123 / 1,505
第二十五章 どんちゃん騒ぎ
人造人間の悪戯
しおりを挟む
誰も居ない通路、よろけながら歩くカウラを支えつつ、誠はエレベータホールにたどり着いた。
「大丈夫ですか?カウラさん」
「ああ、大丈夫だ」
カウラがうって変わった静かな口調で話し出した。その変化に誠は戸惑う。
「半年前はアイシャがあのような醜態をさらす事が多くてな。それを真似ただけだ」
「じゃあ酒は飲んでなかったのですか?」
あっけに取られて誠が叫んだ。
「飲んだ事は飲んだが、この程度で理性が飛ぶほどヤワじゃない。来たぞ、エレベータ」
カウラを背負ったまま誠はエレベータに乗り込む。
「それじゃあ何であんな芝居を?」
そうたずねる誠だが、カウラは黙って答えようとはしなかった。
二人だけの空間。時がゆっくりと流れる。僅かなカウラの胸のふくらみが誠の背中にも分かった。
「何でだろうな。私にも分からん。ただかなめやアイシャを見るお前を見ていたらあんな芝居をしてみたくなった」
すねたような調子でカウラがそう言った。エレベータは居住区に到着する。
「しばらく休ませてくれ。やはり酔いが回ってきた」
やはりそれほど酒の強くない人造人間のカウラはエレベータの隣のソファーを指差して言った。
「そうですね」
誠はそう言うとカウラをソファーに座らせた。
静かだった。この艦の運行はすべて吉田の構築したシステムで稼動している。作戦中で無ければすべての運行は人の手の介在無しで可能だ。誰一人いない廊下。機関員もハンガーで偽キリスト像を演じている槍田以外は、すべてトレーニングルームで明華が与えた反省文三十枚を書く課題を正座してやっている所だろう。
「悪いな。私につき合わせてしまって。これで好きなのを飲んでくれ」
カウラはそう言うと誠にカードを渡す。誠はソファーの隣の自販機の前に立った。
「カウラさんはスポーツ飲料か何かでいいですか?」
「任せる」
そう言うとカウラは大きく肩で息をした。強がっていても、明らかに飲みすぎているのは誠でもわかった。誠は休憩所のジュースの自販機にカードを入れた。
「怒らないんだな。嘘をついたのに」
スポーツ飲料のボタンを押し、缶を機械から取り出す誠を眺めながらカウラが言った。
「別に怒る理由も無いですから」
そう言うと誠は缶をカウラに手渡す。
「本当にそうなのか?お前のための宴会だ。それに西園寺やアイシャもお前がいないと寂しいだろう」
コーヒーの缶を取り出している誠に、カウラはそう言った。振り返ったその先の緑の瞳には、困ったような、悲しいような、感情と言うものにどう接したらいいのかわからないと言う気持ちが映っているように誠には見えた。
「カウラさんも放っておけないですから」
「そうか、『放っておけない』か」
カウラは誠の言葉を繰り返すと静かに缶に口をつけた。カウラの肩が揺れる。アルコールは確実にまわっている。だが誠の前では毅然として見せようとしているのが感じられる。その姿が本当なのか、先程の自分で演技と言った壊れたカウラが本物なのか、誠は図りかねていた。
「やはり、どうも気分が良くない。誠、肩を貸してくれ」
飲み終わった缶を誠に手渡しながら、カウラは誠にそう言った。
「わかりました、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
そうは言うもののかなり足元はおぼつかない。誠はカウラに肩を貸すとゆっくりと廊下をカウラの部屋に向かい歩く。
静まり返った廊下。二人の他に人の気配はまるで無い。上級士官用の個室。そこに着くとカウラはキーを開けた。
「本当に大丈夫ですか?」
「すまない。ベッドまで連れて行ってくれ」
カウラは何時もは白く透き通る肌を赤く染めながら誠にそう頼んだ。やはりカウラの部屋は士官用だけあり誠のそれより一回り大きい。室内には飾りなどは無く、それゆえに見た目以上に広く感じた。
「とりあえずここでいい少し疲れた。もう大丈夫だから帰って良いぞ。西園寺が心配する」
そう言うとカウラはそのまま横になった。誠は静かに立ち上がり、ドアのところで立ち止まる。
「お休みなさい」
「ああ」
カウラは優しく返す。誠はそのまま部屋を出た。廊下が妙に薄暗く感じる。エレベータが上がってきていたが、構わずハンガーに向かうボタンを押した。
「大丈夫ですか?カウラさん」
「ああ、大丈夫だ」
カウラがうって変わった静かな口調で話し出した。その変化に誠は戸惑う。
「半年前はアイシャがあのような醜態をさらす事が多くてな。それを真似ただけだ」
「じゃあ酒は飲んでなかったのですか?」
あっけに取られて誠が叫んだ。
「飲んだ事は飲んだが、この程度で理性が飛ぶほどヤワじゃない。来たぞ、エレベータ」
カウラを背負ったまま誠はエレベータに乗り込む。
「それじゃあ何であんな芝居を?」
そうたずねる誠だが、カウラは黙って答えようとはしなかった。
二人だけの空間。時がゆっくりと流れる。僅かなカウラの胸のふくらみが誠の背中にも分かった。
「何でだろうな。私にも分からん。ただかなめやアイシャを見るお前を見ていたらあんな芝居をしてみたくなった」
すねたような調子でカウラがそう言った。エレベータは居住区に到着する。
「しばらく休ませてくれ。やはり酔いが回ってきた」
やはりそれほど酒の強くない人造人間のカウラはエレベータの隣のソファーを指差して言った。
「そうですね」
誠はそう言うとカウラをソファーに座らせた。
静かだった。この艦の運行はすべて吉田の構築したシステムで稼動している。作戦中で無ければすべての運行は人の手の介在無しで可能だ。誰一人いない廊下。機関員もハンガーで偽キリスト像を演じている槍田以外は、すべてトレーニングルームで明華が与えた反省文三十枚を書く課題を正座してやっている所だろう。
「悪いな。私につき合わせてしまって。これで好きなのを飲んでくれ」
カウラはそう言うと誠にカードを渡す。誠はソファーの隣の自販機の前に立った。
「カウラさんはスポーツ飲料か何かでいいですか?」
「任せる」
そう言うとカウラは大きく肩で息をした。強がっていても、明らかに飲みすぎているのは誠でもわかった。誠は休憩所のジュースの自販機にカードを入れた。
「怒らないんだな。嘘をついたのに」
スポーツ飲料のボタンを押し、缶を機械から取り出す誠を眺めながらカウラが言った。
「別に怒る理由も無いですから」
そう言うと誠は缶をカウラに手渡す。
「本当にそうなのか?お前のための宴会だ。それに西園寺やアイシャもお前がいないと寂しいだろう」
コーヒーの缶を取り出している誠に、カウラはそう言った。振り返ったその先の緑の瞳には、困ったような、悲しいような、感情と言うものにどう接したらいいのかわからないと言う気持ちが映っているように誠には見えた。
「カウラさんも放っておけないですから」
「そうか、『放っておけない』か」
カウラは誠の言葉を繰り返すと静かに缶に口をつけた。カウラの肩が揺れる。アルコールは確実にまわっている。だが誠の前では毅然として見せようとしているのが感じられる。その姿が本当なのか、先程の自分で演技と言った壊れたカウラが本物なのか、誠は図りかねていた。
「やはり、どうも気分が良くない。誠、肩を貸してくれ」
飲み終わった缶を誠に手渡しながら、カウラは誠にそう言った。
「わかりました、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
そうは言うもののかなり足元はおぼつかない。誠はカウラに肩を貸すとゆっくりと廊下をカウラの部屋に向かい歩く。
静まり返った廊下。二人の他に人の気配はまるで無い。上級士官用の個室。そこに着くとカウラはキーを開けた。
「本当に大丈夫ですか?」
「すまない。ベッドまで連れて行ってくれ」
カウラは何時もは白く透き通る肌を赤く染めながら誠にそう頼んだ。やはりカウラの部屋は士官用だけあり誠のそれより一回り大きい。室内には飾りなどは無く、それゆえに見た目以上に広く感じた。
「とりあえずここでいい少し疲れた。もう大丈夫だから帰って良いぞ。西園寺が心配する」
そう言うとカウラはそのまま横になった。誠は静かに立ち上がり、ドアのところで立ち止まる。
「お休みなさい」
「ああ」
カウラは優しく返す。誠はそのまま部屋を出た。廊下が妙に薄暗く感じる。エレベータが上がってきていたが、構わずハンガーに向かうボタンを押した。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる