131 / 1,503
第一章 艦長
嵯峨の用事
しおりを挟む
「じゃあ私も行こう」
かなめの挑発的な視線を胸に何度も喰らっていたカウラが立ち上がった。
「おい、洗濯板に何つける気だ?シャムとお揃いのスク水でも着てる方が似合ってるぞ」
豊かな胸を見せ付けてかなめは笑い飛ばす。その挑発に乗ってやるとばかりにカウラは睨み返す。大きくため息をつくと誠はカウラとかなめの間に立った。
「分かりましたから、喧嘩は止めてくださいよ」
どうせ何を言ってもかなめとカウラとアイシャである。誠の意見が通るわけも無い。だがとっとと収拾しろと言うような目で吉田ににらまれ続けるのに耐えるほど誠の神経は太くは無かった。そしてなんとなく場が落ち着いてきたところで思いついた疑問を一番聞きやすいリアナに聞いてみることにした。
「こんなに一斉に休んで大丈夫なんですか?」
白銀の髪と赤い目。普通に生まれた人間とは区別をつけるために遺伝子を操作された存在だと言うのに穏やかな人間らしい表情で、後輩達のやり取りをほほえましく感じて見守っている。そんなリアナが誠に目を向けた。
「知ってるでしょ?『近藤事件』での独断専行が同盟会議で問題になってるのよ。まあ結果として東都ルートと呼ばれる武器と麻薬の密輸ルートを潰す事ができて、なおかつ胡州の同盟支持政権が安定したのは良かったんだけど……。やっぱり隊長流の強引な手口が問題になったわけ。まあいつものことなんだけどねえ」
「そうだったんですか」
誠が簡単に納得したのをかなめが睨みつける。
「どっかの馬鹿が法術使って大暴れしたせいなんだがなあ!」
「助けられた人間の言う台詞じゃないな」
カウラの一言にまたもやかなめとカウラのにらみ合いが始まる。リアナは見守ってはいるが止める様子は無い。
「喧嘩はいけないの!」
シャムの甲高い叫びがむなしく響いた。
「クバルカと吉田はいるかー」
間の抜けた声の男。とろんとした寝不足のような目が誠の視界に入ってくる。司法局実働部隊隊長である嵯峨惟基(さがこれもと)特務大佐が入り口に突っ立っていた。
「俺等をセットで呼ぶなんて珍しいですね」
吉田はようやくこの部屋から解放されるきっかけが出来たと喜んで立ち上がる。ランもようやくこの堂々巡りから解放されることにホッとした表情を浮かべて立ち上がった。
「まあな。用事はそれぞれあるし……まず吉田は同盟司法局の稟議決裁システムのチェックの依頼が来てるぞ」
嵯峨の言葉に吉田の表情が不機嫌なものに変わった。嵯峨もそうなると予想していたようで頭を掻きながら手を目の前にかざして誤るようなポーズをした。
「あれかよ。使えないシステム作りやがったから俺が自力で要件定義からやり直したんすよ!今度は何を直すっていうんですか!まあ局長クラスからの指示でしょ?分かりました。じゃあ……」
吉田がアイシャを見つめる。珍しい吉田の真剣な表情に誠は噴出すのを抑えながら吉田を見守る。
「俺は絶対行かないからな!」
そう言うと早足で入り口で立ち尽くしている嵯峨を残して吉田が消えた。
「クバルカは俺の用事だ。ちょっと顔貸してくれねえかな。同盟司法局の本部で面接試験だとさ」
重要なことをあっけらかんと言う嵯峨らしいその態度に一同は顔を見合わせる。
「面接……ですか?」
ランは豆鉄砲を食らったようにつぶやく。
「ああ、増設予定の実働部隊の隊員候補を選ばにゃならんだろ?元々部隊活動規模は四個小隊を基本に据えてあるんだから」
ランの顔を見て困ったような表情で嵯峨がそう言った。そしてようやく上司の意図がわかったのか、ランの表情が明るくなる。反応がわかりやすいランに誠はまた噴出しそうになってこらえるのに必死だった。
「ようやく同盟も重い腰あげたわけですか」
ランはうれしそうに立ち上がる。その視線はカウラに向けられた。
「大丈夫ですよこの場はなんとか収めますから」
「そうか」
カウラのしっかりした声にランが大きくうなづく。そんな二人を不満そうに見つめているかなめに誠は思わずうつむいてしまう。
「そんじゃあ海、楽しんできてよ」
嵯峨は軽く手を振りながらランをつれて出て行った。
かなめの挑発的な視線を胸に何度も喰らっていたカウラが立ち上がった。
「おい、洗濯板に何つける気だ?シャムとお揃いのスク水でも着てる方が似合ってるぞ」
豊かな胸を見せ付けてかなめは笑い飛ばす。その挑発に乗ってやるとばかりにカウラは睨み返す。大きくため息をつくと誠はカウラとかなめの間に立った。
「分かりましたから、喧嘩は止めてくださいよ」
どうせ何を言ってもかなめとカウラとアイシャである。誠の意見が通るわけも無い。だがとっとと収拾しろと言うような目で吉田ににらまれ続けるのに耐えるほど誠の神経は太くは無かった。そしてなんとなく場が落ち着いてきたところで思いついた疑問を一番聞きやすいリアナに聞いてみることにした。
「こんなに一斉に休んで大丈夫なんですか?」
白銀の髪と赤い目。普通に生まれた人間とは区別をつけるために遺伝子を操作された存在だと言うのに穏やかな人間らしい表情で、後輩達のやり取りをほほえましく感じて見守っている。そんなリアナが誠に目を向けた。
「知ってるでしょ?『近藤事件』での独断専行が同盟会議で問題になってるのよ。まあ結果として東都ルートと呼ばれる武器と麻薬の密輸ルートを潰す事ができて、なおかつ胡州の同盟支持政権が安定したのは良かったんだけど……。やっぱり隊長流の強引な手口が問題になったわけ。まあいつものことなんだけどねえ」
「そうだったんですか」
誠が簡単に納得したのをかなめが睨みつける。
「どっかの馬鹿が法術使って大暴れしたせいなんだがなあ!」
「助けられた人間の言う台詞じゃないな」
カウラの一言にまたもやかなめとカウラのにらみ合いが始まる。リアナは見守ってはいるが止める様子は無い。
「喧嘩はいけないの!」
シャムの甲高い叫びがむなしく響いた。
「クバルカと吉田はいるかー」
間の抜けた声の男。とろんとした寝不足のような目が誠の視界に入ってくる。司法局実働部隊隊長である嵯峨惟基(さがこれもと)特務大佐が入り口に突っ立っていた。
「俺等をセットで呼ぶなんて珍しいですね」
吉田はようやくこの部屋から解放されるきっかけが出来たと喜んで立ち上がる。ランもようやくこの堂々巡りから解放されることにホッとした表情を浮かべて立ち上がった。
「まあな。用事はそれぞれあるし……まず吉田は同盟司法局の稟議決裁システムのチェックの依頼が来てるぞ」
嵯峨の言葉に吉田の表情が不機嫌なものに変わった。嵯峨もそうなると予想していたようで頭を掻きながら手を目の前にかざして誤るようなポーズをした。
「あれかよ。使えないシステム作りやがったから俺が自力で要件定義からやり直したんすよ!今度は何を直すっていうんですか!まあ局長クラスからの指示でしょ?分かりました。じゃあ……」
吉田がアイシャを見つめる。珍しい吉田の真剣な表情に誠は噴出すのを抑えながら吉田を見守る。
「俺は絶対行かないからな!」
そう言うと早足で入り口で立ち尽くしている嵯峨を残して吉田が消えた。
「クバルカは俺の用事だ。ちょっと顔貸してくれねえかな。同盟司法局の本部で面接試験だとさ」
重要なことをあっけらかんと言う嵯峨らしいその態度に一同は顔を見合わせる。
「面接……ですか?」
ランは豆鉄砲を食らったようにつぶやく。
「ああ、増設予定の実働部隊の隊員候補を選ばにゃならんだろ?元々部隊活動規模は四個小隊を基本に据えてあるんだから」
ランの顔を見て困ったような表情で嵯峨がそう言った。そしてようやく上司の意図がわかったのか、ランの表情が明るくなる。反応がわかりやすいランに誠はまた噴出しそうになってこらえるのに必死だった。
「ようやく同盟も重い腰あげたわけですか」
ランはうれしそうに立ち上がる。その視線はカウラに向けられた。
「大丈夫ですよこの場はなんとか収めますから」
「そうか」
カウラのしっかりした声にランが大きくうなづく。そんな二人を不満そうに見つめているかなめに誠は思わずうつむいてしまう。
「そんじゃあ海、楽しんできてよ」
嵯峨は軽く手を振りながらランをつれて出て行った。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~
エルトリア
ファンタジー
孤児からストリートチルドレンとなり、その後も養父に殺害されかけたりと不幸な人生を歩んでいた天才錬金術師グラス=ディメリア。
若くして病魔に蝕まれ、死に抗おうと最後の研究を進める彼は、禁忌に触れたとして女神の代行者――神人から処刑を言い渡される。
抗うことさえ出来ずに断罪されたグラスだったが、女神アウローラから生前の錬金術による功績を讃えられ『転生』の機会を与えられた。
本来であれば全ての記憶を抹消し、新たな生命として生まれ変わるはずのグラスは、別の女神フォルトナの独断により、記憶を保有したまま転生させられる。
グラスが転生したのは、彼の死から三百年後。
赤ちゃん(♀)として生を受けたグラスは、両親によってリーフと名付けられ、新たな人生を歩むことになった。
これは幸福が何かを知らない孤独な錬金術師が、愛を知り、自らの手で幸福を掴むまでの物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる