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第二十五章 どんちゃん騒ぎ
目覚めた英雄
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「ここは?」
頭痛とめまいを感じながら、誠は目を覚まいした。彼が最初に見たのは、痩せた眼鏡の医師、ドム・ヘン・タン大尉の浅黒い顔だった。
「起きましたよ、大佐。神前君、しばらくは安静にしている方がいいと思うんですが……」
ドム大尉。管理部医療班の班長兼軍医である彼が見上げた先には、嵯峨がついたての隙間から入り口の方を見ている姿があった。
『起きたってよ!』
あわてた調子でかなめがつぶやきが聞こえる。
『騒ぐな西園寺。一応ここは病室だ』
落ち着いた調子を装うのに必死なカウラの言葉が聞こえてくる。
『そうだよ!静かにしないと!』
今度はシャムの声だが、無理をして声を小さくしているので、まるで風邪を引いているように誠には聞こえる。
『それより海の話。アタシは今月から来月の頭まで艦長研修があるから、それが終わってからってことで』
小さい声だが、アイシャは明らかに誠にも話し声が聞こえるように話していた。
『またコミケの売り子押し付けるつもりね』
不服そうな調子でサラが突っ込みを入れる。
『コミケは私は絶対行かないわよ!いつだって雑用は私達に押し付けてアイシャは遊んでばかりだもの。これ以上損するのはごめんよ』
パーラはすっかり呆れた調子だった。
『俺もまた雑用要員に数えられてるの?もしかして』
今度はまるで声を小さくするつもりはないというような島田の声が響く。嵯峨はそんな様子を注意するわけでもなく、とりあえず誠に向き直る。
「まあ、初めてってのは何でも大変なものだ。ドクター。なんか問題点とかありました?」
外の騒動に笑顔を浮かべながら、嵯峨は小柄なドムに声をかけた。
「特にないですね。多少の緊張状態から来る神経衰弱が見られる他は健康そのものですな。出来ればあの不健康の塊のヨハンにも見習わせたいくらいですね」
朗らかにドムはそう言うと席を立った。
「それと、やはりもう自室に戻るべきかもしれないね。あの連中がなだれ込んでくる前に」
そうドムが言ったとたんに病室のドアが開いた。
「なんだ、元気そうじゃないか」
ドムと入れ替わりにかなめ達が入ってくる。皆笑顔で上体を起こした格好の誠を見つめた。
「とりあえず差し入れ」
と言うとかなめが飲みかけのラム酒のビンを突き出してくる。
「間接キッス狙いね!」
「馬鹿野郎!んな訳ねえだろ!たまたま他にやるもんがねえからだな!その……なんだ……」
かなめはシャムに言われて言葉を濁しながらおずおずと下を向く。
「馬鹿は良いとして、本当に大丈夫か?」
カウラがそう言うと誠の背に手を当てて、起き上がろうとする誠を支える。バランスが少し崩れて、誠の顔とカウラの顔が数センチの距離で止まる。カウラのシャワーの後の石鹸の残り香が誠には心地よく感じられた。
しかし、すぐさまアイシャのニヤついた顔を見つけた誠は、それをごまかすようにカウラの手を借りてベッドから降りた。
「大丈夫ですよ……ってすいません!」
靴を履こうとした誠がよろける。彼を慌ててカウラが支えた。二人は思わず見つめあう形になる。
「ごほん」
わざとらしくかなめが咳ばらいをした。誠はカウラの支えで、なんとか態勢を立て直すと、握っていたカウラの手を離した。
「それにしても行きは急ぎだっていうのにちんたらパルスエンジンで一週間もかかったのに、帰りは亜空間転移で三日で帰任かよ。まったく同盟法はどうなってるのかねえ……まあ甲種出動時は『高雄』は軍艦扱いで帰りはもとの警察扱いってことはわかるんけど……まったく融通が利かねえな」
明らかにカウラ達を気にしているかなめがあてこするように嵯峨に言った。
「俺に言っても無駄だよ。同盟法は同盟機構が立案して同盟議会が可決した法案だ。そんな一司法執行関の部隊長がおいそれといじれるもんか」
「同盟機構を提唱した遼南皇帝陛下がそれを言います?」
珍しく正論を言うアイシャの言葉に、この場にいる全員が遼州同盟機構司法局実働部隊長、嵯峨惟基特務大佐が遼南帝国皇帝ムジャンタ・ラスコーその人であることを思い出した。
「独裁の行く先は自滅だって歴史が教えてるんだ。俺は皇帝としてやることはやったんだ。後はまあ……ボランティア活動だな」
「ボランティアねえ……それにしちゃあ機動部隊二個小隊に軍警一個中隊、さらに巡洋艦一隻か。ずいぶん物騒なものをそろえたじゃねえか」
苦笑いを浮かべながらかなめがつぶやく。誠も確かに目の前で主のドムがいないことを幸いにタバコをくゆらせている男が、司法局実働部隊をこれからどこに導こうとしているのかわからなくなっていた。
頭痛とめまいを感じながら、誠は目を覚まいした。彼が最初に見たのは、痩せた眼鏡の医師、ドム・ヘン・タン大尉の浅黒い顔だった。
「起きましたよ、大佐。神前君、しばらくは安静にしている方がいいと思うんですが……」
ドム大尉。管理部医療班の班長兼軍医である彼が見上げた先には、嵯峨がついたての隙間から入り口の方を見ている姿があった。
『起きたってよ!』
あわてた調子でかなめがつぶやきが聞こえる。
『騒ぐな西園寺。一応ここは病室だ』
落ち着いた調子を装うのに必死なカウラの言葉が聞こえてくる。
『そうだよ!静かにしないと!』
今度はシャムの声だが、無理をして声を小さくしているので、まるで風邪を引いているように誠には聞こえる。
『それより海の話。アタシは今月から来月の頭まで艦長研修があるから、それが終わってからってことで』
小さい声だが、アイシャは明らかに誠にも話し声が聞こえるように話していた。
『またコミケの売り子押し付けるつもりね』
不服そうな調子でサラが突っ込みを入れる。
『コミケは私は絶対行かないわよ!いつだって雑用は私達に押し付けてアイシャは遊んでばかりだもの。これ以上損するのはごめんよ』
パーラはすっかり呆れた調子だった。
『俺もまた雑用要員に数えられてるの?もしかして』
今度はまるで声を小さくするつもりはないというような島田の声が響く。嵯峨はそんな様子を注意するわけでもなく、とりあえず誠に向き直る。
「まあ、初めてってのは何でも大変なものだ。ドクター。なんか問題点とかありました?」
外の騒動に笑顔を浮かべながら、嵯峨は小柄なドムに声をかけた。
「特にないですね。多少の緊張状態から来る神経衰弱が見られる他は健康そのものですな。出来ればあの不健康の塊のヨハンにも見習わせたいくらいですね」
朗らかにドムはそう言うと席を立った。
「それと、やはりもう自室に戻るべきかもしれないね。あの連中がなだれ込んでくる前に」
そうドムが言ったとたんに病室のドアが開いた。
「なんだ、元気そうじゃないか」
ドムと入れ替わりにかなめ達が入ってくる。皆笑顔で上体を起こした格好の誠を見つめた。
「とりあえず差し入れ」
と言うとかなめが飲みかけのラム酒のビンを突き出してくる。
「間接キッス狙いね!」
「馬鹿野郎!んな訳ねえだろ!たまたま他にやるもんがねえからだな!その……なんだ……」
かなめはシャムに言われて言葉を濁しながらおずおずと下を向く。
「馬鹿は良いとして、本当に大丈夫か?」
カウラがそう言うと誠の背に手を当てて、起き上がろうとする誠を支える。バランスが少し崩れて、誠の顔とカウラの顔が数センチの距離で止まる。カウラのシャワーの後の石鹸の残り香が誠には心地よく感じられた。
しかし、すぐさまアイシャのニヤついた顔を見つけた誠は、それをごまかすようにカウラの手を借りてベッドから降りた。
「大丈夫ですよ……ってすいません!」
靴を履こうとした誠がよろける。彼を慌ててカウラが支えた。二人は思わず見つめあう形になる。
「ごほん」
わざとらしくかなめが咳ばらいをした。誠はカウラの支えで、なんとか態勢を立て直すと、握っていたカウラの手を離した。
「それにしても行きは急ぎだっていうのにちんたらパルスエンジンで一週間もかかったのに、帰りは亜空間転移で三日で帰任かよ。まったく同盟法はどうなってるのかねえ……まあ甲種出動時は『高雄』は軍艦扱いで帰りはもとの警察扱いってことはわかるんけど……まったく融通が利かねえな」
明らかにカウラ達を気にしているかなめがあてこするように嵯峨に言った。
「俺に言っても無駄だよ。同盟法は同盟機構が立案して同盟議会が可決した法案だ。そんな一司法執行関の部隊長がおいそれといじれるもんか」
「同盟機構を提唱した遼南皇帝陛下がそれを言います?」
珍しく正論を言うアイシャの言葉に、この場にいる全員が遼州同盟機構司法局実働部隊長、嵯峨惟基特務大佐が遼南帝国皇帝ムジャンタ・ラスコーその人であることを思い出した。
「独裁の行く先は自滅だって歴史が教えてるんだ。俺は皇帝としてやることはやったんだ。後はまあ……ボランティア活動だな」
「ボランティアねえ……それにしちゃあ機動部隊二個小隊に軍警一個中隊、さらに巡洋艦一隻か。ずいぶん物騒なものをそろえたじゃねえか」
苦笑いを浮かべながらかなめがつぶやく。誠も確かに目の前で主のドムがいないことを幸いにタバコをくゆらせている男が、司法局実働部隊をこれからどこに導こうとしているのかわからなくなっていた。
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