだ。おかげで合う商品がすぐ選べるし、画像で試着の代わりまで出来るんだ。便利だろ?」
得意げにかなめはそう答える。口元には笑みまで浮かんでいる。
「そうなんですか」
かなめの言葉に感心しながら誠は先頭を歩く彼女い付いていく。すこし後ろを振り向けば、涼しい顔をしているアイシャがいた。
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