レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第十三章 戦いの前の静かさ

ハンデだらけの摸擬戦

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「ちょっとシミュレーションルームに寄るとするか」

 カウラの言葉に誠は静かにうなづいた。

 ハンガー近くの熱気のようなものが居住区の中心に向かうにつれて涼しい風へと変化していく。

「先生!いらっしゃい!」 

 誠とカウラがシミュレーションルームに入ると、すぐにパイロット用スーツを着たアイシャが声をかけてきた。胸を強調するようにも見える体にフィットしたウェットスーツのように見える。それを着ていて不自然に見えないところを見れば、確かにアイシャがパイロット出身であることが良くわかった。彼女の髪の色に合わせるような銀色と紺の色が精悍なイメージを誠に植えつける。

「アイシャ!貴様が何でそんな格好をしている?」

 カウラはいきなり不機嫌になり、ニヤニヤ笑っているアイシャをにらみつけた。 

「ご挨拶ねえカウラちゃん。私もパイロット経験あるんだから。それに私だけじゃないわ」 

 ついたての向こうから歩いてきたのは、明華、マリア、そしてパーラだった。

「確かベルガー大尉の端末にここの予定表入れといたはずだけど、まだ見てないの?」 

「先ほどのメールはこの件だったのですね。許大佐」 

「そういうわけだから。ベルガーはそこのモニターで観戦でもしていけ」 

 マリアはそう言うとシミュレーターに乗り込んだ。

「そう言う事なら自分も……」 

 明らかにアイシャを意識しながらカウラがつぶやく。それを見てアイシャの表情がぱっと明るくなる。

「そうね。じゃあカウラもやっていけば?いいですよね?許大佐、マリア」 

「ああ、いいだろう」 

 きつい視線を浴びせる明華と、アイシャはとぼけるようにしてシミュレーターに乗り込む。パーラは呆れたような調子で、隣に並んでいるシミュレーターの扉に手をかけた。

「別に二人ともその格好でいいぞ。それとベルガー。貴様は現役なんだ。ちょっとは手加減しろ」 

 そう言い残してマリアはハッチを閉じる。取り残されたパーラも、苦笑いを浮かべながらシミュレーターに乗り込んだ。

「神前少尉。それでは我々もやるぞ」 

 釈然としない。そんな顔をしてカウラもシミュレーターに乗り込んだ。誠もその後に続く。

 誠は長身を折り曲げるようにして乗り込んだ。やはり何度座ってもシミュレータの雰囲気に慣れることができなかった。それでも体は確かに操作方法を叩き込まれていて自然と機体の機動とモニターの設定のための作業を終える。

『全員起動終了したわね。チーム分けは実働部隊対支援部門と言うことでいいな』 

 モニターの中の明華の一言にアイシャ達はうなづく。だが、相変わらずカウラは渋い顔をしていた。

『許大佐!チームバランスが悪いような気がするのですが?』 

『ベルガーは心配性だな。私達はここ5年は実戦経験してないんだぞ』 

『ですが、シュバーキナ大尉……』 

 カウラは二人の上官の提案に食い下がっている。その理由は誠も先日のシミュレーションの経験からよく分かっていた。明華、マリアともに誠を鍛えてくれた東和第三教導連隊の教官を凌ぐ腕だ。当然アイシャも素人の動きなどしてはくれない。

 前回のように戦力が拮抗していればチャンスは生まれるが、今回は数の上でも劣勢。また彼の機体の武器は腰にぶら下げたサーベル一本である。所詮、囮ぐらいの役にしか立たない。

『まあいいです。今回の出動では数の上で劣勢になるのは明白ですから』 

 あきらめた。言葉の裏からそんな気持ちが伝わってくるようにカウラがつぶやいた。

『では始める。私は四式改を使用するが、まあハンデとでも思ってくれ』 

 明華は誠達に告げた。画面の中に嵯峨の愛機の黒い四式改の姿が映る。誠はそれが『もっとも美しいアサルト・モジュール』と言う模型雑誌の特集の表紙を飾っていたことがあるのを思い出して苦笑いを浮かべた。

『重火器での制圧射撃メインか。神前少尉。許大佐は貴様が担当しろ。私は残りの三人を叩く』

 秘匿回線でカウラはそう告げた。

「ですがベルガー大尉。僕の機体は飛び道具無しですよ」

 相変わらずの弱気な誠にカウラの表情がさらに険しくなる。 

『分かっている。しかし05式の運動性能があれば、そうそう直撃弾は食らわないはずだ。もっとも、その自信がなければ別の策で行くが』 

 挑発している。それはわかる。そしてそんなカウラには言っていい言葉は一つしかなかった。

「やらせてもらいます!」 

 誠はそう言うと深呼吸をした後、操縦棹を握った。
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