80 / 1,535
第十三章 戦いの前の静かさ
ハンデだらけの摸擬戦
しおりを挟む
「ちょっとシミュレーションルームに寄るとするか」
カウラの言葉に誠は静かにうなづいた。
ハンガー近くの熱気のようなものが居住区の中心に向かうにつれて涼しい風へと変化していく。
「先生!いらっしゃい!」
誠とカウラがシミュレーションルームに入ると、すぐにパイロット用スーツを着たアイシャが声をかけてきた。胸を強調するようにも見える体にフィットしたウェットスーツのように見える。それを着ていて不自然に見えないところを見れば、確かにアイシャがパイロット出身であることが良くわかった。彼女の髪の色に合わせるような銀色と紺の色が精悍なイメージを誠に植えつける。
「アイシャ!貴様が何でそんな格好をしている?」
カウラはいきなり不機嫌になり、ニヤニヤ笑っているアイシャをにらみつけた。
「ご挨拶ねえカウラちゃん。私もパイロット経験あるんだから。それに私だけじゃないわ」
ついたての向こうから歩いてきたのは、明華、マリア、そしてパーラだった。
「確かベルガー大尉の端末にここの予定表入れといたはずだけど、まだ見てないの?」
「先ほどのメールはこの件だったのですね。許大佐」
「そういうわけだから。ベルガーはそこのモニターで観戦でもしていけ」
マリアはそう言うとシミュレーターに乗り込んだ。
「そう言う事なら自分も……」
明らかにアイシャを意識しながらカウラがつぶやく。それを見てアイシャの表情がぱっと明るくなる。
「そうね。じゃあカウラもやっていけば?いいですよね?許大佐、マリア」
「ああ、いいだろう」
きつい視線を浴びせる明華と、アイシャはとぼけるようにしてシミュレーターに乗り込む。パーラは呆れたような調子で、隣に並んでいるシミュレーターの扉に手をかけた。
「別に二人ともその格好でいいぞ。それとベルガー。貴様は現役なんだ。ちょっとは手加減しろ」
そう言い残してマリアはハッチを閉じる。取り残されたパーラも、苦笑いを浮かべながらシミュレーターに乗り込んだ。
「神前少尉。それでは我々もやるぞ」
釈然としない。そんな顔をしてカウラもシミュレーターに乗り込んだ。誠もその後に続く。
誠は長身を折り曲げるようにして乗り込んだ。やはり何度座ってもシミュレータの雰囲気に慣れることができなかった。それでも体は確かに操作方法を叩き込まれていて自然と機体の機動とモニターの設定のための作業を終える。
『全員起動終了したわね。チーム分けは実働部隊対支援部門と言うことでいいな』
モニターの中の明華の一言にアイシャ達はうなづく。だが、相変わらずカウラは渋い顔をしていた。
『許大佐!チームバランスが悪いような気がするのですが?』
『ベルガーは心配性だな。私達はここ5年は実戦経験してないんだぞ』
『ですが、シュバーキナ大尉……』
カウラは二人の上官の提案に食い下がっている。その理由は誠も先日のシミュレーションの経験からよく分かっていた。明華、マリアともに誠を鍛えてくれた東和第三教導連隊の教官を凌ぐ腕だ。当然アイシャも素人の動きなどしてはくれない。
前回のように戦力が拮抗していればチャンスは生まれるが、今回は数の上でも劣勢。また彼の機体の武器は腰にぶら下げたサーベル一本である。所詮、囮ぐらいの役にしか立たない。
『まあいいです。今回の出動では数の上で劣勢になるのは明白ですから』
あきらめた。言葉の裏からそんな気持ちが伝わってくるようにカウラがつぶやいた。
『では始める。私は四式改を使用するが、まあハンデとでも思ってくれ』
明華は誠達に告げた。画面の中に嵯峨の愛機の黒い四式改の姿が映る。誠はそれが『もっとも美しいアサルト・モジュール』と言う模型雑誌の特集の表紙を飾っていたことがあるのを思い出して苦笑いを浮かべた。
『重火器での制圧射撃メインか。神前少尉。許大佐は貴様が担当しろ。私は残りの三人を叩く』
秘匿回線でカウラはそう告げた。
「ですがベルガー大尉。僕の機体は飛び道具無しですよ」
相変わらずの弱気な誠にカウラの表情がさらに険しくなる。
『分かっている。しかし05式の運動性能があれば、そうそう直撃弾は食らわないはずだ。もっとも、その自信がなければ別の策で行くが』
挑発している。それはわかる。そしてそんなカウラには言っていい言葉は一つしかなかった。
「やらせてもらいます!」
誠はそう言うと深呼吸をした後、操縦棹を握った。
カウラの言葉に誠は静かにうなづいた。
ハンガー近くの熱気のようなものが居住区の中心に向かうにつれて涼しい風へと変化していく。
「先生!いらっしゃい!」
誠とカウラがシミュレーションルームに入ると、すぐにパイロット用スーツを着たアイシャが声をかけてきた。胸を強調するようにも見える体にフィットしたウェットスーツのように見える。それを着ていて不自然に見えないところを見れば、確かにアイシャがパイロット出身であることが良くわかった。彼女の髪の色に合わせるような銀色と紺の色が精悍なイメージを誠に植えつける。
「アイシャ!貴様が何でそんな格好をしている?」
カウラはいきなり不機嫌になり、ニヤニヤ笑っているアイシャをにらみつけた。
「ご挨拶ねえカウラちゃん。私もパイロット経験あるんだから。それに私だけじゃないわ」
ついたての向こうから歩いてきたのは、明華、マリア、そしてパーラだった。
「確かベルガー大尉の端末にここの予定表入れといたはずだけど、まだ見てないの?」
「先ほどのメールはこの件だったのですね。許大佐」
「そういうわけだから。ベルガーはそこのモニターで観戦でもしていけ」
マリアはそう言うとシミュレーターに乗り込んだ。
「そう言う事なら自分も……」
明らかにアイシャを意識しながらカウラがつぶやく。それを見てアイシャの表情がぱっと明るくなる。
「そうね。じゃあカウラもやっていけば?いいですよね?許大佐、マリア」
「ああ、いいだろう」
きつい視線を浴びせる明華と、アイシャはとぼけるようにしてシミュレーターに乗り込む。パーラは呆れたような調子で、隣に並んでいるシミュレーターの扉に手をかけた。
「別に二人ともその格好でいいぞ。それとベルガー。貴様は現役なんだ。ちょっとは手加減しろ」
そう言い残してマリアはハッチを閉じる。取り残されたパーラも、苦笑いを浮かべながらシミュレーターに乗り込んだ。
「神前少尉。それでは我々もやるぞ」
釈然としない。そんな顔をしてカウラもシミュレーターに乗り込んだ。誠もその後に続く。
誠は長身を折り曲げるようにして乗り込んだ。やはり何度座ってもシミュレータの雰囲気に慣れることができなかった。それでも体は確かに操作方法を叩き込まれていて自然と機体の機動とモニターの設定のための作業を終える。
『全員起動終了したわね。チーム分けは実働部隊対支援部門と言うことでいいな』
モニターの中の明華の一言にアイシャ達はうなづく。だが、相変わらずカウラは渋い顔をしていた。
『許大佐!チームバランスが悪いような気がするのですが?』
『ベルガーは心配性だな。私達はここ5年は実戦経験してないんだぞ』
『ですが、シュバーキナ大尉……』
カウラは二人の上官の提案に食い下がっている。その理由は誠も先日のシミュレーションの経験からよく分かっていた。明華、マリアともに誠を鍛えてくれた東和第三教導連隊の教官を凌ぐ腕だ。当然アイシャも素人の動きなどしてはくれない。
前回のように戦力が拮抗していればチャンスは生まれるが、今回は数の上でも劣勢。また彼の機体の武器は腰にぶら下げたサーベル一本である。所詮、囮ぐらいの役にしか立たない。
『まあいいです。今回の出動では数の上で劣勢になるのは明白ですから』
あきらめた。言葉の裏からそんな気持ちが伝わってくるようにカウラがつぶやいた。
『では始める。私は四式改を使用するが、まあハンデとでも思ってくれ』
明華は誠達に告げた。画面の中に嵯峨の愛機の黒い四式改の姿が映る。誠はそれが『もっとも美しいアサルト・モジュール』と言う模型雑誌の特集の表紙を飾っていたことがあるのを思い出して苦笑いを浮かべた。
『重火器での制圧射撃メインか。神前少尉。許大佐は貴様が担当しろ。私は残りの三人を叩く』
秘匿回線でカウラはそう告げた。
「ですがベルガー大尉。僕の機体は飛び道具無しですよ」
相変わらずの弱気な誠にカウラの表情がさらに険しくなる。
『分かっている。しかし05式の運動性能があれば、そうそう直撃弾は食らわないはずだ。もっとも、その自信がなければ別の策で行くが』
挑発している。それはわかる。そしてそんなカウラには言っていい言葉は一つしかなかった。
「やらせてもらいます!」
誠はそう言うと深呼吸をした後、操縦棹を握った。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第五部
遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。
訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。
そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。
同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。
こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。
誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。
四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。
そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。
そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?


もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる