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第十四章 法術師と言う存在

いつもの喧嘩

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 がらんとした食堂で、誠は天井を向いて自分の無力さを実感していた。

「結局、タコ殴りですか」

 そんな誠をカウラは缶コーヒーを手に温かく見守っていた。

「気にするな、神前少尉。最後のミッションではあの許大佐を無力化させるところまで行ったじゃないか」 

 模擬戦の結果は無残なものだった。

 まず明華達は誠を無視してカウラ機に集中攻撃を行い、確実に仕留めてから何も出来ない誠を狩り出した。カウラが言う四本目の模擬戦でも、彼女が勝ちに乗る明華を引っ張りまわした所に、たまたま飛び出してサーベルでライフルを叩き切っただけで、中破が精一杯だった。もちろん誠がその後に残った三機から集中砲火を浴びたことは言うまでもない。

 それが実戦だったら、こうして食堂でチキンカレーをカウラと向かい合って食べることなど出来ないだろう。そう思うとどうしても誠の食が進まない。

「相手が05式と隊長向けカスタムの四式改だ。胡州第六艦隊の主力は『疾風』と『火龍』だ。性能的にはかなりこちらに分がある」 

「なに甘いこと抜かしてんだ?新米隊長さんよ」 

 カレーの皿を持ったかなめが、いつの間にかカウラの横に座っていた。

「確かに性能の差はでかい。けど、こんな使えない新人さんとご一緒するわけだ。パニクられでもしたら、怯えた新兵の流れ弾浴びて間抜け面して地獄行き、なんてことになるんだぜ?ああ、そうか。その為に叔父貴はこいつから飛び道具を取り上げたんだっけな」

 かなめはそう言うと、カレーを口の中に流し込むと言った風情で食べ始めた。

「その為に神前少尉には、接敵予定時間までシミュレーションでの模擬戦訓練のメニューを多めにとってある」 

「ふうん。それでアタシと新米隊長さんがシミュレーションの予定が入れられないと」 

 かなめはカレーを食べつつ不機嫌そうに絡んでくる。誠も彼女がそれなりの修羅場を経験して同じように新人に振り回されたことがあるのだろうかと邪推してしまっていた。

「これはクバルカ中佐の作成したプログラムだ。私にどうにかできるというものではない」 

「なんだろねえ……」

 そう言ってかなめはあきれ果てたというように頭を掻く。そして真面目な目でカウラをにらみつけた。

「アタシが言いたいのはだな。こんな役立たずに訓練させる時間があったら、アタシ等の実機搭乗による模擬戦とかやった方がより建設的だって言うことなんだよ。05式の機種転換訓練は地上の菱川重工の演習所でやったが、宇宙は初めてだ。それにあんだけの時間で慣れろって言う方が……」 

「そうか、貴様が臆病なのはよく分かった」 

 挑発するような笑みを浮かべてカウラが小声でそう言った。かなめが握っていたスプーンを親指で簡単に折り曲げた。警備部の猛者の雑談で、かつて彼女が『胡州の山犬』と呼ばれていた凄腕だということは誠も知っていた。そんな彼女らしい残酷さを帯びた視線がカウラのそれと鉢合わせしている。誠はこの場をどう切り抜けるか策をめぐらすが、二人の険悪な雰囲気に飲まれて何も出来ないでいた。
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