レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第十八章 戦闘を前に

無謀と呼べる作戦

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 誠が隊長室に入ると、そこには既にかなめとカウラが手持無沙汰で待ちぼうけていた。

「叔父貴は何してる?」 

 ソファーに身を任せ、片足をその前のテーブルに投げ出しながらかなめが突っ立っている誠にそう言った。

「なんか、タバコ吸ってから来ると言ってましたよ」 

「嘘だな。吉田あたりと悪だくみでもしてるんだろ。タバコが吸いたいならここで吸やいいじゃん」 

 確かにその通りだ。誠は隊長用の大きな机の端に山になっている吸殻を見てそう思った。

「すまんねえ、待たせちゃって」 

 すぐに嵯峨は悪びれもせずにそう言いながら入ってきた。

「叔父貴。ようやくアタシ等が何すりゃいいか教えてくれるのか?」 

 見せ付けるようにタバコに火をつけながらかなめがそう言った。

「まあそんなところかな。神前、別に立ってないでベルガーの隣にでも座れば?」 

 嵯峨にそう言われて誠は移動しているカウラの隣に腰掛ける。思わず目をそらすカウラ。その様子を見てかなめは舌打ちをした。

 嵯峨はそのまま部屋に入ると自分の定位置に座る。

「まあいいや。そんで今回はお前等がアサルト・モジュールでの戦闘を行う事になる」

「だろうな。第一小隊小隊長のランの姐御は、胡州の動静を探るために出ちゃってるからな。でもあれだろ?明華の姐さん達が訓練してるんじゃ」 

 かなめはそこでタバコに火をつける。いつものようにカウラはポニーテールの緑の髪を揺らしながら顔をしかめた。

「あくまでも予備戦力だ。実際『那珂』と第六艦隊の近藤一派の保有するアサルト・モジュールがどれほどの数出てくるか分からん。確認済みの全戦力では53機だが、全パイロットが近藤中佐の指揮の下で動くとは思えんしなあ。一応、帝国に反旗を翻すことになるんだ。出撃するパイロットもそれこそ国士を気取れる奴じゃなきゃ近藤の旦那も信用しないだろ」 

 さっきタバコを吸うために席を外すと言いながら、嵯峨はまたポケットからタバコを取り出すが、正面に座ったカウラの緑の目ににらまれて断念した。

「援護無しで敵中突破任務ですか?」 

 カウラは眉をひそめながら一語一語確かめるようにしていた。

「当たり。まあ、ぶっちゃけたところで、お前等は囮、デコイだ。パイロットの数と多国籍の艦隊がアステロイドベルト付近で観戦している。近藤さんもこいつ等が自分達、いわゆる『胡州の志士達』の存在を許すわけの無いことくらいわかっているはずだ。それを読んで予備戦力を持ちたいとは思っても、俺らに潰されたらそれで今回の決起はしまいだからな」 

 そう言うと嵯峨はソファーに座りなおしてタバコに火をつける。彼はそのまま一息タバコの煙を吸い込むと安心したように足を組みなおす。

「出だしから躓いたらすべてが無駄になるってことで、下手に戦力の出し惜しみはしないだろうな。それに05式の性能データは飛燕の後継機のコンペに提出されている。菱川重工から胡州軍本部にもこちらの手の内は流れている。そうなれば戦闘プラン提案の専門家の近藤さんはこちらの実力も知っていると考えるべきだろうな。そうなると第六艦隊の主力の火龍あたりじゃ数で押すしかないのもわかっての事だろう」 

 そこで嵯峨はニヤリとした。

「10対1でも勝てと言う訳ですか?」 

 冷たくカウラはそう言い切った。

「冗談抜かせ!新入りのお守りもいるってのに、なんでそんな無茶な作戦立てたんだ?」 

 机を足で蹴りながらかなめがそう叫んだ。

「そう怒るなよ」

 嵯峨はそう言うと身を乗り出して話始める。

「正直、二線級扱いの戦力の第六艦隊だぜ?どうせエースなんていないんだから、お前等二人でお釣りが来るだろ?それに支援と言うわけじゃ無いがワザとパッシブセンサー全開の状態で『高雄』は進軍させる予定だから。当然、敵さんはそちらにも戦力を割いてくるだろうから、お前さん達の戦力とはそれほど差は出ないと思うぞ」 

 嵯峨は弱々しげに、それでいてどこか挑戦的な視線をカウラ達に送った。

「侵攻経路はもう出来ているんでしょうね」 

 カウラは気を取り直してそう聞いた。

「ああもう出来てるよ。それは一応機密事項なんで、明日の朝には時計合わせするからその時見て頂戴よ」 

「了解しました」 

 そう言うとカウラは席を立った。かなめは忌々しげにタバコを燻らせている。誠はなんとなく居辛くなってカウラの後に続いた。
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