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第十五章 覚醒の時
現実世界の人々
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「なに叫んでんだよ!バーカ!」
かなめは落とされたことが相当悔しいらしく、誠に意味もなく突っかかってくる。
「でも凄いね!神前君。あんなことが出来るなんて。確かあのサーベル。05式導入の時、装備するかどうかで上と隊長が相当揉めてたってシン大尉が言ってたけど、それなりのものだと言うことね」
早くあがっていたパーラがそう讃えたが、誠はいまひとつのれなかった。
『実戦でこれが使えるのか?本当は師範代に担がれてるんじゃないのか?』
自分でもこんなマイナス思考はとりたくないのだが、どうしてもそう思ってしまうのが誠の性(さが)だった。
「カウラの奴、結構持ってるな」
戦闘中のモニター画面四つがシミュレーションルームから見える。すぐさまアイシャのモニターが消え、シミュレーターの一つのハッチが開いた。
「やっぱり専門職はすごいわ!ああ、参ったねえこりゃ」
おどけながらアイシャが出てきた。すぐその視線は退屈そうにシミュレーターに寄りかかっているかなめに向かう。
「かなめちゃん、落とされたんだ」
「悪りいか?たまにはこんなこともあんだよ!」
「別に……。ただ誠ちゃんの前でいいとこ見せられなくて残念ね、と言うことは言っといた方がいいかな?」
「おい!アイシャ。もう一回言ってみろ。粥しか食えない口にしてやるからな!」
「怖いよう、先生!かなめちゃんたらあんなこと言うのよ」
アイシャがよなよなと誠に擦り寄ってくる。彼女は誠の胸にしがみつくと、今にも涙しそうな表情で誠を見つめた。
「そんな眼で見られると……!」
視界の端に映るかなめの表情を見つけて、誠ははっとした。助けを求めるようにパーラの方を向いたが、その顔が『ご愁傷様』と言っているのは明らかだった。
「チキショー」
かなめのこぶしは誠の顔面ではなく、シミュレーションルームの壁にひびを入れるために用いられることになった。そしてそのまま不機嫌そうにシミュレーションルームから出て行った。
「怖いわー、誠さん!お願いだから私をあの暴力女から守ってね!」
アイシャのわざとらしい恐怖の表情の下にはかなめの破壊活動の元凶だと言う自覚は絶対にある。誠が見つめる潤んだ眼はどう見ても確信犯のそれだった。
「ちょっと神前君!追いかけなくていいの?」
パーラが心配そうに誠を問い詰める。
「でも僕が行ってどうにかなるんですか?それに、一応、隊長の命令でここにいるわけだし……」
こういう状況はまったく経験したことがない誠は、おずおずと自分でも言い訳だと分かりつつ言葉をつなぐ。
「神前君。最低ね。それとアイシャ。こんなことばっかりしてると本当にかなめに襲われるわよ」
「それって禁断の百合ワールドに入るってこと?」
いつものいたずらっぽい笑みを浮かべてアイシャがパーラを見つめた。
「あんたの脳みそ、東和に来てから完全に腐ったわね」
「いいじゃない!楽しいんだから。それにかなめちゃん単純だからおなか一杯になればすぐに忘れるわよ」
相変わらずアイシャは誠の胸の中から離れようとはしない。次第にその距離は狭まっていくので、誠は自分の頬が赤く染まっていくのが自覚できた。
「クラウゼ、ラビロフ。静かにしろ」
カウラに落とされたマリアがシミュレーターから顔をのぞかせた。
「またクラウゼが西園寺をからかったんだな?あいつはああ見えて純粋だからな……いじめるなよ」
『あのどこが純粋なんだ?』
マリアの言葉を聞くとすぐに誠はそう思った。たぶん残りの二人も同意見だろう。
「やっぱりベルガーは強いな。それにしても神前、貴様は大したもんだ。この法術関連のシステムにすぐ対応するとは……隊長が対応するには三回の模擬戦が必要だったのだから……大したもんだ」
よほど嬉しいのか、マリアのニコニコした顔がだんだん近づいてくる。
近づいてきて、近づいてきて、近づいてきて。
そして本当に顔に息がかかるくらいまで近づいてきた。
「あのー」
「どうした?神前?」
意外と天然な人だ。誠はそう思った。さすがにすがりつくのに飽きて少し離れて立っていたアイシャも、その様子を呆れ顔で見ている。
「優秀な部下には褒美が必要だな……そうだ飯をおごろう!クラウゼとラビロフは自腹な」
いつもの緊張した面持ちから想像もつかない太陽のような笑顔と言うものの見本みたいなものが目の前にある。誠もそんなマリアの押しに負けて苦笑いを浮かべながら頷いた。
「それじゃあ、早速行こうか!」
「お姐さん!許大佐達は……」
パーラが宥めるような調子でそう言った。
「いいんだよ奴らは!戦いで絆でも作ってるんだろ?」
思いついたら誰の言うことも聞かない人。誠はそんな印象をマリアに受けた。振り向いた先のモニターに直撃弾を喰らって炎上する明華の四式改が映し出される。
「ささっ早く!早く!」
マリアは誠とパーラの手を引っ張ってシミュレーションルームを後にする。アイシャは当然のように誠の横に張り付いてついてきていた。
かなめは落とされたことが相当悔しいらしく、誠に意味もなく突っかかってくる。
「でも凄いね!神前君。あんなことが出来るなんて。確かあのサーベル。05式導入の時、装備するかどうかで上と隊長が相当揉めてたってシン大尉が言ってたけど、それなりのものだと言うことね」
早くあがっていたパーラがそう讃えたが、誠はいまひとつのれなかった。
『実戦でこれが使えるのか?本当は師範代に担がれてるんじゃないのか?』
自分でもこんなマイナス思考はとりたくないのだが、どうしてもそう思ってしまうのが誠の性(さが)だった。
「カウラの奴、結構持ってるな」
戦闘中のモニター画面四つがシミュレーションルームから見える。すぐさまアイシャのモニターが消え、シミュレーターの一つのハッチが開いた。
「やっぱり専門職はすごいわ!ああ、参ったねえこりゃ」
おどけながらアイシャが出てきた。すぐその視線は退屈そうにシミュレーターに寄りかかっているかなめに向かう。
「かなめちゃん、落とされたんだ」
「悪りいか?たまにはこんなこともあんだよ!」
「別に……。ただ誠ちゃんの前でいいとこ見せられなくて残念ね、と言うことは言っといた方がいいかな?」
「おい!アイシャ。もう一回言ってみろ。粥しか食えない口にしてやるからな!」
「怖いよう、先生!かなめちゃんたらあんなこと言うのよ」
アイシャがよなよなと誠に擦り寄ってくる。彼女は誠の胸にしがみつくと、今にも涙しそうな表情で誠を見つめた。
「そんな眼で見られると……!」
視界の端に映るかなめの表情を見つけて、誠ははっとした。助けを求めるようにパーラの方を向いたが、その顔が『ご愁傷様』と言っているのは明らかだった。
「チキショー」
かなめのこぶしは誠の顔面ではなく、シミュレーションルームの壁にひびを入れるために用いられることになった。そしてそのまま不機嫌そうにシミュレーションルームから出て行った。
「怖いわー、誠さん!お願いだから私をあの暴力女から守ってね!」
アイシャのわざとらしい恐怖の表情の下にはかなめの破壊活動の元凶だと言う自覚は絶対にある。誠が見つめる潤んだ眼はどう見ても確信犯のそれだった。
「ちょっと神前君!追いかけなくていいの?」
パーラが心配そうに誠を問い詰める。
「でも僕が行ってどうにかなるんですか?それに、一応、隊長の命令でここにいるわけだし……」
こういう状況はまったく経験したことがない誠は、おずおずと自分でも言い訳だと分かりつつ言葉をつなぐ。
「神前君。最低ね。それとアイシャ。こんなことばっかりしてると本当にかなめに襲われるわよ」
「それって禁断の百合ワールドに入るってこと?」
いつものいたずらっぽい笑みを浮かべてアイシャがパーラを見つめた。
「あんたの脳みそ、東和に来てから完全に腐ったわね」
「いいじゃない!楽しいんだから。それにかなめちゃん単純だからおなか一杯になればすぐに忘れるわよ」
相変わらずアイシャは誠の胸の中から離れようとはしない。次第にその距離は狭まっていくので、誠は自分の頬が赤く染まっていくのが自覚できた。
「クラウゼ、ラビロフ。静かにしろ」
カウラに落とされたマリアがシミュレーターから顔をのぞかせた。
「またクラウゼが西園寺をからかったんだな?あいつはああ見えて純粋だからな……いじめるなよ」
『あのどこが純粋なんだ?』
マリアの言葉を聞くとすぐに誠はそう思った。たぶん残りの二人も同意見だろう。
「やっぱりベルガーは強いな。それにしても神前、貴様は大したもんだ。この法術関連のシステムにすぐ対応するとは……隊長が対応するには三回の模擬戦が必要だったのだから……大したもんだ」
よほど嬉しいのか、マリアのニコニコした顔がだんだん近づいてくる。
近づいてきて、近づいてきて、近づいてきて。
そして本当に顔に息がかかるくらいまで近づいてきた。
「あのー」
「どうした?神前?」
意外と天然な人だ。誠はそう思った。さすがにすがりつくのに飽きて少し離れて立っていたアイシャも、その様子を呆れ顔で見ている。
「優秀な部下には褒美が必要だな……そうだ飯をおごろう!クラウゼとラビロフは自腹な」
いつもの緊張した面持ちから想像もつかない太陽のような笑顔と言うものの見本みたいなものが目の前にある。誠もそんなマリアの押しに負けて苦笑いを浮かべながら頷いた。
「それじゃあ、早速行こうか!」
「お姐さん!許大佐達は……」
パーラが宥めるような調子でそう言った。
「いいんだよ奴らは!戦いで絆でも作ってるんだろ?」
思いついたら誰の言うことも聞かない人。誠はそんな印象をマリアに受けた。振り向いた先のモニターに直撃弾を喰らって炎上する明華の四式改が映し出される。
「ささっ早く!早く!」
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