レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第二十五章 どんちゃん騒ぎ

本音トーク

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「シュバーキナ先任大尉にお願いしたい事がありますれす!」 

 カウラはそう言うと急に背筋を伸ばし敬礼した。かなめとアイシャはいかにも嫌そうな顔でカウラの動向を見る。

「何よ。言ってみなさい」 

 完全に面白半分と言うような調子でマリアがたずねる。

「わらくし!カウラ・ベルガー大尉はなやんれいるのれあります!」 

「ふうん。悩んでいるんだ」

 満足げな笑みを浮かべながらマリアがカウラの言葉を翻訳する。

「何言い出すんだ!馬鹿!」 

 かなめが思わずカウラを止めようとするが、マリアはすばやくその機先を制する。

「そう。じゃあ先任大尉として聞かなければならないわね。続けなさい」 

 いい余興と言った感じでマリアは話の先を促した。

「はいれす!わたひは!その!」 

 またカウラの足元がおぼつかなくなる。仕方なく支える誠。エメラルドグリーンの切れ長の目がとろんと誠を見つめている。

「何言いだすつもりだ?この酔っ払い!」 

 カウラから奪い取ったグラスにラム酒を注ぎながら、かなめはやけになって叫んだ。しかし、誠から離れたカウラの瞳がじっと自分を見つめている、自分の胸を見つめている事に気づくと、かなめはわざとその視線から逃れるように天井を見てだまって酒を口に含む。

「このおっぱい魔人が神前少尉をたぶらかそうとしれるのれあります!」 

 かなめはカウラの突然の言葉に思わず酒を噴出す。そんなかなめを見ながら、アイシャはカウラの言葉に同調してうなづく。

「たぶらかすだと!なんでアタシがそんな事しなきゃならねえんだ?まあ、こいつが勝手に、その、なんだ、あのだな、ええと……」 

「たぶらかしてるわね」 

 ピンクの髪をかきあげながら、ビールを飲み干すとパーラが言った。その一言に鍋を見回ってきていた島田とサラもうなづいている。

「テメエ等!無事に地面を踏めると思うなよ!」 

「だって事実じゃないの?どう思う正人?」 

「俺に振るな」 

 サラと島田はかなめのタレ目の中に殺意を感じて、この場に来た事を後悔している様に見えた。

「じゃあ聞くわよカウラ。この腕力馬鹿と神前少尉がくっつくとなんかあなたにとって困る事があるわけ?」 

 マリアはいたずらっぽく笑うとカウラにそうたずねた。マリアの笑顔は状況を楽しんでいる感じだった。誠は助けを呼ぼうと嵯峨達のテーブルを見る。

 隣のどたばたを肴に鍋を楽しもう。そんな表情の嵯峨は視線は投げていないものの、口に猪肉を頬張りながら、誠たちのテーブルの動静を耳で探っているようだった。ランは食べるのに夢中なようで誠達を一瞥することもなく箸を鍋に突っ込んでいた。

「それはれすね!西園寺のような暴力馬鹿に苛められると、誠がマゾにめざめるのれす! そうするとアイシャが噂をながすのれす!困るひとはわたしなのれす!」 

「神前がマゾに目覚める?そいつはまずいなあ」 

「そうですなあ」 

 嵯峨とランは完全に傍観モードで相槌を打つ。

「どう困るの?」 

 一方、マリアは笑いながら理性の飛んでるカウラにけしかける。誠は時々バランスを崩しそうになるカウラを支えながら心の中で叫んでいた。

『誰か止めて!』 

 しかし誰も止めるつもりは無い。それでもまだカウラの演説は続く。

「わたしは!見過ごせないのれす!誠君がタレ目オッパイの下僕におちれ行くをの見過ごせないのれす!ですから先任大尉殿!」 

 また急にカウラは直立不動の姿勢をとる。

「だからなあに?」 

 さすがに飽きてきたのか、投げやりにマリアがたずねた。

「こういう状況で何をするべきか、それをおしえれいららきたいのれす!誠!わらしはなにをしたらいいのら!」 

「ベルガーが何をしたらいいのかねえ……って神前支えろ1」

 マリアの言葉を聞いて誠はまた仰向けにひっくり返りそうになったカウラを支えた。その誠の頭をぽかぽかとカウラは柔らかいこぶしで殴る。パーラ、サラ、島田の三人は呆れるものの、次のカウラの絡み酒の標的になる事を恐れて退散するタイミングを計っている。一方アイシャは誠がおもしろいことを言い出さないので苛立っているように見えた。 

「そりゃあ、愛って奴じゃねえの?」 

 ボソッと嵯峨がつぶやいた。その場にいた誰もが嵯峨の顔を見る。嵯峨は自分でもつまらない事を言ったなあと言う表情を作る。隣でランは肉を頬張りながら他人の振りをする。そして、また直立不動の姿でかかとを鳴らして敬礼したカウラに全員の視線が集中した。

「サラ!サラ・グリファン少尉!」 

「ハイ!大尉殿!」 

 その場にいた誰もがカウラに絡まれることが決定したサラに哀れみの視線を投げた。特に島田は彼女を助けに行けない自分の非才を嘆いているような顔をした。

「愛とはなんなろれす?サラ。おしえれもらうしか、ないのれす?」 

「教えろったって……ねえ……」

 サラの表情は明らかに危険を感じており、すぐにでも逃げだしたいように見えた。

「カウラさん休みましょう!さあこっちに来て」 

 誠はサラに絡もうとするカウラを両腕で抱え込んだ。

「もっとするのら!もっとするのら!」 

 次第にアルコールのめぐりが良くなったようで、全身の関節をしならせながらカウラが叫んだ。

「ちょっと神前。もう駄目そうだから部屋まで送ってあげなさいよ」 

 見かねてマリアがそう言った。

「アタシが運ぼうか?それとももっと人を呼ぶか?」 

「そうよね私も手伝うわ。それとそこのソン軍曹!ラビン伍長!」 

 かなめとアイシャが動き出す。技術部のソンと警備部ラビンはカウラファンクラブ、通称『ヒンヌー教』の信者として知られていた。その二人にわざと声をかけるアイシャはそのことによりその場がより混乱するのを望んでいるように見えた。早速二人は誠の両脇に走り寄って自分の女神であるカウラに手を伸ばそうとする。

「あんた等!出なくていいの!神前少尉!あなたが送りなさい」 

 軍医のドムを連れてきた技術部の守護神、明華の一喝に一同は静まる。

「そうなのら!タレ目おっぱいとふじょしはひっこんれるのな!誠!いくろな!」 

 そう言うと壊れたようにカウラは笑い始める。

 誠は彼女を背負って、そのまま宴会場であるハンガーを後にした。
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