レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第十一章 司法局実働部隊運用艦『高雄』

まるでピクニックにでも行くように

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 東和宇宙軍と東和海軍共用のの軍港、新港。基地の敷地の駐車場に誠は汎用四輪駆動車を停めた。かなめが守備隊と一悶着を起こしたのを忘れたいと思いながら、誠は車のサイドブレーキを引く。

「はい、運転ご苦労!荷物はとりあえずお前が運べ」 

 かなめは無情にもそう言い残すと、まるで巨大な壁のように見える接岸している運用艦『高雄』の方へ走っていった。誠は少しうんざりしながら、初めて見るその巨大な汎用巡洋艦を感心した視線で見上げた。

 全長365メートル。そして水面から聳え立つその高さは優に十階建てのビルよりも高く聳え立っている。その運用をアイシャ貴下の運行部の20名前後で行っていることが、誠には信じられなかった。

「神前少尉。荷物なら私も手伝おうか?」 

 運転席から降りて数歩歩いたまま、ただ目の前の重巡洋艦の容貌に見入っている誠に、カウラはそう言って車の後ろの扉を開けようとした。

「いいです。これも仕事のうちですから」 

 彼女の言葉で気がついた誠は感謝の意味も込めてそう言った。心のうちではカウラの手伝う姿を想像しながら。

「そうか?そう言うのならよろしく頼む」 

 カウラはそんな誠の心など読まず、そのまま艦の方に歩いていってしまった。誠は思わず肩透かしを食ったように肩を落とす。

「ああ、これ一人で運ぶのかよ……」 

 バンの後ろに詰まれた荷物の山を見て呆れながら、誠はとりあえず荷物を降ろし始めた。そしてようやく自分の着替えなどが入ったバッグに手をかけたとき、背後に電動モーター式の大型トラックが停車する音が聞こえた。

「精がでるな。おいイワノフ少尉!手の空いてるものと一緒に手伝ってやれ」 

 振り向くとトラックの助手席から降りた警備部長のマリア・シュバーキナ大尉が、にこやかな笑顔で荷台から降りる部下に声をかける。見事な統制でマリアの前に並んだ警備部の数人が、置いてある半分以上がかなめのものである荷物を、手早く抱えて船の方に小走りで向かった。

「シュバーキナ大尉、すみません」 

 誠は安堵の表情でそのギリシャ彫刻のように整って見えるマリアの顔色を伺った。

「別に遠慮することは無い。それより短気な西園寺の機嫌のとり方でも考えておくといいだろう」 

 部下達が次々と荷物を艦に運ぶのを見ながらマリアはそう言った。

「シュバーキナ大尉、あの……」 

「なんだ?どうせ隊長の腹の内でも聞き出そうというのだろ?私もここに来て一年と少しだ。それほど分かるわけもない。それに君は子供の時から隊長に剣の稽古をつけてもらっていたそうじゃないか?たぶん君の方が隊長の考えそうなこと分かるんじゃないかな」 

 マリアはそう言うとやわらかい笑みを浮かべた。しかし目つきだけは鋭く、誠の方を見つめている。

「しかし警備部が乗艦するということは、白兵戦の可能性があるということではないんですか?」

 誠は先日嵯峨に告白された今回の演習を装った襲撃作戦に、彼女達警備部の出番があるのではないのかと思いながら、恐る恐る尋ねてみた。 

「この仕事は常に最悪の事態を考えて行動することが重要なんだ。デブリの山とある古戦場という場所が場所だ。本当に演習に適しているのかどうかもはっきりしない。それに君は嵯峨隊長から何か聞いているんじゃないか?」

 マリアの逆の質問に誠はうろたえながらうなづいた。特に深く詮索もせずマリアはほほえみを浮かべる。

「まあ本当に演習だけで終わるかもしれん。すべては隊長の筋書きの上だ」 

 マリアも若干だが嵯峨の腹のうちは読めているのかと思いながら、誠は自分の荷物を手に取るとそのまま資材の搬入を行っている通路目指して歩く彼女について歩いた。

「ああ、噂をすれば影だ。あそこに居るの隊長じゃないのか?」 

 マリアが指差す所、武器の類が入っているような木箱の山の手前で、タバコを燻らせながらこちらに向かって手を振っている嵯峨の姿があった。誠は招かれるままに、マリアと一緒に歩いていった。

「よう!良いところに来たじゃないか」

 嵯峨は木箱を叩きながらそう言った。

 木箱には『沖取り新鮭』と大書きされている。その後ろには野菜のダンボールが山積みされていた。

「何しているんですか?隊長」 

 マリアが素早くそう返した。嵯峨が運んできた荷物の中身を呆れていると言う渋い笑顔がマリアの整った顔立ちに浮かんでいた。

「なあに、遼南土産が届いてね。これでちゃんちゃん焼きでもやろうと思ってさ。明華にはちゃんとバーベキュー用具一式そろえるように頼んであるんだけど、どうせ今は搬入物資の点検に追われてそれどころじゃないと思うから……」 

 そう言いながら嵯峨は再びマリアのところに集まってきた後続の警備部員達に目を向ける。

「それで警備部でこれを運べと?」 

 マリアは明らかに呆れ返ったような表情を浮かべる。

「そんな顔するなよ。せっかくの美人が台無しだぜ?神前の、とりあえずそれ一つ持ってこい」

 嵯峨は鮭の入った木箱を叩くと艦の連絡橋の方に歩き始めた。慌てて誠は木箱を手にするが、持っていた荷物が地面に置き去りにされるのを見つめる。

「安心しろ。残りはうちで運ぶから」 

 そう言ってマリアは誠を送り出した。木箱を持って誠は嵯峨の後ろにたどり着いた。
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